第44話 親のエゴ

 夏美を探して、所咲の街中を駆け回っている丈。

「どこにいるんだ? 夏美……」

 ビルや屋根の上を跳び回り、地上に夏美の姿がいないか探していく。

「夏美⁉」

 廃ビルに入っていく黒いドレス姿の少女を発見する。

 丈もそのビルの中へと突入する。

 郊外にあるうち棄てられた廃ビルだった。ガラスはすべて割れて、がれきが散らばり、人どころか生き物気配がない。閑散としたビルだ。

 過去には人が住んでいたマンションだったというから幽霊のうわさが絶えないビルで、なるべく長居はしたくない。

 娘がここにいるというのなら尚更早く連れ出したい。

「夏美~! どこにいるんだ、夏美~!」

 丈が呼びかけてもやまびこのように反響するばかりで、夏美から帰ってくる声はない。

「…………」

 見間違いだったかと、諦めて他を探そうと思った時だった。


 チャキ……!


 かすかに背後から金属音が聞こえた。

 振り返る。

「ここだよ、パパ」

 刀を握り、周囲に何本もの槍や斧のような刀剣武器を林のように床にさして待っているサンシャインブーケがそこにいた。

「夏美どうしてこんな場所に……」

「ここなら死んでも大丈夫でしょ? 血が飛び散っても誰も使ってない場所だから死んでも迷惑がかからない」

「そういうことか……父親を殺してその後の算段をしているんじゃないよ」

「そんなフリフリな格好している男を父親だって認めるわけないでしょ!」

 サンシャインブーケは足先で槍を拾い、それを器用にキャッチし、丈へ向けて投げ放った。

「くっ……!」

 丈は懐からマシンガンを取り出して槍を撃ち落とす。

 銃口を一瞬、サンシャインブーケへと向けたが、ためらい、彼女の周囲に散らばっている武器に当てていき破壊していく。

「へぇ、そうくるんだ」

 刀身が砕け、金属片が宙を舞う中、刀を振り上げ、丈へ向けて切りかかる。

「別に私を撃ってもいいのよ。こっちは遠慮なく切りかからせてもらうから!」

「くっ……!」

 降りかかる刀を銃で受け止める。

「やめろ、夏美! いいから家に帰るぞ! いつまでもわがままを言ってるんじゃない!」

「そうやって、パパは子供扱いして……私がどうして絶望したか、本当に事は何一つわかっていないんでしょ⁉」

「本当の事?」

 魔法少女の格好をしたから傷つき、絶望したのではないのか?

 考えている隙にサンシャインブーケの蹴りが腹に刺さり、床を転がる。

「ぐ、は……!」

「ねぇ、パパ。どうして魔法少女に変身しようと思ったの? どうしてそうやって魔法少女に変身し続けているの?」

 倒れる丈を覗き込んでサンシャインブーケが尋ねる。

「それは、湊に誘われ……」

「それはきっかけでしょう? ねぇ、どうして?」

 丈は思い返す、初めて湊に誘われてフェアリージュエルを手にした時のことを、

「それは、夜にラファエロが出ていて、俺はお前を安心して眠らせるために……」

「じゃあ、どうして、この間は……昼なのに変身して戦ったの?」

「それは……娘に戦わせたい親なんているわけがないだろう」

「それよ」

 顔を上げる丈。

 夏美は、怒っていた。

「パパは結局私を信じていないのよ」

 素の感情で父親に怒りを向けていた。

「違っ、それとこれとは話が別だろう?」


「習い事はこれをやれ、何時までには帰れ、夜更かしはするな。一々一々私に小言を言って締め付ける。そんなパパが私、だぁ~い嫌い……」


 段々とサンシャインブーケの声のトーンが下がっていく。

「私のやりたいこと、本当の気持ち、パパは何もわかってくれない。だから、私はパパを許せないの」

 床に落ちている斧を拾い上げ、丈へ向けて振り降ろした。


          ♥       ♥      ♥


 商店街の端で、湊はネリネブーケに殴られ続けていた。

「ぐっ……がっ……!」

 棒立ちのまま、サンドバッグのようにネリネブーケの蹴りを受け続ける。

「本当に反撃しないの⁉ 反撃しないと死んじゃうんじゃない⁉」

 ロットンハウタニアの衣装はボロボロになり、湊の皮膚は切り裂かれ、血が当たりに飛び散っている。

「死なない。娘を、世界を守るために、僕はこんなところで死にはしない!」

「こんなところ? そうなのね、やっぱりお父さんにとってはその程度の事なのね。娘の闇堕ちって」

 ネリネブーケの攻撃が止む。

「え?」

 湊としては完全に無意識で言ったこと、そこ言及されるとは思わず、キョトンとしてしまう。

「どうして、変身したの? 皆の前で」

 真剣な目で真冬がまっすぐ湊を見つめて尋ねる。

「決まってるだろう、お前を助けるためだ。お前の全力を受け止めるために僕は変身したんだ」

「違うね。お父さんはみんなに認められたくて変身したんだ」

「…………」

 ハッとした。否定できなかった。

「あなたは娘を救うためという大義名分を手に入れて、自分の英雄願望を満たしたいだけなんだ。だから、変身しなくていい状況でも変身する」

 ネリネブーケが駆け出し、湊を蹴りつける。

 延髄にネリネブーケの右足が当たる。

「ぐ……」


「エゴの塊なのよ! 私のためと言っておきながら自分が魔法少女になりたいだけなんでしょ! 本当は私の事なんて、どうでもいいんだ!」


 湊の延髄を抉っている右足が邪気を帯び、黒く輝く。


「ネリーグラビティ」


 黒い邪気の爆発が起き、ネリネブーケの右足から放たれる重力波で湊が地面に押し付けられる。

「があああああ……!」

「結局自分の事しか考えていないんだから……」

 地面に沈む湊をゴミを見つめる目で見つめ続けた。

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