第32話 恥も外聞もない、夢を掴んだ大人の背中。
もっと考えておけばよかったと、今になっては思う。
娘たちの非難の眼が、二人の父親の背中に深く突き刺さる。娘の緊急事態とはいえ、女湯に土足で入り込んだのだ。その目を向けられても仕方がない。
「それに、どうしてお父さんがフェアリージュエルを持ってるの? どうしてその力を使えているの?」
「………」
「パパ、答えて!」
「………」
娘たちから詰問される湊と丈。
ぎゅっと湊はフェアリージュエルを握りしめる。
「湊……」
どうする、と視線で問いかける丈。
湊の視線はジッと空中に浮遊し続けているグンジョウへ向けられていた。
「何なんです? 貴方たちは……おじさんはお呼びではないんですが」
敵意を込めた視線をこちらへ向け、腕の刃を光らせている。
「真冬!」
湊の決意が固まった。真冬に向けて何かを投げつける。
「これって……服?」
受けとった真冬は自分の服を広げる。湊が投げたものの中には夏美の服もあり、そっと夏美にも服を渡す。
「あんな怪人に大事な娘の裸をいつまでも見させるわけには行かないからね。早く着替えておいで‼」
「いや、そんなことよりも、フェアリージュエルを渡して。それで変身して服着るから」
フェアリージュエルを渡すように手を伸ばすが、湊は無視する。
「お父さんはこの女湯に侵入する変態オヤジと話があるから、とっとと露天風呂から出るんだ!」
「え、それはお父さんも一緒……」
「早く!」
「だから、フェアリージュエルを渡して」
「行くんだ!」
「………わかった。行こう、夏美」
「え⁉ えぇ⁉ いいの⁉」
真冬はネオへ視線を向ける。
ネオは首を振り、諦めろと言いたげだった。
必死になって、湊を止めようと、ネオ自身がしていない。
つまりは、現状フェアリージュエルが湊の手の中にあっても、問題はない。湊の指示に従っても大丈夫ということなのだろう。
「夏美、多分全然よくはないけど、今は服を着よう」
「え⁉ え⁉」
本当にいいのかと言いたげな夏美の手を引き、露天風呂から出る。
「イタ……ッ!」
チリッと胸が痛んだが、今は父とネオを信じよう。真冬はそう思った。
「行ったぞ、湊………じゃあ、娘たちの安全を確保したことだし、遠慮なくやるか」
拳を打ち鳴らし、丈が赤いフェアリージュエルを握りしめて湊の隣に並び立つ。
「ああ、丈、変身だ」
「は? 変身しなくてもなんとかなるんだろ?」
「攻撃力は変身時の三十%はでるけど、防御面に関しては普通の人間となんの変わらない無防備だ!」
ネオがやめておいた方がいいと口を挟む。
「ましてや、あの敵はエンシェントフェアリーズを苦しめていたローズブーケの上司、ラファエロの重鎮だ。今まで戦ってきた魔人の十倍は強い」
いまだに浮遊し、こちらの様子を伺うグンジョウを見つめる。
「茶番は、終わりましたか? お父さん方、そろそろ攻撃してもよろしいですか?」
首を回して戦闘態勢に入るグンジョウ。
「ああ、やるぞ。丈。僕たちがあいつを倒すんだ!」
蒼いフェアリージュエルを握った拳を顔の前に掲げる湊。
丈は嫌そうに顔をゆがめながら頭を苛立ちのままに掻いた。
「まぁ……夏美がいなくなったから、大丈夫かもしれねぇな! 春奈ちゃんがまだいるけど……やるってことで、変身するってことで、いいな?」
「あ……」
黒いマントを纏ったローズブーケが逃げずにそこにいた。状況も分からずに茫然としている。
「湊さん? 一体どうして……」
「………」
湊はゴクリと唾を飲み、やはり、グンジョウへ向けて一歩前に踏み出した。
「春奈ちゃん、僕は昼間に言ったね。恥や外聞を捨てて初めて大人になると。今から見せてあげるよ。恥も外聞もなく、夢を掴んだ大人の背中を」
湊が手をさし伸ばし、丈がその手をがっしりと掴む。
「え⁉」
二人が天空へフェアリージュエルを掲げる。
「まさか……」
グンジョウが目を見開く。
二人のおっさんの手の中に納まっているフェアリージュエルが輝きを放ち始める。
「「プリティプリティオンステージッッッッッ‼」」
二人の腹から出た気合の掛け声に、大気がビリビリと震えた。
「は?」
グンジョウが状況を把握できず、口が開く。
湊と丈の服が弾け、一瞬全裸になるが、すぐさま光の帯が包み込む。
「オェ……」
何度見てもこの光景は慣れないと、ネオは吐き気を催した。
光の帯がフリルを形成していき、二人の男にゴスロリのドレスを着せていき、
「ズバッと参上、ズバッと解決! さすらいの魔法少女と我を呼ぶ! 魔法少女ロットンハウタニア‼」
ロットンハウタニアへと変身した湊がポーズを決め、
「相手がラファエロと認めた場合、自らの判断で犯人を処罰することができる! 正義の魔法少女ロットンラフレシア‼」
フリルのついたドレスを回転させ、ロットンラフレシアと化した丈がポーズを決める。
「「我ら、正義の二連星! 二人そろって……!」」
湊と丈がそろった動きで手を叩き、足を高らかに上げる。
「「魔法少女……マジカルッッッッ‼ ロットンッッッッッ‼」」
グンジョウの口がゆっくり開いていく。
今、彼の胸の内で湧き上がるのは初めての感情、冷静で、どんな仕事もこなしてきた彼が初めて得た感情だった。
「――――帰りたい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます