大好きな幼馴染が急に俺を避けだしたんだけど、全然デレがかくしきれてなくてなんなら好きだと言っちゃってます

第26話 頑張る、私

　放課後、俺たちは敢えて皇さんのところへ向かった。

「皇さん、ちょっといいかな」

「何？　さっきの仕返しでもするっていうならどうぞ」

「そうじゃない。紫月が話があるって」

「……何よ」

　あからさまに嫌そうな態度をする皇さんに、紫月は俺の後ろからでてきて話を切り出す。

「……ごめんなさい」

　まず、謝った。

　ちなみに、俺は紫月が何をどう話したいかまでは聞いていないし助言もしていない。

「私、本当に何も知らなくて。でも、わざとじゃないにしても、私のドジのせいでこんなことになって……ごめんなさい！」

　バッと、長い銀髪を垂らしながら頭を下げる。

　俺も、ほかの連中も黙って皇さんの反応を見守る。

「……なにそれ、謝ったらなんでも済むと思ってるの？」

「う、ううんそういうわけじゃ、ないけど」

「あなた、自分がドジだってことをいい風に使ってない？　それで全部許されるって、そういう態度が……腹が立つのよ」

　それに関しては皇さんのいうことが半分正しい。

　紫月はドジだから、天然だから、ポンコツだからっていうことを彼女の周りの連中はみな知っている。

　知ってて、許す。

　かわいいし、わざとじゃないし、別に被害もないから。

　俺も、そうやってあいつをいつも甘やかしてきた。

　でも、半分は違う。

「……私、自分がドジだって自覚してる。でも、それで迷惑をかけてるってことに、いつも申し訳ないって思ってる」

　紫月は泣きそうになりながらも、しっかり答える。

　そうだ、その通りだ。

　いくらかわいくても、自分の行動で人に迷惑をかけて許されるのはおかしい。

　それは紫月自身、一番よくわかっている。

　そして、努力してる。

　頑張って人並みになろうと。

　自分がかわいいと甘やかされても、そんなことに甘えないと。

　頑張ってるんだ。

「……努力したって、ダメなものはダメじゃない。結局、あなたはかわいいから何でも許されるのよ。で、ほしいものは全部もってっちゃう。でもいい人ぶって反省してるふりはして、って？　なにそれ、都合よすぎないかしら」

　皇さんは、また少し語気を強める。

　紫月はぴくっとなりながら高圧的な彼女におびえるも、しかし目はそらさない。

「……私だって、好きな人に気持ちを伝えるのってすごく怖かった。でも、逃げなかったもん。無視したり、つんつんしたり、お顔見れなくなってもずっと……」

　最初は逃げてたけどな、と。

　俺はそんな野暮なツッコミを心のなかでしながらも、確かになんとかしようと頑張ってた紫月を知っていた。

　最後には逃げ出さず俺のところに来てくれる。

　だからこうして俺たちは今、付き合っていられるんだ。

　紫月が、逃げなかったから。

「……じゃあ私が逃げたっていいたいの？」

「て、手紙は私も考えたけど……ラインとかもいいかなって思ったけど……やっぱり好きな人にはちゃんとお顔みて伝えたほうがいいって、お、思ったもん」

「自分が人の手紙を紛失したことは棚に上げてよく言うわねそんなこと」

「そ、それはごめんなさい！　でも、好きな人がいるなら、ええと、ち、ちゃんと言ったほうが……う、ううんごめんなさい」

　さすがの紫月も何を言ってるかわかったのだろう。

　皇さんが、俺のことを好きだったとして。

　そんな俺と付き合ってる自分が一体どの立場から言ってるんだと。

　まあ、言いたいことはそうじゃなくても、実際高みの見物にしかならない。

　そして黙ってしまう。

「……」

「ふん、いいわねあなたは自分の気持ちが相手に伝わったようで。私は……私だって、こんな形で伝わってほしくなんかなかったわよ！」

「そう、だよね……うん、ごめんなさい、私のせいで……」

　紫月は泣いた。　

　みんなはそんな彼女を見て動揺したり、同情もしていた。

　俺も、すぐにそばに寄って慰めてやりたかった。

　ただ、今は二人で話してる時間だ。

　邪魔はできない。

「泣いたら許してもらえるとでも？」

「私のせいで皇さんにつらい思いさせたって思ったら、辛くて……」

「……なにそれ、なんで私のために泣くのよ。あんたのせいでしょ」

「でも……でも……」

「……あきれた、もういいわよ」

　机に教科書をたたきつけて。

　皇さんはふうっと深く息を吐いた。

　そして、心底呆れた様子で回りを見渡してから、「私がばかみたいじゃん」と、独り言のようにつぶやく。

「四条さん、私はあんたのこと許したわけでもなんでもないから。でも、反省してる人間を責め上げるほど私もくずじゃないわ。じゃあ、また。あと、神前君」

「え、俺？」

「この子、甘やかさないでよね。わかった？」

「あ、ああ」

「じゃあね」

　いくわよ、と皇さんがいうと、いつも彼女を取り巻く数名の女子が彼女についていく形で、教室を出ていく。

　そしてようやく、皇さんとの話を終えた紫月はその場にへたりこむ。

「……あうう」

「紫月、大丈夫か？」

「う、うん。でも、あれでよかったの、かな」

「いいよ、十分だよ。俺こそ、何もしてやれなくてごめん」

「ううん、いいの。たまには自分でなんとかしないと、だか、ら……」

「お、おい紫月？」

「……むにゃむにゃ」

「寝ちゃった……」

　俺にもたれるように、紫月の充電が切れた。

　その様子を心配そうに見守る連中もいたけど、俺はそんな連中の目など知らんふりで彼女を背負って。

　一緒に教室を出た。