第18話 魔法少女大ピンチ
ネオに指示されたスーパーマーケットに到着する。
「ラファエロはどこ⁉」
真冬が到着したときは、誰もいなかった。
駐車場に車は止まっているが、人の気配はない。
店の中も同様だった。
「真冬ちゃん!」
「夏美! ゲ……」
ネオから連絡をもらった夏美も到着したが、彼女の格好は……、
「夏美その恰好のままで来たの? 和服のままで……」
「だって、花のおけいこの最中に呼びだすんだもの」
夏美は頬を膨らませて和服を見せつける。
夏美は子供の頃から華道を習っている。
ずっと続けており、先生にも認められた腕前らしい。
夕方は常に彼女はそのお稽古があり、そこから隙を見て抜け出してきたようだ。
「お~い、真冬! 夏美!」
「ネオちゃん!」
二人に少し遅れてネオも合流する。
「ラファエロが見当たらないけど、本当にここなの?」
「そのはずだよ。まだ気配はする」
「どうせローズブーケでしょう? 出てきなさいよ、ローズブーケ!」
魔人を率いる幹部は彼女と、あと土偶のような怪人しか見たことがない。
ローズブーケの前任者の土偶怪人は三か月前に倒したので、今回もローズブーケだろうと真冬は声を張り上げた。
「ローズブーケ? 誰の事です? 知らないお名前だ」
低い男の声だった。
それは空から聞こえた。
「あなた……誰?」
見上げると、金髪のオールバックの男が空中に浮いていた。
「初めまして、私の名前はグンジョウ。株式会社ラファエロの代表取締役。以後お見知りおきを。名刺はいるかい?」
ピッと懐から名刺を取り出し、真冬の返答を待つことなく、足元に投げ放った。
「代表取締役? ってことはラファエロのボス?」
「トップがもう出てきたということでしょうか?」
真冬と夏美は疑わし気にグンジョウを見上げながら、コンクリートに刺さった名刺を手に取る。
「ラファエロ超常力回収課長、グンジョウ……さっき言ってた役職と全然違うじゃん!」
「超常力回収課……以前、ローズブーケが名乗っていました。そこの回収要員兼戦闘員のローズブーケだと」
「じゃあ、あのおじさんローズブーケの上司ってことじゃない。じゃあ、ローズブーケのことも」
「当然知ってますよ。無能でも私の部下ですからね」
全く表情を変えずに認めるグンジョウ。
ポーカーフェイスで何を考えているのかわからず、つかみどころがない。
真冬は警戒心を強めた。
「あまりにも部下が無能なのでね。上司の私が出張るしかないんですよ。私の苦労話聞いていただけますか?」
「え……?」
本当につかめない。これから戦おうとフェアリージュエルを握り、変身しようとしたのに、タイミングを逃した。
「ローズブーケ君は最初は優秀で、私も気にかけていたんですよ。ですけどね……」
いつ変身しよう……話聞かなきゃいけないのかな……。
と思った瞬間!
