まだ間にあう! 盾使いよ! 俺達パーティーのことなんてどうでも良いから、さっさと抜けて幼馴染みを追いかけろ!!

ネオ・ブリザード

第1話


 俺の名は『テンセ天瀬=イチト一人

 世界最強と呼び声高い勇者だ。年齢は20歳。



 今、魔王城に一番最近い要塞都市……の隣にある小さな村『チョコント村』で、仲間である盾使いの『タツカ龍火』(21歳)、女魔法使いの『オサナ幼奈』(19歳)、忍者の『ツキカゲ月影』(22歳)の三人と、旅の疲れを取るため、村の中心部にある宿屋で宿泊していたのだが……














 それは、隣の要塞都市に出立する、前日の深夜の事だった。



 俺は、同室で宿泊していたタツカを起こさない様に、ツキカゲを部屋の外に呼び出すと、唯一、隣の部屋に宿を取っていたオサナの寝室へ移動する。


 ……ある会議を始めるために……






 …………次の日の朝、俺とツキカゲが部屋にいない事に気づいたのであろう、タツカがオサナの部屋の扉を叩いてきた。



「……どうぞ」



 俺は、重々しく返事をする。

 本来なら、部屋を取っているオサナが返事をするべきなのだろうが、今回は少し事情が違う。


 タツカは、少し間を置いてから、ゆっくりと扉を開ける。やつの事だ、扉の向こうで少し躊躇していたのだろう。見えなくても解る。



 タツカは、扉の取っ手を握りながら、椅子に座っている俺を真正面に捉えると、呆けた顔で右のベッドに腰掛けているツキカゲ、左のベッドで寝そべっているオサナへと順に視線を移す。




「な……、なあ、みんな何かあったのかい? 妙に真剣な顔して……」



 再び、顔を俺の方に向けたタツカは、おどおどした感じで話し出す。



「お前、何時までそうしてるんだよ。早く扉を閉めて、部屋の中に入ってこいよ」



 俺は足を組みながら、タツカに部屋に入ってくるよう手招きをする。すると扉を閉め、部屋の中に入って来たタツカは、二つのベッドの間……ツキカゲとオサナの少し手前で止まり、言われてもいないのに、背筋を伸ばしながら床に正座する。



「……なんで正座してんの?」

「いや……なんか、物々しい雰囲気だったから……」



 うつ伏せになりながら不思議そうに尋ねるオサナに、緊張しまくりで答えるタツカ。

 いや……オサナさん……あんたは一度、体を起こそうか……?



 そう思いながらも俺は、一度大きく咳払いをすると、タツカに会議で決まった重大な決定項を伝える。



「タツカ……今から俺が言うことを良く聞いてくれ」

「な……なんだい……」

「君には今日限りで、このパーティから出ていってもらう事になった」

「な……何だって!!」



 タツカにとって、俺の言葉は寝耳に水のようだ。そりゃそうだろうな。ついさっき決まった事だから。



「り……理由を聞かせてくれ!! 納得のいく理由を!!」

「……あんた、本当にわかんないの……?」



 問いただしてくるタツカに、オサナは、心底面倒くさそうな目をすると、ようやくその身体を起こし、右手でタツカを指差しながらきつい口調で詰問を始めた。



「じゃあ、逆に聞くけどさあ? あんた、この村に来てから、何か変わった事がなかったか、よおぉく思い出してごらん?」


「こ……この村に来てから……?」



 タツカは腕組をすると、この村に来てからの事をぶつぶつと声に出し始める。



「そ……そんな事言われても……この村に来て、変わったことと言ったら……」

「言ったら?」

「ち、近いよ……」



 オサナがタツカに顔を近づけ、圧力をかける。

 タツカは、その圧に気圧されながらも、何かを思い出したかの様に天井を見上げる。



「あ、そう言えば……昔、おなじ街に暮らしていた、幼馴染みのサナミに会ったかな?」



 今、タツカが言った幼馴染みの『サナミ』というのは、ここよりも遥かに遠い『旅立ちの街』に住んでいた女性の事だ。

 旅立ちの街に暮らしていた頃のタツカと幼馴染みのサナミの仲はとても良く、誰もが羨むほどだった。


 因みに、俺と他のふたり……オサナとツキカゲも、魔王討伐を決意する前は『旅立ちの街』に暮らしていて、日々の生活は、魔物の襲撃から街を守る『魔撃退まげきたい』というものに属することで賄っていた。


 まあ……魔撃退と言っても名ばかりで、やる事と言ったら外壁の修復や、老朽化して今にも崩れ落ちそうな教会の屋根の修繕……の手伝いばかりだったけど……




 そんな俺達が魔王討伐を決意することになったのは、忘れもしない、三年前の『四天王ジン襲撃事件』だ。


 あれにより、街に暮らすほとんどの女性が魔物にさらわれ、サナミも一緒に連れ去られてしまった。



 旅立ちの街は壊滅的な被害を受け、奇跡的に生き残った街の人たちは、実戦経験皆無な俺達『魔撃退』を責め立てた。



 だが、こんな事をしていてもしょうがないと悟った街の人達は、魔撃退の人達と一緒に、旅立ちの街の復興に力を入れることにしたのだ。



 連れ去られた女性達は、死んだものとして……



 しかし、タツカだけは違った。タツカは、街の復興を放り出し、さらわれたサナミを助けるとか言い出したのだ。



 その時の、街のみんなの目はとても冷ややかだった。そりゃそうだ。タツカは盾の扱いはそれなりでも、剣の腕前は未熟、とても四天王を倒せるはずがない、そう思ったのだ。

 俺達も、そのことは重々分かっていたので、四天王のジンを倒しに行くと言うタツカを、オサナとツキカゲと俺の三人で取囲み、必死に説得した。

 みすみす死なせるような真似、したくなかったからな。




 だが、タツカは無言で俺とオサナの間をすり抜け『四天王ジン襲撃事件』によって歪んでしまった大盾と、右半身がむき出しになった鎧を身に着けたまま、瓦礫と化した街門へ歩いていった。



 俺達は少しの間、タツカの後ろ姿を呆けた様に見つめていたが、どこかおいて行かれた気持ちになったのか、みんな、小さくなって行くタツカの背中を追いかける。



 そして、街門を出たところでタツカをつかまえると、改めてタツカを説得した。俺達も一緒に行く……と



 あの時が、俺達四人が魔王討伐を決意した記念すべき日になった。

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