第14話 マジカルロットンの意味とは……、

 ゾンビもいない、平和な住宅街を歩き、家へ到着する。

 真冬の部屋の電気は消えたままで起きた気配はない。

 湊は小声で「ただいま」といい、中へ入り、真冬の部屋へ上がる。


「ただいま、父さん頑張ったよ」


 安らかな寝顔の真冬を見つめ、その枕元にフェアリージュエルを置く。

 だが、エンシェントステッキはどうしよう。

 持ったまま入ってきてしまったが、これを真冬に見られるわけにはいかない。

「…………これは僕の部屋の押し入れに隠しておこう」

 背に隠し、真冬の顔を撫でると、真冬は少し身じろぎをした。

「父さんも頑張るから、真冬も頑張ってね……」

「うぅ……ん」

 眉が寄せられ、起こしそうだったので湊は身を離し、部屋を出た。

「ネオ君」

「あ、はい」

 外でネオは待っていた。話しかけられ、ぴくっと体を動かす。

「真冬のことを頼んだよ。いざとなったら君が守ってくれ。君が守れなかったら、僕を頼ってくれ。僕は娘の正義のためだったらどこにいても駆けつけるよ」

「……はい、真冬は僕が何としても守ります」

 湊は真剣だった。真剣に娘の事を心配し、妖精に娘の身を心配ながらも託した。

 ネオも答えるように真剣に頷き、彼女を守ると宣言した。

 湊は頷き、

「さて、じゃあちょっと調べ物でもしようかな」

 リビングに向かい、パソコンを立ち上げる。

「調べものって何を調べるんですか?」

「僕はこれから店の戸締りをするために、すぐにでも店に戻らなければいけないのだけれども、それを押してまでも調べなければいけないことが何かわかるかい?」

「いえ、全然」

 だったら早くいけばいいのにと思ったが、全く態度に出さずにネオが首を振る。

「ロットンハウタニアってどういう意味か気になってね。何しろこれから自分が名乗る名前だ。意味ぐらい知っておきたいじゃないか」

 若干わくわくしながらインターネットを開く湊。

 彼とは対照的に、ネオは顔を青くして(イルカなので元々顔は青いのだが)いた。

「あ……」

「ネオ君? どこに行こうというのかね?」

 こっそり逃げようとしたネオの尻尾を掴みあげる。

 じんわりとネオを体から汗が溢れ、湊の手にしみていく。

「えっと何々……」


 (英)Rotten(ロットン)=(日)腐った、悪臭を放つ、堕落した、とてもいやな。


 (英)Houttuynia(ハッティ二ヤ)=(日)ドクダミ草。


 つまり、湊の二つ名、ロットンハウタニアとは、腐ったドクダミ草の意――――。

 パソコンの光に照らされた湊の顔に全く表情はなかった。

「……あの、パパさん?」

「…………」


 湊はそのまま無言で立ち上がり、冷凍庫にネオをぶち込んだ。

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