第30話 救い
「「そんなことはないッ‼」」
二人の少女の声によってその拳は止まった。
そこには胸と腰にタオルを巻いて、水着のようにした真冬と夏美が立っていた。
「……ばかな」
グンジョウが珍しく声を震わせた。
真冬と夏美は、正常だった。全く身体に変化はなく、魔法の植物に侵された様子もない。
「春奈さんは才能があるよ! だって、初めて読ませてくれた、商店街のドタバタ小説、面白かったもの!」
真冬が声を張り上げ、ピクリとローズブーケが反応する。
「どうして……? 湊さんにしか読ませてないのに」
「お父さんが読ませてくれたの。いつか絶対に有名な小説家になる期待の新人だって」
ローズブーケにウィンクする真冬。
「私は、あまり春奈さんの小説を読んだことはないですし、あまり春奈さんと遊んだこともないです」
夏美が身もふたもないことを言う。
「だけど、ローズブーケは何度私たちに負けても立ち向かってきました。何度も、自分が勝てると信じて! そんな人の意思が弱いわけがないじゃないですか!」
「夏美ちゃん……」
夏美はまっすぐローズブーケを見据えて頷いた。
グンジョウはこめかみを押さえて目を深く閉じる。
「……あの、ローズブーケさん、あの二人にダークシードを埋め込んだのですよね? あの……体に埋め込んだ形跡がないのですが、もしや私の勘違い?」
「え?」
「「?」」
三人が首を傾げる。
「えっと、埋め込んだというか、食べられました」
「食べた⁉」
「柿ピーと一緒に」
「…………」
膝からグンジョウが崩れ落ちた。
グンジョウが放心するなど珍しいと、若干ローズブーケの表情に余裕が戻る。
「ダークシードって何のこと? それに柿ピーって……」
「シードっていうから種? 多分、あのグンジョウから春奈さんはそれを私たちに植え付けるように言われていたのよ。そして、柿ピーと一緒に私たちが食べたんじゃないかしら?」
「ああ……」
ひそひそと真冬と夏美が話し合い、状況を理解した。
グンジョウはすぐに立ち上がった。
「柿ピーと一緒に食べたとは……埋め込んでっていったでしょ? 食べさせたらかみ砕いちゃうじゃないですか。流石に魔の力を込めた種と言えど、かみ砕いたら壊れますよ」
がっくりと肩を落とす。
「ハァ……テンション下がった――――殺そう」
「!」
グンジョウの腕についている鎧の隙間から鋭い刃が飛び出る。
無表情だが、初めてグンジョウが殺意を見せる。
ローズブーケはジリッと後ずさるが、
「く……! ダメだ、真冬ちゃんと夏美ちゃんがいる。逃げられない」
踏みとどまり、腕を広げて戦闘態勢をとる。
「逃げ出しませんか? 上等ですね。意志の弱いあなたが」
「意志の弱いローズブーケはここで死んだ! 私は逃げない! 強い意思で、本郷春奈として生きていく!」
「よろしい」
グンジョウの刃が春奈へ迫る。
死――――を直感した。
だが、消して眼は閉じない。絶対に逃げないと決めたのだから。
「――――――――ッ!」
最後の瞬間まで目を開けていよう。
そして、グンジョウの刃が春奈の眼に触れようと――――、
「よく、頑張ったな」
「え――――」
刃は目の前でピタリと止まった。
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