第28話 真冬の悩み
ホテルの一階にある露天風呂につかりながら、夏美は伸びをした。
「う~ん、いい気持ち……」
海近くで塩分が多く含まれている湯は、全身のコリがほぐれて極楽そのものだった。
「そうね、いい心地ね」
春奈が笑顔で同意する。
朝はあんなに沈んでいた彼女も今は朗らかに笑うようになった、彼女の心に巣くっていた暗雲は晴れたようだ。
「ふふん……」
「どうしたの、夏美ちゃん。変に笑って?」
「いや~、湊さんと二人きりにした途端に春奈さんが明るくなったから、やっぱり好きなのかなぁ~って」
「そんな……!」
春奈の顔が赤くなる。
「湊さんの事は好きだけど、それは尊敬しているってだけで、別に結婚したいとかそういう……」
「結婚したいのなら、真冬ちゃんを落とさないとダメですよ。なんてったって六歳差の母親になるんですから」
「そ、そんなこと……真冬ちゃん?」
照れて真冬を見るが、真冬は話しに参加して来ようとせずに、ずっと何か憂いを帯びた表情をしていた。
「大丈夫真冬ちゃん。嫌なことがあったら、私が聞くよ?」
「え? いや、それはこっちのセリフ……あれ、春奈さん明るくなりましたね? やっぱり父と二人っきりにしたから……」
「そのやりは取りさっきもうやった」
「…………」
調子を取り戻そうとして、春奈をからかおうとしたが、夏美にジト目を向けられる。
「ちょっと夏美、サウナに行こう。二人っきりで大事な話があるの。春奈さん。いいですか?」
「え、うん、いいけど……」
♥ ♥ ♥
夏美の手を引き、サウナへと向かう真冬。
「え、何かな告白でもされちゃうのかしら~……」
若干頬を染めながら、中へ入る。
夏美の冗談に答えずに、深刻な表情で腰を下ろす真冬に、夏美は苦笑する。
「正体がお父さんにバレちゃったかもしれないってこと?」
「……!」
心がざわついた。なんだか胸が苦しくなる。
だが、すぐに落ち着ける。
「ネオちゃんがね、なぜか冷凍庫の中にいたことがあるの。もしかしたらそれがお父さんに見つかって、バレちゃったかもしれない。エンシェントフェアリーズのこと」
「予想の斜め上のバレ方……冷凍庫にいたネオちゃんはどうなってたの?」
「カチンコチンに凍ってたから、鍋にお湯入れて火をつけて解凍した」
「ワァオ……乱暴。それで復活するネオちゃんもネオちゃんだけど」
「お父さんには何とかぬいぐるみを間違えて冷凍庫に入れちゃったってごまかしたけど……」
「それでよくお父さん納得したね。間違えて冷凍庫に入れられるってどんな状況?」
「その後、ネオちゃんとお父さんが話しているところを見ちゃったんだよね」
ちょくちょく入る夏美の突っ込みを完全に無視して話を続ける真冬。
「じゃあ、湊さんは知ってるの? 妖精のことやラファエロのこと」
「多分。それにエンシェントステッキが出なかったことがあったじゃない? あれ壊れてたから呼んでも出てこなかったらしいんだよね」
「壊れてた?」
「あったの、お父さんの部屋の押し入れにぽっきり折れたエンシェントステッキが……」
「???」
夏美の頭の上に疑問符が浮かぶ。
ネオの事がバレて、妖精の国やラファエロの魔人について湊が知るというのは、まぁわかる。一つ屋根の下でイルカの妖精が暮らしていたのだから、いずれバレるだろうというのは想定していた。
「何でステッキが?」
「そこがネックなのよ……どうして、私が変身して呼ばないと出ない魔法のステッキがお父さんの部屋にあったの? それに、壊れた状態で……」
頭を抱える真冬。どうやら彼女はずっとそのことで悩んでいたらしい。
「考えられる可能性としては真冬がしまい忘れたとか?」
「でも、エンシェントステッキって別に消そうと念じなくても、持ちっぱなしの状態でも、変身を解いたら一緒に消えるじゃない?」
エンシェントステッキを持っているように、身振り手振りを交えながら説明する真冬。
「だから、私が変身していないときに残っているのはおかしい……」
「壊れたから戻ってないんでしょう? だったら、知らないうちに壊しちゃったんじゃないの? 落ちていたエンシェントステッキを何かわからずに拾って、押し入れにしまっていたとか」
「だったら……う~ん、やっぱり本人に直接聞くしかないのかなぁ……。お父さんああ見えて魔法少女好きだから、記念に拾ったとも十分……」
真冬の背筋に悪寒が走った。
今脳内を最悪のビジョンがよぎっていった。
「え、そうなの? 湊さん、魔法少女好きなの?」
「う……!」
真冬が胸を押さえて苦しみ始める。
「ど、どうしたの? 真冬⁉ 真冬⁉」
「いや、違う大丈夫。お父さんはただ単に拾っただけ、そうだよね?」
心配そうに見つめる夏美に問いかける。夏美は何が何だかわからずにとりあえず頷いた。
「そうだよ。もう、湊さんには話してしまおう。エンシェントフェアリーズの事。そしたらスッキリするよ。私も一緒にいてあげるから」
「うん」
夏美がギュッと真冬の手を握り、真冬は安心したように笑った。
「じゃあ、出ようか、ちょっとのぼせたね」
「うん」
手を繋いだまま、サウナの外に出る二人。
「待っていましたよ。エンシェントフェアリーズのお二人さん」
突然、低い男の声が聞こえた。
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