第二章 夢を叶えたから、バカンスに行こう!

第15話 新しい朝が来た

 お気に入りの水玉のカーテンの隙間から朝日が差し込む。

「ん……んぅ……」

 重たい瞼を開き、時計を見る。 

 午前六時半。

 まだ目覚ましが鳴る時間ではなく、少し早く起きてしまった。

「う、う~ん」

 長い髪を枕から離し、大場真冬は伸びをする。

「なんか、今日はあんまり眠くないな……」

 久しぶりに気持ちのいい朝だった。

 夜遅くにラファエロの魔人が出ることもなく、寝ている途中にネオに起こされることもなく、たっぷりと八時間睡眠ができた。

「昨日は出なかったのかな?」

 枕元に置いてあるフェアリージュエルを眺める。

「……?」

 昨日置いた位置と若干違う。少し、右にずれているような、そんな気がする。

「そういえばネオちゃんがいない……いつもバスケットで寝てるはずなのに」

 タンスの上の小さなバスケットがネオの寝床だ。

 そこにネオの姿がないということは、外に出たということだろうか。

「もしかして、また家出?」

 以前に、真冬はネオと大喧嘩をして、彼が怒って出て行ってしまった。きっかけはほんの些細なネオが楽しみにしていたアイスを真冬が食べてしまったというそれだけなのだが、彼はたいそう怒って、夏美に仲裁をしてもらうまで、真冬と口もきいてくれなかった。

「何か気に障ったことした覚えないんだけどなぁ……学校行く前にちょっと探しに行こうかな……」

 パジャマのまま部屋を出て、リビングへ向かう。

 カチャカチャと物音が聞こえる。

 湊が朝食を作っている音だ。

「おはよう、お父さん」

「真冬? 今日早いな。どうしたんだい?」

 湊は時計と真冬の顔を見比べて驚いて目を見開いている。

「うん、今日はちょっと目がさえちゃって」

「まだご飯は時間かかるよ? お弁当を作っているからね」

「あ~、大丈夫。私が作るから、パンと軽めのサラダでいい?」

「あ、ああ……」

 パジャマの上からエプロンを羽織り、湊の横に立つ。

「ちょっとどいてね」

「あ、ああ」

 湊を横にスライドさせてまな板の上にキャベツを置く。

「あれ?」

 先ほど湊を横に押したときに、違和感を感じた。

「お父さん、ちょっと運動してきた?」

「えぇ? どうしてだい? 汗臭いかい?」

 正直それもあるが、湊は結構繊細であり、みなまで言うと面倒なことになるので口をつぐんだ。

 それよりも気になるのが、

「土がついてるよ。肘の裏とか、背中に」

「え⁉ ちょちょっとフライパンを頼む」

 湊は真冬に卵焼きを焼いている途中のフライパンを握らせると、洗面所へと急いだ。

 水の音がしてすぐに帰ってくる。

「ごめんごめん、ちょっと店の外で喧嘩が起きてね。その仲裁に出ていたら僕も巻き込まれて……殴られはしなかったんだけど。転んだときに汚れちゃったみたいだ」

「もう、そんな不衛生で料理作らないでよ」

「ごめんなさい……」

 しゅんとする湊を見るとなんだかおかしくなってしまう。

「フフ……いいよ。お父さんが私のために頑張ってくれてるって知ってるもん」

「真冬……」

 じんと湊は瞳を潤ませる。

「はい、フライパン。いつもお弁当ありがとう」

 湊にフライパンを渡す真冬。

「うん、その言葉だけで、僕は頑張ったかいがあったというものだよ……」

 湊が泣きそうだったので、真冬は顔をそむけた。なぜだが、気まずくなってきたためだ。

 その程度で泣くなよと思いながら、真冬はサラダを作り終わり、パンを焼き、ジャムを塗る。

 そこまでやれば完成なのだが、今日はデザートにバニラアイスが食べたい気分になった。

「バニラアイスってまだ入ってるよね?」

「ああ、この間買ったばかりだからね。冷凍庫に入っていると思うよ」

 真冬の指が冷凍庫の扉にかけられる。

「冷凍庫? 真冬、ちょっと待っ!」

 湊が思いだしたころにはもう遅く、真冬は冷凍庫の扉を開けた。


「キャアアアアアア‼ ネオちゃあああああああん‼」


 朝一番。まるで起床を促す鶏の声のように、大場家から悲鳴が上がった。

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