第11話 夜の魔法少女(魔法少女とは言っていない)
所咲街空港公園。
広い芝生を踏み鳴らす四メートルはあるかという巨人と、その傍らに黒衣の女が立っている。
「ホーッホッホッホッホ‼ もっとやりなさい! D・アンテ! D・バリカーンが角刈りついでに埋め込んだ「洗脳アンテナ」にもっと毒電波を流してやりなさい!」
「アンティ~ナ‼」
巨人の顔はパラボラアンテナ状になっており、そこから街中の「角刈りゾンビ」たちに電波を飛ばしているようだ。
その傍らで笑う、黒髪黒マントの女は先日所咲駅でD・バリカーンを操っていたラファエロの戦闘員、ローズブーケだ。
遠目でその時はわからなかったが、街灯に照らされた彼女の体はマントの上からでもわかるほどの巨乳で、前まで包んでいるマントを下から胸が押し上げていた。
「待てぇぇぇぇぇぃいぃ!」
公園に野太い声が響き渡った。
「来たようですわね、エンシェントフェアリーズ! 今日という今日……随分と声が低かったけれど、風邪気?」
声の下方向を見やるローズブーケ。
いつもの小さい体に強い力を秘めた二人の魔法少女が来ているものだと思って、目を凝らした。
「⁉」
遠くから街灯をバックに男らしく歩いてくるのは筋骨隆々の二人の中年。
ダンディな堀の深い顔をした男に、ワイルドに全身に傷をつけた男。
それだけならローズブーケの好みで、非常にときめくおじさま二人組なのだが、
「な、何で、ゴスロリファッションしているの⁉」
鮮やかな蒼と真紅のゴシックロリータドレスを着た男二人が大地を踏みしめて歩いてくる。
「ヒィィィィィィィィ‼ 変態よォォォォォォ‼」
初めて、ローズブーケは心の底から湧き上がる根源的な恐怖を感じた。
「僕たちは妖精の国から来た正義の使者だ!」
「どう見ても妖怪の国から来た悪辣な変態よ! 助けて、お巡りさ~ん‼」
ダッシュで逃げ出すローズブーケ。
「へっ、若い娘に泣かれるのは結構胸に来るな……」
「涙を流してないで、行くぞお巡りさん!」
ツーと頬を伝う涙をぬぐう丈の肩を叩き、気合を入れるために拳を鳴らす。
すぅっと息を吸う湊。
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ、魔人を倒せと俺を呼ぶ! 魔法少女ロットンハウタニア‼」
「やあやあ‼ 遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ! 我こそは天下無双の魔法少女、ロットンラフレシア‼」
決めポーズをとって宣言する、ドレスを着たおっさんたち。
ビリビリと震える大気を感じながら、ついてきたネオが首を振った。
「セリフに世代が出ているなぁ……」
「「我ら、正義の二連星! 二人そろって……!」」
湊と丈がそろった動きで手を叩き、足を高らかに上げる。
足を上げたせいで、スカートの下が見えてしまった。
「アンティ……」
ばっちりと中を見てしまったD・アンテがげんなりと首を垂れる。
「「魔法少女……マジカルッッッッ‼ ロットンッッッッッ‼」」
拳を突き出した決めポーズを決めるフリルのおっさん二人組。
草葉の陰からこっそりと見ていたローズブーケは唖然としてつぶやいた。
「少女じゃない……」
二人のおっさんは決まったとばかりに頷き合う。
「さぁ、かかって来いかいじ……おい、こら! 逃げるな! やる気をなくすな‼」
「アンティ……?」
全身がしおれて明らかに戦意喪失したD・アンテを呼び止める。
「そりゃ、こんな格好をしたやつらが来たら帰りたくなるわな」
「怪人に同情するな、ラフレシア。あちらが来ないならこちらから行くぞ」
ジリッと地面を踏み鳴らし、腰を落とす湊。
だが、丈は腕を組んだまま、怪人に同情の頷きをし続けているだけだ。
「おい、ロットンラフレシア!」
ドン、と丈の肩を叩く。
「え、あ、あぁ……ラフレシアって俺のことか。さっき命名されたばっかだから覚えてねぇよ」
