第3話

 退院時のジローは、産後直後の大きさくらいだと言われた。

 病院はお腹の中で過ごす代わりだったということだ。

 成長の度合いも、1ヶ月半程度遅らせた修正月齢で見ていく。


 入院中、担当して下さった先生に、「泣きますか?」と聞いた。


「そうですねー、泣きますよ。多分、結構泣きます。ちょっと…大変かもしれない。」


「え?そんなにですか?」


「まあ、泣かない赤ちゃんの方が心配です。産まれてすぐの頃は、体力が無くて寝るのが精一杯なんだけど、成長してきたら泣く力もでてくるから。

 泣いたら肺も強くなるし、思いっきりたくさん泣かせてあげてください。」


 …はい、泣かせなくてもいっぱい泣いてます。


 でも、大変な毎日の中で、先生から言われたこの言葉はすっかり忘れてた。


 どちらかといえば、泣かせないように、泣き止ませるように、と頑張ってる。


 退院時すでに修正月齢と同じく生後1ヶ月半が過ぎていたが、頻回授乳で、2〜3時間おきに授乳するから、お腹いっぱいになって寝る、お腹が空いて泣く、の繰り返しだ。

 昼も夜も関係ない。


 でも、退院後2ヶ月経ったくらいから、少しずつ夜の睡眠時間が長くなる。

 最初は夜中から朝方にかけてちょっとずつという感じで。


 夜にまとめて寝るようになってきたら、私のスクワットが始まった。

 まだ背中スイッチは出現してない。


 そこからしばらくはスクワットだけでなんとかいけたのだけど、だんだん背中スイッチが出現してきたのだ。


 タローには無かった背中スイッチ。


 1時間スクワットした後の背中スイッチには流石に泣きそうになった。


 寝かしつけは次のステージに移行する。


 次のワザは“おひな巻き”


 バスタオルを半分に折り、ジローを置いたら、顔と手を出してラップ巻きする。足はM字でキツくならないように、でもしっかりと巻く。


 初めて“おひな巻き”を知った時、赤ちゃん辛くないの?って思ったけど、しっかり巻いた方がお腹の中にいる状態と同じで安心するとのこと。


 ベテラン看護師さんに上手に巻いてもらった時があって、すごく参考になった。


 特に寝入りにビクッと体が動いて目が覚めてしまうのを防ぐ効果もある。

 もちろん、顔は絶対に出しておく。


 そして、またスクワット。


 でも、背中スイッチはこれだと防げないということがすぐに分かった。

 寝たと思ってすぐ置いたらやっぱり泣くのだ。


 じゃあ抱っこしたまま寝るか?


 抱っこして横になってみる。


 すごく寝にくいし、意味がない。


 それでやってみたのが、

『スクワットで眠らせたジローを、おひな巻きで抱っこした状態で、私がお山座りする。』


 なかなかいい。

 背中スイッチは作動しなかった。


 それから10分くらい経ってから、

『私がお山座りしたまま、おひな巻きしたジローをお腹の上に立て置きし、ジローの背中を私の閉じた両足の間にもたれかけさせ、対面式で寝させる』

 という形へ移行する。


 ジロー的には、斜めに傾斜のついた少し硬めの布団(私の太腿前側)で寝るくらいの感じになる。


 ジローがぐっすり寝てくれるし、私もクッションを使って壁にもたれかかってるから、思ったより体が休まった。


 抱っこのままでもいいとは思ったが、この形の方が私の両手が空くので、やっぱり都合が良かった。


 その状態で30分くらいキープして、布団へ寝かせ、おひな巻きをはずす。


 おひな巻きのおかげか、その間はいつもより泣きは少なかった。


 私的には一番いい方法だったが、こう思う人は多いだろう、

 

 『自動のスイング使えば?』


 これはジローにはあまり効果がなく、結構泣いた。


 『おしゃぶりは?』


 タローの時、タローに合う形のおしゃぶりを探していっぱい買ってみたが、試しただけで全然使ってないものが家にあった。

 それを使ってジローにも試してみたけど、どれも全部受け付けてくれなかった。


 『添い乳すればいいのに。』


 周りのママは、「添い乳、楽だよー。」と言う。


 でも私、下手なんです。


 最初の方で『ワザはある』なんて偉そうに言ったけど、タローの時、添い乳はほぼ未経験なのだ。


 タローは母乳だったけど、直母ではなく哺乳瓶で搾乳した母乳を飲ませる期間が長かった。


 そして何より、初めての経験でどうすればいいのか分からなかったのだ。


 チャレンジしたこともあるけど、全然上手くできなかった苦い思い出しかない。


 ジローも入院期間中は哺乳瓶での母乳(私の持ち込み)だったので、やっぱりそんなに直母に慣れていないし、まだまだ小さなジロー相手に怖くてできない。


 ということで、時間はかかるが、しばらくこの連携スタイルでいくことにした。

 

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