第46話 大場家の親子喧嘩

「がああああああああああああ‼ 折れる折れる、骨が折れる! どうして変身が溶けちゃったのォォォ⁉」


 だが、大場家の家族喧嘩はまだ終わっていない。

 丈が変身を解除したことにより、連動した湊の変身も解除されて、生身の状態で魔法の重力波をモロに受けていた。

「あ、やば」

 湊の腕があらぬ方向に曲がり始めて流石にやばいと思ったのか、ネリネブーケが重力波を解除する。

「ハァ……ハァ……丈のやつめ、勝手に変身を解除しやがって……」

「変身を解除したんじゃなくて、サンシャインブーケに殺されちゃったんじゃないの? エンシェントフェアリーズと同じように、片方の変身が解けると、もう片方も解けるんでしょう?」

 ネリネブーケの嘲笑。

「丈がやられるなんてありえない。丈は強い、そう簡単にやられる男ではないと僕は信じている」

「…………」

 だが、湊は即否定する。

 そして、満身創痍でボロボロになりながらも湊は立ち上がる。

「それに、君たちの事も、信じている。正義の魔法少女だった君たちが本当に人を殺すなんてありえないよ、闇に染まろうと、夏美ちゃんも、真冬もいい心は絶対にある」

「………チッ」

 夏美は不愉快そうに舌打ちをした。

 湊を睨みつけるが、湊の事を裏付けるように、変身していない湊に手を出そうとしない。

「真冬、一つお前に気づかされたよ。僕は自己中心的でわがままな人間だった。自分のエゴを押し付け、お前から大切な使命を奪おうとしていた。闇落ちしていたのは僕の方だったのかもしれない」

「…………」

 父の言葉を、ネリネブーケは黙って聞き続けた。


「僕はね、魔法少女になりたかったんだ」


「…………」

 ネリネブーケの表情が歪んでいく。



「子供の頃からの夢じゃない。お前が生まれた後からできた夢だ。女の子が好きそうだからと思って、『魔法少女マジカル・ナギ』を見せたら、お前もはまっていたけど、僕もはまってね。お前のお母さんが亡くなった悲しみを埋めてくれるようだったよ。それから魔法少女に憧れて、こんな強くて純粋な心を持ちたいと生きる目標にしていた。だけど、段々、心だけじゃなくて外見も魔法少女になりたくなってきてね。真冬は気が付かなったみたいだけど、エンシェント……折れたステッキをしまってある押し入れには成人男性用の『魔法少女マジカル☆スミー』変身後のコスプレ衣装を入れていてね。実際に着てはいないんだけど、実は大人になってから割と本気で魔法少女というヒーローに憧れていたんだ」



「…………はぁ」

 父の告白を、最初は黙って聞いていた真冬だったが、段々と悲しそうに目を伏せて、耳を塞いでいった。

「だけど、僕は大人の男で、大場真冬の父親だ。子供のやりたいことを奪ってまでやるのは大人としてみっともなさ過ぎた。謝るよ、君の仕事を盗ってごめん。本当にごめんなさい」

「私が何で怒っているのか、わかってる?」

 ジッと探るように湊を覗き込むネリネブーケ。

「ああ、僕は、君を信じていなかった。魔法少女が好きなくせに、その魔法少女を信じていなかった。だから、君からとりあげようとしたんだ。そして、自分がヒーローになろうとした」

「………うん」

「一時の夢を見せてくれたネオ君とフェアリージュエル、そして、真冬。お前には感謝している。魔法少女になってくれてありがとう。これからも街を守り続けてくれ」

 フェアリージュエルを握り締めた手を真冬に伸ばす。

「もうこれからはフェアリージュエル勝手に盗らない?」

「ああ、今日みたいに昼間に人前で変身しようなんて絶対にしない」

 ネリネブーケは若干ためらったが、湊が伸ばした手の下に自分の手のひらを差し出す。

 湊がフェアリージュエルを放し、ネリネブーケの手の上にフェアリージュエルが乗る。

「あ……」

 フェアリージュエルから発せられる光が、ネリネブーケの黒いドレスを消し去っていく。

 胸の中心からダークシードが零れ落ちて、落下の衝撃と共に砕ける。

「良かった。元に戻って」

「うん、お父さん。こっちこそ迷惑をかけてごめんね」

 元に戻った真冬はぺこりと湊へ頭を下げた。

 湊は手を振り、

「いいんだ。それより、エンシェントステッキを呼んでごらん」

「え……まさか。エンシェントステッキ」

 光が真冬の手の平の上に収束していき、白い星のオブジェが付いたステッキとなる。

「これって、壊れたはずじゃ……」

「だから、応急処置だけ」

 よく見るとステッキの真ん中にひびが入って、折れないように鉄板とネジで固定してあった。

「でも、ちゃんと消えるし、呼んだら出てくるし故障は治ったみたいだぞ。勝手に壊して悪か……お~い、聞いてるのか?」

 エンシェントステッキを手にした瞬間、真冬は商店街の中心へ向けて駆けだした。


「ありがとう! エンシェントステッキがあればみんなの記憶が消せるわ! 今日の事全部忘れさせないと!」


 大急ぎで杖を振り回して走っていく真冬の背中を見つめて、湊は肩をすくめた。

「全く、魔法少女は大変だ」

 そして、さわやかな笑顔を浮かべて空を見上げた。

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