「来る途中さんざん打ち合わせして、今決め台詞言ったばっかでしょ⁉ ちゃんと覚えて! ハイ、復唱、私はロットンラフレシアです!」
「私はロットンラフレシア。正義の魔法少女です」
死んだ目をして復唱する丈。
「も~! 何なのよあの気持ち悪いやつら‼ D・アンテ! 一秒でも長く視界に入れたくないからとっととすりつぶしちゃって!」
草むらから飛び出し、D・アンテに指示を飛ばすローズブーケ。
「アンテ~~~~~‼」
アンテナの怪物、D・アンテが、腕を振りかぶり殴り掛かってくる。
「よし、来い!」
両手を前に掲げてガードの態勢をとる湊。
変身後の防御力がどんなものなのか、あえて攻撃を受けようとしたが、D・アンテの手がピタリと湊の眼前で止まる。
「……どうした」
「アンテ……ェ」
D・アンテの全身が震え、気弱な声が漏れる。
「どうしたのよ⁉ D・アンテ! とっととそいつ潰し……え? 何っ? 触りたくない⁉」
「アンテェッ!」
「何言ってんのよ! 私だって嫌よそんなの触るの‼」
敵陣が湊に触れることができないともめ始めた。
魔人と女怪人のやり取りを聞きながら、湊の肩が下がっていく。
「……まぁ、当然の反応だ。受け入れろ」
ポンと湊の肩に丈の手が乗る。
「別に落ち込んでなんかない……が、そっちが来ないのなら……こちらから……行くぞ……」
「テンションめっちゃ下がってる……」
湊が駆け出し、D・アンテの足を掴む。
「アンテ⁉」
そのまま飛び上がる。
D・アンテの巨体を宙づりにしながら、上昇していく湊。
「マジカル☆重力落とし!」
そのままD・アンテを頭から落とす。
「アンティィィィ……」
地面に頭をめり込ませながら悲鳴を上げる。
魔法おっさんの活躍にローズブーケは目を見張る。
「ああ、意外と強い! 恰好は狂ってるけど」
D・アンテはすぐに立ち上がり、手を振り回して立ち上がる。
「アンティィィィィィ‼」
攻撃を受けた屈辱で、完全に激昂していた。
相手が気持ち悪いということはもう頭から捨て去り、一文字に湊へ向かって突撃する。
「来るぞ、湊!」
カチッ……。
「ああ……‼ 今の音何⁉」
丈の方から警告と何か金属音に似た音が聞こえたが、襲い来るD・アンテの攻撃を避けるのに精いっぱいになり、丈の方を見てられない。
次から次へとくる大質量の拳の嵐。
その中を機敏なフットワークとジャンプでかわしていく。
「凄い、流石魔法少女の力! こんなこともあろうかと日々鍛えていたが、ここまで動けるのは初めてだ‼ これなら巨人相手でも簡単に‼」
足を踏み込み、D・アンテの懐に向かってジャンプする。
「フハァ~………」
「アンテ⁉」
「勝てる‼」
D・アンテの腹部を思いっきり殴りつける。
「アンッッッ……ティィィ……」
カチッ……。
D・アンテの巨体が吹き飛び、木々へと突っ込む。
ガッツポーズを決めようと拳を握りしめる湊だが、
「さっきから何の音だ⁉ 君何……ッ⁉」
音のする方、丈を見る湊。
その目が驚愕に見開かれる。
「タバコを吸ってんじゃねえよ! 丈ッッッ‼」
ベンチに座り、煙草を吸ってる魔法少女の格好をしたおっさんがそこにいた。
丈は怒鳴られたというのに悪びれもせず、灰皿にタバコを押し付けた。
「タバコでも吸わねぇとやってられねぇよ。こちとら好きでこんな格好してんじゃねぇんだよ」
「魔法少女がタバコ吸って良いわけないでしょう⁉ しかも今、僕戦ってたでしょ⁉ 何呑気に一服してんのよ‼」
「俺がいなくても勝てそうだっただろうが。いいから早よ倒せ、倒せ」
カチッ……。
「二本目吸ってんじゃねぇよ‼」
丈はゆっくりとタバコの煙を吐き、答える。
「二本目じゃねぇ、三本目だ」
「なお悪いわ!」
「……………ッッ‼」
遠くから見ていたローズブーケが、プルプルと全身を震わせて拳を握りしめる。
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