第12話 最強の武器

「何なのよ、あいつら……やる気がないの⁉ それともこの私を舐めてるの⁉ この私を‼」

『エンシェントフェアリーズからフェアリージュエルを奪えばいいんだよ。それができない無能は要らないの』

 ローズブーケの頭に、会社でのグンジョウとのやり取りが頭をよぎる。

「どいつもこいつも……どいつもこいつも私の事馬鹿にして‼ とっととそいつらを潰しなさい‼ D・アンテ‼」

「アンティィィィィィクッ‼」

 D・アンテが吠え、頭部のパラボラアンテナから熱線を吐き出す。

「ビームッ⁉ 丈、危な……‼」

 D・アンテから発せられた熱線はまっすぐ丈の方へ向かい、


「え?」


 避ける間もなく直撃した。

「じょ、じょ―――――――‼」

 噴煙が上がる。

 丈は散りひとつ残らず消滅してしまったのだろうか。

「ってめぇ、何してくれてんだ。人の至福の憩いタイムをよぉ……」

 噴煙の中から人の形に影が揺らめく。

「丈‼」

 煙草をくわえ、全身焦げだらけの丈が姿を現す。

 口に咥えたタバコは真っ黒こげで、丈の眼は怒りに染まっていた。

「戦闘中にタバコなんて吸ってる方が悪いに決まってるゥ‼ D・アンテ! 叩きのめしちゃって‼」

「アンティィィイック‼」

 飛び上がったアンテナの怪人は両拳を握り、頭上に掲げ、丈に向かっていく。

「………あん?」 

 丈の頭目がけてハンマーのように拳を振り下ろす。

 が……、

「遅ぇよ……」



 パァンッ‼



「え………」

 銃声が響いた。

「あ、アンティ……」

 D・アンティの眉間に風穴が空いていた。

 丈の手には拳銃が握られていた。

「え、アレ? 本物?」

 ローズブーケが恐怖する中、D・アンテが地面に崩れ落ちる。

「丈……? 丈……丈、丈、丈丈丈丈ジョウッッッ⁉ 君何やってるの⁉ 魔法少女が拳銃使って良いわけないだろう⁉ それどっから持ち出したんだよ!」

「ラファエロの魔人に通常の重火器は効かないはずなのに……」

 丈は答えず、銃を服の内側にしまった。

「さ、これで怪人は倒した。あとは、あの女を逮捕するだけか」

「ヒィ!」

 実銃を目の前で見せつけられ、ローズブーケは完全におびえてしまい、涙目で後ずさる。

「これで本当に倒したの? ネオ君、銃弾思いっきり効いてるじゃない」

「おっかしぃなぁ……もしかして、丈さんがあれに妖精の力を込めてうちだしていたのかも。そうじゃないとこれで死ぬなんてことはあり得ない……あ、消えてく」

 動かなくなったD・アンテの体をつついて、死んだかどうか確かめていると、光の粒となり、天に上るように消えていった。

 D・アンテの死体があった場所には大きなパラボラアンテナが置かれていた。

「なるほど、これをもとに怪人を作るのか……」

「さ、お嬢さん。あんたどこのどなただい? 警察署で話を聞かせてもらおうか」

 丈は再び服の下から手錠を取り出し、じりじりとローズブーケに詰め寄る。

「あ、ああぁぁ……」

 ローズブーケの顔は恐怖に染まり、全身がガタガタと震える。

 それもそのはず。

 今、彼女に迫りくるのは手錠を持って薄ら笑いを浮かべた魔法少女の格好をした四十路おやじなのだから。

「あああああああああ‼ ああ‼」

 恐怖がピークに達し、激しく首が振られる。

「おいおい、嫌がってもダ……お嬢ちゃん、大丈夫か? 下の地面が濡れてるような……」


「金的ィィィィィッッッ‼」


 ローズブーケの足が振りあがり、丈の股間に刺さった。

「ふぐぁ……‼」

 悶絶し、丈の体は崩れ落ち、スカートの上から股間を抑える。

「ま、ま……貴様……よくも……」

 目に涙を浮かべながら立ち上がり、ビシッと湊と丈に指を突きつけ睨みつける。

「これで、これで勝ったと……思……え? そんな捨て台詞言っちゃうとまた会わなきゃいけなくない……? こんなキモいおっさんとまた……? また、また……」

 目に溜まった涙の量がじわりじわりと増えていく。

「ふ、ふぇぇぇぇん……‼」

「ちょ、まっ……」

 捨て台詞を言おうとしたが言えず、子供のように泣き出して去っていった。

 彼女を呼び止めようと手を伸ばした湊だったが、すぐに黒いマントが見えなくなってしまったので追跡を諦める。

「……ハァ、必殺技で決めたかったんだけどなぁ。おい、丈。股間を抑えるんじゃないよ。魔法少女が」

 いまだに震えたまま起き上がれない丈の体をゆする。

「ふざけんな……ッ! こっちは本当に女の子にされてしまうところだったんだぞ」

 丈の手はいまだに股間を抑えていた。

 そして、ローズブーケが先ほどいた足元には丸く濡れた跡があった。

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