第2話
……とはいえ、魔王討伐を決意してから最初の一年は大変だった。なぜなら、旅立ちの街を出たばかりの俺達は、少し遠出したところに出没する魔物にも四苦八苦する有様で、とても四天王を倒すどころじゃなかった。だから、俺はまず東の王都に立ち寄り、修行した方が良いとオサナやツキカゲに提案したのだが、タツカだけが頑として首を縦に振らなかった。サナミを助けたいあまり、先を急ぎたいのは分かるのだが……。なので、俺はツキカゲに頼んで、タツカを説得してる隙に、首根っこを手刀で叩いて気絶させてもらった。まあ、王都についてからも、タツカは俺達三人の目を盗んで、王都を抜け出そうとしてたけど……その時のタツカは足が遅かったから、簡単に捕まえられた。
……それからさらに一年後、東の王都で修行し、成長した俺達は、手ほどきしてくれた師匠にお礼を述べ、東の王都をあとにした。
その後、俺達は実戦で経験を積み上げ、様々な街や王都を巡っては、色んな情報を得て、四天王のうち三人を倒してきた。四天王のひとりを倒す度、サナミに会えるのでは、と淡い期待を抱いたが、世の中そんなに甘いものでは無かった。まして、その中にはジンは含まれていなかったので、当たり前といえば当たり前なのだ。
ジンは……サナミは……一体どこへ連れ去られてしまったのか……
やはり……もう……
そんな最悪な事態も脳裏に浮かべながらも、俺達は来る日も来る日も街を巡り、情報を集め続けた。
そこから一年が経ったある日、俺達は『トアール街』で、とうとうジンの居場所を突き止める。その場所とは、最終目的地としている魔王城だった。魔王城の行き方を知った俺達は、始め、最短距離で攻め込もうとしてた。だが、血気にはやった俺達を心配してくれたのか、右手に
そして、俺達は早る気持ちを抑え、助言通りに教えられた要塞都市に向かっていたのだが……その途中、俺達は森の中にひそむ盗賊たちに取囲まれた。
……正確にいうと、取囲まれたのはオサナひとりだったのだが……
歳のわりには背丈が低く、顔も幼いから簡単に捕まえられると思ったのだろう。
その気配を瞬間的に感じとったのか、オサナは右手に持った月の杖を頭上で怒り任せにぶん回し、地団駄を踏みながら周囲に
それにより、オサナを取囲んでいた盗賊達は一瞬で黒こげになり、一人残らずその場に倒れ伏す。
その光景を、俺とタツカとツキカゲは、近くの木の陰に隠れてちょっと引き気味に傍観していたのを覚えている。
そして、オサナの怒りが落ち着いたのを見計うと、俺は、オサナを取囲んでいた盗賊のひとり、
すると、頭っぽいやつは、人身販売するために、か弱そうな女子供を狙ったと言い、さらに近くに盗賊のアジトがある事まで教えてくれた。それを聞いたオサナは、頭っぽいやつを月の杖で袋叩きにしようとしたが、済んでのところでタツカとツキカゲが取り押さえてくれた。
……あの時のオサナは、ちょっと怖かったな……
とはいえ、このまま盗賊を野ざらしにしてはおけないと思った俺達は、頭っぽいやつと、オサナを取囲んだ残りの盗賊達を引き連れ、盗賊団のアジトまで道案内を頼んだ。
アジトにつくと俺達は、さっそく中に攻め込み、盗賊団を懲らしめる。タツカは盾攻撃で盗賊団を蹴散らすと、ツキカゲはお得意の忍術でばったばったと気絶させ、オサナは、怒り狂って雷の魔法を使おうとしたところを、俺が済んでのところで羽交い締めにした。
こうして盗賊団を懲らしめた俺達は、盗賊団の頭領に他に人質がいないか問い正すと、頭領は、あごで奥の部屋を指し、そこに人質がいる事を教えてくれた。
それを聞いた俺は、オサナに、頭領と残りの盗賊団を『トアール街』の地下牢へ転移魔法を使って、ひとり残らず転移するよう頼む。
ちなみに、転移魔法というのは、物体をある場所から全く別の場所へ移動させる魔法のことだが、基本、転移魔法は本人を軸(この場合はオサナ)として、移動させたい対象に触れながら、今まで立ち寄った事のある城や街に移動しなければならないため、魔法を唱えた本人は転移元にとどまる事は出来ない。
だが、修行を積んだ今のオサナは、自分は転移することなく、他の人を転移出来る様になった。これは、すごい高等技術なのだ。
オサナが悪魔の笑みを浮かべ、頭領と盗賊団を転移をさせている間、俺は、タツカとツキカゲの三人で、人質がとらわれているという、奥の部屋へと向かう。
その部屋は、ぼろい、木の扉で施錠されていた。
俺達は、その木の扉を無理やり手前にこじ開けると、中にとらわれていた子供や女性達に、助けに来た事を伝える。
中にいた子供や、女性達は最初、怯えて奥の壁にひっついていた。助けが来るなんて信じられなかったんだろう。
だが、怯え、ふるえていた女性達のひとりが、ゆっくりと立ち上がり、こちらに向かって、こう声をかけて来た。
……タ……ツ……カ……?
……と
俺達は、最初、そんなはず、あり得ない、と思った。
だが、彼女は、確かにそこにいた。
ジンに連れ去られたはずの『サナミ』が……
タツカは命に次に大事な大盾を放り出し、サナミに駆け出して行く。サナミもまた人質の間をかき分け、ふらふらになりながらタツカに向かって歩き出す。
途中、サナミは地面に足をとられ、転びそうになるが、タツカがその厚い胸とたくましい両腕で、しっかりと受け止める。そして、自分の胸元で真っ赤にした顔をうずくまらせるサナミを、タツカはたくましい両腕で優しく立ち上がらせると、ふたりは、お互いの存在を確認する様にしばし、見つめあう。
この瞬間、俺は神様に感謝してしまった。
サナミを生かしておいてくれたことを。
そして、タツカに、再び魔の手から救出するチャンスを与えてくれた事を……
その後、盗賊のアジトから、人質を全員助け出した俺達は、その足で要塞都市に向かって歩き始める。
……その間、サナミは魔王城直前で、ジンの一瞬の隙を突き、死にものぐるいで逃げて来た話とか、追いかけてくる魔物から、奇跡的に要塞都市を護る要塞団に助けられた話などをしてくれた。……タツカの腕に抱きつきながら。
そして、サナミは、タツカから離れずに、要塞都市は金持ちしか住めないため、近隣の村まで護衛もらい、その村がこの近くにある事まで教えてくれた。……最初に言ってくれって思ったが……
そうしてたどり着いたのが、いま宿泊している『チョコント村』……というわけだ。
……今思うと、本当に色々あったよな……
俺は、足を反対へと組み直し、思い出に浸っていた自分を現実へと引き戻す。
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