第13話 やっちまったぁぁぁぁぁぁぁ!!!
D・アンテとの激戦が終り、公園から出ると、正気に戻った人々がいつものように歩いていた。
「俺たち何をしてたんだろうな……」
「ねぇ~。それより、早くこの髪形どうにかしようよ。いつまでも角刈りじゃいられないよ」
「でも、どこもこの時間は床屋開いてないし……」
日常へ戻っていこうとする人々を見つめながら、湊は笑みを浮かべる。
自分たちは変身し、戦い、平和を取り戻したのだ。
だが、彼らの格好は魔法少女のままで、人目があるところに出るわけにはいかず、狭い路地で人々の様子をこっそりうかがうにとどまっていた。
「よし、終わったな。じゃあこの格好ともおさらばだ。どうやって変身解除するんだ?」
「腰にぶら下がってるフェアリーチェストから、ジュエルを外せば変身は解けるよ」
丈がネオに変身の解除方法を聞き、すぐさまロットンハウタニアから元の丈に戻る。
「あ、おい」
止めようとしたが、湊の姿も魔法少女の格好から元のバーテン服に戻った。一人が変身を解除すると連動して元に戻ってしまうようだ。
「あん? お前まだあの格好でいたかったのか? 街が正常に戻った今、普通に捕まるぞ?」
「いや、敵がもういなくなったから、僕だってそのままその恰好でいたかったわけじゃないさ。ただ……昔見た変身ヒーローものだったらさ。その……変身するときに服がはじけ飛んでそのままもとに戻らないというパターンがあったからさ。そうならないか心配だったんだよ」
「そのパターンだったら地獄だったな……」
自分たちの元の服に何の異常もないことを確かめながら、震えあがる湊と丈。
♥ ♥ ♥
街が平穏に戻っていることを確かめながら、丈と共に家路につく。
丈のマンションの前までくると、タイルが抉れ、戦闘の傷跡が残っている。
「ちょっと申し訳ないことをしたなぁ……」
「コレ大家さんに怒られるぞ」
「ネオ君。都合のいい修復魔法とかないのかい?」
湊が振り返りネオに尋ねる。
「あるよ。ただ、エンシェントステッキがないと使えないけど」
「あぁ……落ちてるときに出てきたあの杖か……じゃあ変身しないといけないね」
丈に手を差し伸べる。
「あん? 嫌に決まってるだろ。敵もいねぇのに変身なんて」
「だけど、このままだとこのマンションの大家さんに申し訳が……」
「エンシェントステッキを出すのなら、変身しなくても出せるよ。ただ、力は八割カットされるけど」
「そうなのかい? まぁ、その程度でも直すぐらいは使えるだろう……エンシェントステッキ!」
フェアリージュエルを握りしめ、手をかざすが、湊の手に魔法のステッキは出現しない。
「出ないじゃないか。やっぱり変身しないと出ないのではないかい?」
「あれ? おっかしいなぁ……」
手を再び丈に向けて伸ばすが、彼は断固として握ろうとしない。
「エンシェントステッキ! 出ないぞ……」
「いや出た」
丈がつぶやく。だが、湊の手にエンシェントステッキはない。
「出たって何が、ステッキはどこにも」
「ステッキじゃなないけど、光が出てる」
丈が指さす先は湊のフェアリージュエルを握りしめた手元だった。
「うおっ……何か光ってる⁉」
指の隙間から光が漏れ出、手を開くと一条の光の線が西の方へ伸びていく。
「…………これって」
「ラピュタみたいだ」
「言うなって」
思っても口にしなかったのに、と丈をどつく。
「この飛行石現象は一体何だいネオ君? この先にラピュタがあるのかな?」
「お前も言ってんじゃねぇか」
「それはパソコンで言うエラーメッセージみたいなものだよ。妖精の力でも本来の機能が修復できないときに、出るものだよ」
「ふ~ん、あ」
光のラインの先を見る。湊にはどうしてフェアリージュエルが飛行石現象を起こしたのかわかってしまった。
「おい、あれ。棒が落ちてるぞ。あれじゃねぇのか?」
丈が地面に落ちてる棒きれを指さす。
「………」
指さす方向を見てみると、確かに見覚えのある白い星のオブジェが付いたステッキが落ちていた。
「あれ? 折れてない? あれ」
ただ、真ん中から真っ二つに折れた状態だった。
「折れてる……完全に折れてるよこれ⁉ え、ど、どうして?」
分割されたエンシェントステッキを拾い上げて慌てる。
ネオはジト目で湊を見つめ、
「ここでちょっと戦ったでしょう? その時に間違えて踏んづけたんじゃないの? あ~あ、やっちゃった。どうすんのそれ。普通変身解除したらそれも消えるのに、消えないってことは完全に壊れちゃってんじゃない。これで大分エンシェントフェアリーズの戦力が低下するよ」
苦言をていされ、だらだらと湊が脂汗を流す。
「ま、フォローは頑張ってくれ。俺はもう二度と変身しないからな」
手を振り、マンションへと入っていく丈。
「何を言っているんだい? 夜に敵が出たらまた僕と戦ってもらうよ」
「「ハァ⁉」」
露骨に嫌そうな顔を二人から同時に向けられる。
「当然だろう。夜に娘たちを戦わせるわけには行かない。そのたびに僕と、丈が出撃する。そうやって負担を減らせば真冬や夏美ちゃんも楽になるだろ。というわけだから、ネオ君、連絡係頼んだよ」
「え、えぇ……えぇ……」
心底嫌そうにぐったりするネオ。
「だ、ああああああ………ああ! いや、その……もっとなんかこう……いい方法あるんじゃねぇの⁉」
もどかしそうに頭を掻きむしる丈。
「ない。じゃあ、また何かあったら連絡するから、解散」
丈の提案をはねのけて、湊は去っていく。
ぐったりと肩を落として、丈はマンションの中へ入り、ネオも沈んだ様子で湊の後に続く。
若干、スキップのような足取りの湊の両手にはサイズが半分になったエンシェントステッキが握られていた。
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