第16話 上司・グンジョウ
株式会社ラファエロ。
超常力回収課のオフィスでいつものようにローズブーケとグンジョウは対面している。
グンジョウの―――課長の文字が書かれたプレートが乗った机の上には退職届が置かれている。
「えぇ……っと、どういうことかな? ローズブーケ君」
「やめます」
ローズブーケの眼は完全に死んでいた。
虚ろな目で、口も若干半開きで、いつもエンシェントフェアリーズの前に立つ傲慢なお嬢様のような彼女の姿はどこにもなかった。顔は憔悴しきり、髪も乱れて、服の乱れも直そうとしていない。
そんな彼女の様子にグンジョウは動じることなく、こめかみをに指を置く。
「君、最初こそ良かったけど、最近は全く結果を出せていないじゃない。無駄に会社の設備と経費を使っておきながら……その補填もせずにやめようっていうの?」
「はい、私がこれ以上会社にいても無駄に経費を使うだけなので、やめさせていただきます。もう、あんな怖い思いはたくさんです」
「あんな怖い思い?」
グンジョウが眉をひそめる。
ローズブーケはD・アンテを使って、所咲街の住民を操り、マイナスエネルギーを大量に集めていたところまで報告は聞いた。目の前の彼女の様子を見る限り、またエンシェントフェアリーに負けたようだが、こんな精神を病むほどの状態になったのは初めてだ。
「ローズブーケ君。君一体何があったんですか? エンシェントフェアリーズに負けたんじゃなかったの?」
「実は……」
スッと、ローズブーケがDVDを差し出す。
「D・アンテのファイトレコーダーに記録された映像です。見てください……」
グンジョウはノートパソコンに受け取ったDVDを入れて、再生する。
「今時DVDかぁ…………ん?」
視聴中、ピクリとグンジョウの眉が動いた。
モニターに移されていたのは戦うゴスロリの服を着たおっさんたち。圧倒的なパワーでD・アンテに勝利していく光景が映し出されている。
一通り見終わり、グンジョウは息を吐き、ローズブーケを見上げる。
「ナニコレ?」
「わかりません。わからないし、わかりたくもないです」
グンジョウの言葉をバッサリと切り捨てるローズブーケ。
グンジョウは「ふむ」とつぶやき、
「うん、君がやめたくなるのはよくわかった。私はあまり部下をねぎらうことはない人間なのだが、これに関しては同情しよう。辛かったね。ローズブーケ君」
課長の椅子から腰を上げて、グンジョウにしては珍しい優しい声で話しかけ、ローズブーケの肩に手を置く。
「じゃあ……!」
「でも、会社は続けてもらうよ」
辞められると思って顔を明るくしたローズブーケの顔がすぐに曇る。
「君、今まで魔人を使ってどれだけの人を不幸にしてきたと思ってんですか? 今更やめられると思っているんですか?」
「………ッ!」
ローズブーケの体が凍り付く。
「やってもらいますよ。これからもフェアリージュエルの回収と、マイナスエネルギー収集。君、この会社入ったころはマイナスエネルギーをたくさん集められてたじゃないですか。その手腕に私は期待していました。ね、頑張ろうよ」
「い、いえ……私はもう限界……」
「大丈夫、こんな変態が出てきたら、上司の私も手を差し伸べなければと思いますよ。次からは私も出撃するとしますよ」
「え⁉」
予想外の対応に驚く。
グンジョウが助けてくれるのならば、自分の負担が減るので、こっちとしては大歓迎なのだが、今まで何を言っても現場に出ようとしなかったグンジョウが出張るとは少しは自分の苦労が分かってくれたようだ。
「じゃあ、私は昼に出撃して、エンシェントフェアリーズの相手をするから、君は夜に出撃して、この変態中年共の相手をしてくれたまえ」
「違う‼ そうじゃない‼」
全く自分の苦労を理解しようとしない上司。
遂にローズブーケは怒りが頂点に達し、飛び上がって課長の机の上に立つ。
「どうして私が夜勤何ですか⁉ もう嫌ですよ‼ あんな変質者を相手にするのは、見るのも嫌なのに! そもそも私は昼間しか出勤しなくていいって聞いたからこのアルバイトを始めたのに! アルバイト! そもそもアルバイトなんですよ‼ 私‼」
忘れてないかと、怒りをグンジョウにぶつける。
もうやめると決意したローズブーケはもう何も怖いものはない。課長の机の上で地団太を踏みながら抗議する。
「ふむ、まぁ、だけど、こっちも人手不足でね。勝手に昇格させてもらった。今の君は正社員だよ。伝えるのが遅れて悪かったねぇ」
「な!」
そこまでしたというにグンジョウは全く動揺せずに、とんでもないことを言い放った。
この人に何を言ってもダメだ。
彼女は諦めて肩を落とした。
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