第33話 グンジョウとの決戦

 春奈の眼は魔法少女に変身していくおっさんたちを見ていくうちにどんどん白目になっていった。


「ソンナ、アノマジカルロットンガミナトサンタチダッタナンテ………」


 それは見たくない現実がそこにあるからか、それとも直視していては目が腐るからか。

 片言で呟いた後、ガクッと春奈の首が落ちた。 

 そのことに気が付いていない二人の魔法少女の格好をしたおっさんはビシッとグンジョウに指を突き付けた。

「来い! ラファエロの怪人‼ 速攻で方をつけてやる!」

「ふざけた格好……やはり、私の予想通りだったということですか……」

「何をごちゃごちゃと、来ないのならこちらから行くぞ!」

 グンジョウへ向けて飛び掛かる湊。

 その一撃を受け止める。

「所詮はあのエンシェントフェアリーズと同じ力、私に勝つには到底……」

「丈!」

 湊の呼びかけとほぼ同時に、シュポンと、何かが筒から抜ける音が聞こえた。

「―――? 相方がいない?」

 もう一人の魔法おっさんが消えた―――?

 グンジョウは丈の姿を探そうとした。だが、地上にもう一人の魔法中年の姿は見受けられない。

 シュオオオという排気音が接近し、

「――――ッ!」

 湊が首を横に倒した。

 彼の首があった空間を、ロケットランチャーの弾頭が通過する。

 弾頭がグンジョウの顔面に接近し、

「何⁉」

 認識したとほぼ同時にグンジョウの頭に着弾した。

「よし!」

 湊と丈はガッツポーズをし合う。丈の手には魔法で作り出したロケットランチャーが握られている。

「奇襲成功だな、結構これ作るの体力がいるから、もうこれで打ち止めだぞ」

「充分だ。短期決戦上等!」

 グンジョウの頭は爆炎に包まれ、身体が地上に落ちる。

「案外手早くいったな」

「敵が強いならそっちのほうがいい。また必殺技使えなかったが……」

 燃えるグンジョウの体。二人は勝利を確信し、背を向けた。


「必殺技、使わせてあげましょうか?」


「!」

 湊の背後にグンジョウが立っていた。

「な」


 燃えているのはグンジョウの体ではない。彼のまとっていた白い鎧だ。


 今のグンジョウは鎧を脱いだ状態で、骨組みに筋肉が付いただけのような状態。外殻をはがされた蟲の躰を晒している。

「湊!」

「ぐ――――!」

 グンジョウに蹴り飛ばされるが何とか地面に踏ん張り、地面に跡を作るだけにとどめる。

「温泉だから裸になったのかい?」

「そうですね、貴方たちのような無粋な客が入ればゆっくり湯船につかっていたかったのですが」

「先に無粋をしたのはそっちだろう」

「この姿になった私は――――速いですよ」

 鎧を脱ぎ去ったグンジョウの姿が消えた。

「――――っ⁉ どこに行った!」

「湊、後ろだ!」

 背後を振り返った時にはグンジョウの拳は頬に刺さっていた。

「く―――!」

 反撃をするが、グンジョウはその場にいない。今度は横合いから蹴りつけられる。

 高速移動による全方位から飛んでくる攻撃、湊はガードすることしかできない。

「援護を!」

 丈はスカートの内側からピストルを取り出し、グンジョウをけん制するように連射するが、全く気に留めずにグンジョウは避けつつ、湊への攻撃を続行する。

「く―――! 湊‼ 跳べ!」

 ピストルを投げ捨て、再びスカートに手を突っ込む。

「吹き飛べ!」

 丈が取り出したのは手りゅう弾。

 湊が丈の指示を察して上空へ飛び上がると、ほぼ同時に手りゅう弾が湊のいた地点に落ち、さく裂する。

 露天風呂の真ん中で爆風が巻き起こる。

「やったか⁉」

「丈、そのセリフはフラグだ」

 湊が丈の隣に着地する。

「当たるわけがないでしょう、この状態になった私に」

 グンジョウの声が上空から聞こえ、「ほらね」と湊が肩をすくませる。

 グンジョウはサウナ施設の上に座っていた。まるで試すように湊と丈に視線を落とす。

「どうする? こっちも脱ぐか?」

 物は試しと丈が袖を引っ張り魔法少女服を脱ごうとする。

「それでこちらも高速移動ができるかもしれないね。だけど、それは無理だ」

「だろうな」

「魔法少女がその衣装を脱ぐことは絶対に許されない。この衣装こそが魔法少女が魔法少女たらしめているアイデンティティなのだから。それを脱ぐなど言語道断!」

「言い切ったな。じゃあ、どうする?」

「………今こそ、必殺の時」

 湊が丈へ手を伸ばす。

「必殺技? んなもんねぇだろ?」

 丈はその手を取ろうとせずにいぶかし気な視線を湊に送るのみだ。

「そう、ない。だからこそだ」

 湊の声は自信に満ちていた。

 今までの戦闘の決着は、湊が殴りすぎて相手がいつの間にか消滅していたたり、丈のマジカル兵器が強力すぎて特に苦戦することもなく倒したりと、一度も必殺技を使っていない。