「真冬ッッ‼」
夏美に突き飛ばされる。
「え」
先ほど真冬が立っていた場所を巨大な手が通過していく。
「失敗」
そして残念そうにつぶやくグンジョウ。
「フリ~~ザァ~~~~‼」
背後から聞こえる雄叫び。
振り返ると巨大な四角い胴体を持ったラファエロの魔人がいた。四角い、扉のついた冷凍庫に手足が生えたような姿をしていた。
その魔人の手が、ばねのように伸び、真冬をとらえようとしたのだ。
「D・フリーザー。私が作ったチャンスを無駄にしましたね。あなたは減給です」
「フ、フリ~ザ~」
抗議の声を上げる怪人。だが、上司の金髪は興味がなさそうだった。
D・フリーザ―は垂れた首を真冬たちへ向け、睨みつける。
「あの上司は不気味だけど、いつもと同じように戦えば大丈夫よ。夏美」
「ええ! 真冬ちゃん」
夏美が赤いフェアリージュエルをポケットから取り出し、天に掲げる。
「「プリティプリティ……オン、ステージ‼」」
妖精の宝石から発せられた光の帯が、二人の体を包んでいく。
光の帯は二人の少女の服を消し、生まれたままの姿にすると、全身に巻き付き、魔法少女の衣装へと変化していく。
「古の清きプリンセス! エンシェントネリネ!」
真冬は蒼い髪の魔法少女、エンシェントネリネへと、
「気高き古代のフェアリー! エンシェントサンシャイン!」
夏美は真紅の魔法少女、エンシェントサンシャインとなり、
「「魔神少女、エンシェントフェアリーズ!」」
ビシッと背中合わせでポーズを決めた。
「一分二秒、変身にかかりました」
グンジョウは腕時計に目を落として呟いた。
「何? その静かになるまで一分かかりましたって。校長先生?」
「あの人、変身中に攻撃しそうな感じだったけどしなかったね」
ひそひそと話し合うエンシェントフェアリーズ。
グンジョウは時計から目を離し、
「攻撃してもよかったんですけどね。あなた方の変身を見るのは初めてだったので、見ておきたかったんですよ」
ぞっと、真冬と夏美に悪寒が走る。
「あの人! 魔法少女が変身するのをまじまじと見てたんだって!」
「変態! 一階全裸になるのに!」
「お綺麗でしたよ」
「変態!」
「さて……」
魔法少女の抗議の声を聴きながら、グンジョウの姿かたちが変わっていく。
「あの人、怪人に!」
白い鎧をまとった二本の角をはやした怪人にと変質する。鎧が昆虫のようにとげとげしく、角にもギザギザが付いており、鬼に近いが、どちらかというとクワガタっぽい。
「魔神少女の実力を、試させてもらいましょうかね」
ゆっくりと怪人の姿になったグンジョウが地上に降りてくる。
「強そう……」
「ええ、私は強いですよ。そして、手も抜きません。D・フリーザ―!」
「フリ~ザ~~~~~‼」
D・フリーザ―が吠え、二人の魔神少女へ向けて突撃する。
「………ッ!」
戦闘態勢に入り、真冬と夏美は顔を見合わせ頷く。
「「エンシェントステッキ‼」」
二人が同時に武器を召喚する。
夏美の手には月の装飾が施された杖が握られ、
「あれ?」
真冬の手に握られるはずの星の装飾がなされた杖が出現しない。
「おっと不発ですか? 武器の手入れはちゃんとこまめに!」
いつの間にか、真横にグンジョウが立っていた。
手を掴まれる。
「きゃあああ‼」
隙を突かれて空中に投げ飛ばされる真冬。
「ネリネ‼」
「あなたも、仲間を心配している場合ではないでしょう!」
夏美の眼はD・フリーザーから外れていた。
D・フリーザーは隙だらけの夏美の眼前で腕を振り上げ、
「フリ~ザ~~~~~‼」
「ク……アァ‼」
とっさにガードをしたが、甘かった。
踏ん張りがきかずに吹き飛ばされてコンクリートの上を転がる。
「う……うぅ……」
体が軋み、立ち上がれなくなる夏美。その隣に空中に打ち上げられていた真冬が重力にひかれて落下する。
「ネリネ! 大丈夫!」
顔を上げて相棒を心配するサンシャイン。
「つ、強い……」
腕を抑えて何とか立ち上がろうとする真冬。だが、ふらついて倒れてしまう。
「そう言ったじゃないですか。私は強いと」
傷ついた二人にとどめを刺そうとグンジョウがゆっくりと歩み寄る。
「どうして⁉ どうして、エンシェントステッキが出ないの⁉」
悲痛に叫び、自らの手を見つめる真冬。エンシェントステッキが出ないことなんて一度もなかった。それなのにどうして今回はタイミングが悪く出ないのか……!
「ネリネ! サンシャイ~~~~~~ン‼」
ネオの叫びが響く。
グンジョウの魔の手が、エンシェントネリネとサンシャインに伸びようとしていた。
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