第43話 戦う姿というのは必ずしもかっこいいものではない
ローズブーケとネオが唖然とする中、湊と丈の服が弾けて消える。
ポカンとなる商店街の人々、彼らが見てる中、湊と丈の体を光の帯が包み込む。
ギリッとネリネブーケがギリリ……と歯を鳴らす。
「や、やりやがったなぁぁぁぁぁっっっ‼ クソオヤジィィィィィィィ‼」
「コロス………!」
変身途中を狙って、ネリネブーケ、サンシャインブーケが襲い掛かる。
ネリネブーケの両足に邪気がまとわりつき、サンシャインブーケが何もない空間から刀を生み出し、握り締める。
「待て、まだ変身途中……がっ!」
「やめろ、夏美……!」
体の変身が間に合わず、右手だけフリルを纏いネリネブーケの攻撃を受け止める湊に、下半身だけスカートに包まれて、ひらりひらりとサンシャインブーケの攻撃をかわす丈。
「変身なんかさせるかぁ~~~~~~‼」
変身する前に殺すという激しい殺意が二人の魔法少女からほとばしり、凄まじい拳と刀のラッシュが続く。
湊はネリネブーケの攻撃を受け止めながら変身していく。
左手で回し蹴りを受け止め、その時の衝撃に吹き飛ばされないように右足に魔法のブーツをはき踏ん張り、次に来る跳び蹴りを左足にまとわせた白いストッキングで受け止めていく。
そして、胴体にドレスを纏い、頭にヘッドドレスがセットされ、魔法少女ロットンハウタニアが完成する。
丈もサンシャインブーケの攻撃をかわしながら、下半身から上半身がフリルのついたドレスに包まれ、くるりと一回転して、手袋にリボンがつけられ、魔法少女ロットンラフレシアが完成する。
「ロットンハウタニア‼ ミナト!」
本名を名乗る、短い名乗り。胸元に当てた右腕の、親指を自分に向けた最小限の決めポーズをとる湊。
「ロットンラフレシア‼ ……出動!」
名乗りと共に敬礼のポーズをとり、ためた後にファイティングポーズをとる丈。
「やめろって!」
「言ってる!」
名乗りをやめさせようと、魔法少女に変身した父親たちへ襲い掛かる。
が、丈のスカートの下から手りゅう弾がボロボロと落ちて、周囲へ散らばっていく。
「「魔法少女……マジカルッッッッ‼ ロットンッッッッッ‼」」
名乗りと共に、湊たちの周囲が大爆発を起こした。
地面に落ちた手りゅう弾が一斉に爆発したのだ。
「きゃあああああああああ‼」
巻き込まれてネリネブーケとサンシャインブーケが吹き飛ばされていく。
「え……あれ……」
爆発の煙が晴れ、人々の目にゴスロリのファッションをした二人のおっさんの姿がはっきりと見えてくる。
「「ザルクシックス」の大場さんだよな?」
「もう一人の人は所咲警察署の刑事さんよ。ウチの子とお子さんが同じクラスなの」
マジカルロットンは決めポーズをとったまま商店街の衆目を一身に受ける。
湊はきりっとした表情を保ったままだが、丈は顔を真っ赤にしている。
「どうしてあんな格好……うおええええええ!」
遂には吐き気を催す人間が出てきた。
吐く人間は次々と増え続け、多くの人が嫌悪感に顔を歪ませた。
「あ、あんた‼ 戦うにしてももうちょっとまともな格好があるでしょう!」
パン屋のおばちゃんが正論を飛ばす。
「湊、とっととここから逃げて夏美たちを元に戻すぞ! とにかく俺はここから逃げ出したい!」
決めポーズを解除して、若干涙目になりながらネリネブーケたちが吹き飛んだ先へ向かおうとする丈。
湊は、商店街の人々を見据え、
「パン屋の山本さん! 戦う姿というのは必ずかっこいいものではありません! 時には醜く、汚らしい時もあります! ですが、人を守るためならばどんな姿でもためらわない。それが戦う男というものです!」
「お、大場さん……」
パン屋のおばちゃんが拳を握りしめる。
「わかってください、見ていてくださいとは言いません。ですが、これが戦う僕の、娘を助けるための父親の背中です!」
人々に背を向けて歩み始める。
「いいこと言った風だけど、その恰好をしている説明になってなくない?」
「…………」
ぼそりとつぶやくおばさんの声を背に、湊は歩みを止めず進む。
遠くから粉塵が上がる。
上空を跳躍する人影。湊と丈の前に着地する。
「やってくれたわね………絶対に許さない。これで私は二度と学校に行けないどころかこの街にも帰ってこれなくなったわよ……」
ネリネブーケが湊を睨みつける。
顔を羞恥に真っ赤にし、目に涙をためている。
「真冬だけ……夏美ちゃんはどこだ?」
「知らないわよ! あんたたちの相手をするのが嫌で帰ったんじゃない⁉」
そんん訳はないだろう。あれだけ丈を目の敵にしている夏美があの程度で心を折って帰るとは思えない。
「丈、真冬と夏美ちゃんは別々に行動しているようだ。僕たちも別れよう」
「わかっている。俺は夏美を探す。家族の問題だ。それぞれが一対一で向かい合わなければいけないだろうからな」
丈が跳躍し、商店街の屋根の上に立ち、駆け出す。
ネリネブーケは丈を追うことはなく、ただ目で追って、姿が見えなくなると湊に視線を戻した。
「ふぅ……まぁいいわ。私もお父さん、いいえ、大場湊には話があったし……」
ネリネブーケは小石を拾い、握り締めて湊へ向けて突き出す。
「拳でね」
ギリリと握りしめると、手の中にあった石がつぶれてパラパラと地面に落ちる。
湊は首を鳴らして、手足をほぐすようにブラブラと揺らした。
「古代から、魔法少女の本気の語り合いの場は常に戦いの場でもあった。今回もそれに倣うのだろう。だが、僕は父親でお前は娘だ」
「だから?」
体を十分にほぐすと湊は手足をだらんと垂らした。
「僕は娘を殴らない。魔法少女は拳で語るが、父は黙って子供に背中を見せるだけだ。この場は真冬。お前が僕に話を聞かせるだけの場所だ」
「……ハッ、こっちは殺す気だっていうのに、甘いね。娘の事を何もわかろうとしていないくせにさ!」
両足に邪気を纏い、飛び上がる。
「さようなら、大場湊! もう私とあなたは家族でも何でもない‼ ただの敵同士よ!」
ネリネブーケの跳び蹴りが湊へ刺さり、両腕でガードするが、地面が抉れ、大気が歪む。
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