第24話 娘の物を奪おうとする父親

 湊と丈にとってのメインイベント、釣りをする一行。

 時間がまだ夕方で飯には早いのと、他にやることもないので特に不満は出なかった。

 ホテル近くの漁港にやってきて、準備をする。

 娘たち三人の釣竿を用意する湊と丈。その間、真冬たちは堤防の上から海を見てはしゃいでいる。

「ネオ君、ネオ君」

 車のトランクを開けてネオを呼ぶ湊。


 トランクの奥の方、釣り道具が敷き詰められたさらに奥にネオはいた。


 ネオの顔は暗く、沈んでいた。

「なんか用? おっさん。僕はまさか真冬にすっかり忘れ去られてトランクの中に放置させられるとは思わず、滅茶苦茶悲しい気分なんだけど」

「てっきり部屋にいると思ってたのに、君の背びれが見えて、ビックリする前に僕も悲しくなったよ。だけど、今はそんなことは重要なことじゃない」

「重要なことじゃないかなぁ……」

「ネオ君、丈」

「何だよ」

 落ち込むネオと、竿を組み立てている丈に呼びかけ、

「作戦を伝える」

 唐突に顔をキリッとさせた。

「はぁ? 何かすんの?」

「真冬と夏美ちゃんからフェアリージュエルを没収する。そのための作戦を実行する」

「「はぁ?」」

 丈とネオは声も、こいつ頭がおかしいんじゃないかという表情も被った。

「もしも、もしも敵が出てきたらだよ? あの二人が戦わなければならない。せっかくの旅行。春奈ちゃんだけでなく娘二人にもリラックスしてもらいたい。そのためには彼女たちに変身させてはならない。だから、その手段を奪い、僕たちが戦う」

「お前の気持ちはわからんでもな……いや、悪い、やっぱりさっぱりわからん」

 同情しようとした丈が頭を抱えた。

「この一週間で、夜に出てくるラファエロの怪人は全部おっさんたちが倒して凄いと思ってるよ。でも、フェアリージュエルを没収してまで戦おうとしなくていいんじゃないかな?」

 やんわりと湊を説得しようとするが、湊は聞こうとせずに首を振った。

「いや、何としても変身する。魔法少女アニメでは旅行先で敵が都合よく出てくるのは鉄板。そこで魔法少女が戦うのも鉄板なのだ。敵は来る。必ず。だから、変身道具を奪う。必ず」

「魔法少女の鉄板を子供から奪う大人って……」

 げんなりするネオ。

 湊は二人の反論を聞こうとはしない。

「じゃあ、改めて……春奈ちゃんは一般人だ。だから、ちょっとでも妖精の事を知られるわけには行かない。だから、僕が春奈ちゃんを引き付けている間に、君たちがフェアリージュエルを奪うのだ」

「言ってることが完全に悪役だけど大丈夫?」

「気にするな。具体的には丈が二人を引き付ける。その間にネオ君がフェアリージュエルを探り当てて奪う。じゃあ、作戦開始」

 餌や釣り道具一式が入った籠を持ち、立ち上がる。


「「ちょちょちょちょ、ちょっと待て~い!」」


 勇んで釣りに向かう湊を丈とネオが止める。

 丈が手を挙げて尋ねる。

「引き付けるって、全然具体性がないんだが。どうやって引きつければいいんだよ」

「釣りの良さを教えてあげればいい。バンバン釣りまくったら、二人の女の子の眼は魚にくぎ付けになるだろう?」

「なるかなぁ……気持ち悪がると思うんだが……」

 次にネオが手を上げる。

「あの僕はどうやってフェアリージュエルを奪えばいいんでしょうか? そもそも、今どこにフェアリージュエルがあるかわからないんですけど……」

「君は妖精でしょう? ラファエロの魔人の場所が分かるのと同じ感じでわかるでしょう?」

「それとこれとは別ですよ」

「そうなのかい? だが、それがないと困るのだ。彼女たちのポケットを探ってみてくれたまえ」

「えぇ……」

 ネオがフェアリージュエルを感知できないのは想定外だった。だが、やってもらう。

「ではフェアリージュエル奪取作戦、開始だ!」

 手を振り上げるが、二人は乗ってこなかった。

「………チッ」

「チッ」

「舌打ちした? ねぇ、今舌打ちした?」

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