 それどころか、どんな必殺技か、二人は知りもしなかった。



「だから、どうやってもいいのだ。まだできていない必殺技だからこそ! 無限の可能性がある! 僕たちのイメージがそのまま必殺技になるのだ!」



「い、いや、決まってるよ? エンシェントフェアリーズの必殺技は『エターナル・ストリーム』っていうキック攻撃で……」

 口を挟むネオの体を掴み、グンジョウが尻を乗せているサウナ施設の中にぶち込み黙らせる。

「~~~~~ッ! ~~~~~ッ!」

 サウナの中から扉を叩いてネオが抗議をするが何を言っているのかは聞こえない。

「イメージだ! イメージをするんだ丈! あの敵を高速で追尾し、貫く一撃。ただそれだけをイメージするんだ!」

「いやでも、さっきネオがそんなことできないって」

「いいから!」

 丈の肩を掴み、念を押す。

 何をするのかと見物していたグンジョウが立ち上がる。

「茶番にも飽きました。そんな都合のいいことが起きるわけがないでしょう? そろそろ、とどめとさせてもらいますか」

「都合のいい……だと? ご都合主義上等だ、都合なんていくらでも捻じ曲げられる! 我々は魔法少女だからな! だから、できないと思わずにやれば……可能だ!」

 拳で胸を叩く湊。

「少女ではないじゃないですか……」

「心は、少女だ!」

「俺は違うけど……」

「いいからお前はとっとと技のイメージをしろ」

 丈は湊に急かされて、目を閉じる。

 湊は丈の手を握り、同様に目を閉じた。

「……隙だらけですが、やってもいいのでしょうか?」

 グンジョウがサウナ施設から飛び降り、湊たちへ向けて拳を振り上げ突撃した。

「湊さん!」

 春奈が悲痛な声を上げる。

 湊と丈の眼は閉じられたままだ。

「さよならです!」

 グンジョウが飛び上がり、湊と丈へ襲い掛かる。


「「高速で、敵を貫く一撃……!」」


 カッと湊と丈の瞳が開かれ……、

 握られた二人の拳が、上がる。



「マジカル☆レッドバレット・フォトンレイッッ‼」

「魔法の……矢ァァァ~~~~~~‼」



 違う技名を叫ぶ湊と丈。

 グダグダだった。

 だが、閃光が二人の腕から発せられる。


「……ィィッッ!」


 魔法の閃光が煌めく寸前に、グンジョウは危機を察知して方向転換。湊たちから距離を置く。

 瞬きもしない間に五十メートルほど離れたグンジョウだったが、湊と丈の手から発せられた魔法の矢はグンジョウへ向けて一直線に飛んでくる。

 グンジョウはその矢の軌道上から遠ざかる。

 所詮はまっすぐ飛ぶだけの矢だ。

 そう、グンジョウが心の中で思った瞬間だった。

 くるっと魔法の矢が傾いた。


「何ッ!」


 グンジョウ目がけて曲がり、高速で飛んでくる。

 マジカルロットンの繰り出した必殺技は魔法の矢は追尾式だった。

 ならばとグンジョウは必死に逃げるが、魔法の矢はどこまでも追ってくる。音速をはるかに超えた光速にも迫る速度で、グンジョウと魔法の矢の追いかけっこが行われる。その間、時間にして一秒も経っていない。

 ホテルの裏山を超え、走る電車を追い越し、川に出る。その水面を高速で走って逃げてもまだ魔法の矢は追ってくる。


 しつこい―――! 


 そう思っても、迎撃する余裕はない。少しでも攻撃を繰り出そうとすれば一瞬で追いつかれる。

 水面に足が沈んでいく。

 右足が沈む前に左足が水面につけることが難しくなってきた。

 一秒が経過した。

 流石に人の眼にもとまらない時速七万キロを続けるのは体に負担がかかる。一気に披露し、限界が近くなる。


 ダメですね。これは……。


 川から海へ出たが、グンジョウは諦めて足を止めた。

 両足が海に沈む前に、光の矢がグンジョウの胸を貫く。


「ここまでですか、まぁいいでしょう……」


 グンジョウの体が内部から発光し始める。フェアリージュエルの浄化作用によって悪の魔力が浄化される光だ。


 光の柱が天へと昇っていく。

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