第7話 街の異変……よくある戦いの前の導入

 所咲町を離れ、東京新橋にローズブーケたちが拠点にしている株式会社ラファエロはある。

 ビルが乱立しているビジネス街。

周囲のビルに負けず劣らずの超高層ビルこそが株式会社ラファエロ本社である。


「申し訳ありません!」


 その中にあるオフィスで、ローズブーケは金髪のスーツ姿の男に頭を下げていた。


「え、っとどういうことかな……ローズブーケさん。最近ウチの課の業績が下がっているのは知っていますよね?」


「そ、それは」

「どうしてか、わかりますよね?」

 悔し気にローズブーケが拳を握りしめる。

「……私がいつまでもエンシェントフェアリーズからフェアリージュエルを奪えないからです」

「そう、その通りですよ。ローズブーケさん。古代にあった妖精の力。それを使って新しいエネルギーを生み出し世界中に供給しているという、第三エネルギーの輸出。それがウチの会社の商売だっていうのに……いつまでたってもその結晶体であるフェアリージュエルが手に入らないとは情けない。あれには無限の妖精の力が手に入るというのに……ねぇ~、やる気あるの?」

「……そんな重要なものバイトの私に任せるなよ」

「んん⁉ 何か言いました? ローズブーケさん」

「いえ、何も!」

 聞こえないように愚痴ったつもりだったが、金髪の耳には届いていたようだ。

「ちゃんと給料もらっているのですから、給料分はちゃんと働かないとダメですよ……マイナスエネルギー集めも滞っているじゃない、か」

「それは……それも、全てエンシェントフェアリーズが強すぎるんです!」

「自分の無能を人のせいにして」


「だったら、グンジョウさんが出撃すればいいじゃないですか!」


 ドンと机を叩き、怒るローズブーケ。

 だが、金髪の男、グンジョウにじろりと睨まれると、蛇に睨まれた蛙のように怯える。

「あ……」

「まぁ、出てもいいんですよ出ても。が、君は何でもやるって言ってこの会社に入ったんだから、言った以上はできるだけのことはしてもらわないと……困る。別に私が出てもいんだけどね」

「何度出てもいいっていうのよ……だったら! だったら、もっと強い魔人を私に!」

「予算はかっちり決まってるんだから、渡せる魔人にも限度があるんですよ。これ以上無駄に魔人を減らすやつにホイホイ次から次へと渡せるわけない。でしょう?」

「だからって、サービス残業はもう嫌です! 私にも生活があるんですよ! 給料も出ないのに夜遅くに出撃させられて、わりに合わないじゃないですか!」

 悲痛に叫ぶローズブーケ。

「だったら、エンシェントフェアリーズからフェアリージュエルを奪えばいいんですよ。それができない無能は要らないんですよ。今までは業績が良かったから定時退社も許されました。ですが、もうそんなこと言ってたら利益が出ないのですから」

 グンジョウはローズブーケの肩をポンと叩き、

「夜のお仕事頑張って、エンシェントフェアリーズを早く倒しちゃってくださいYO」

 耳元で呟き、ローズブーケの顔が曇った。


          ♥       ♥      ♥


 日をまたいだ深夜の二時。

 この時間になると流石に客足も途絶え、バー「ザルクシックス」には誰もいない。

 いつも丈は十二時近くなると帰るし、この日はずっと席に座って小説を書いている 春奈の姿もない。

「春奈ちゃん、次はいつ来るのかな……」

 カウンターに置きっぱなしの五百円を寂しそうにくるくると回す。

 この時間からでも来てくれないかとふと扉を見つめると、ガラスの向こうで異常な光景が広がった。

「ん?」


 不思議に思って窓から外を見ると、フラフラと道路を歩く角刈りの集団がいた。


 男も女も見な角刈りで、意識があるのかないのかよくわからず、フラフラのろのろとどこかを目指して歩いていた。

「一体……なんなん……」

「ギャハハハハ! 見ろよアレ、角刈りゾンビの集団だぜ!」

「ほんとぅ~、うける~!」

 ガラの悪い不良集団が角刈り集団を指さし笑う。

 角刈り集団は不良たちへ顔を向けると、彼らに向かって歩き始めた。


「え、何? 気に障っ……来んなよ! あっち行けよ!」

「こいつら凄いちか……やめっ……ギャアアアアアアア‼」


 角刈り集団が覆いかぶさるように不良たちを覆う。

 しばらく動かなかったが、やがてゆっくりと角刈りがどいていくと、下敷きになっていた不良たちが出てくる。

 彼らの眼はうつろで、髪が……角刈りになっていた。

「コレってもしかして、昨日の角刈り光線の……影響か? まだ残っていたのか……」

 D・バリカーンと言ったか、あの巨人は。あれの本当の特性はただ角刈りにすることじゃなかったのだ。

 しばらく時間が経てば脳を汚染され、低下した思考能力のまま彷徨い仲間を作る「角刈りゾンビ」にされてしまう。

「やばいな……このままじゃ大変なことになる。真冬に知らせないと」

 家に一人残している真冬が心配だ。

 湊は「角刈りゾンビ」に見つからないように裏口から出て、家へ向かう。

「待っていろ、真冬! ゾンビが襲ってきてもお父さんが守って……守って……」

 そういやウチの娘は魔法少女だった。

「真冬がエンシェントシスターズなら襲われても撃退する……か。いやそれどころか、進んであいつらと戦わなければいけないのか……」


 ……それっていいのか?


 娘に戦わせて、父親として自分はそれでいいのか?

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