第18話 ​​旧友と再会する話

 無事にアイスパを倒し、エックスさんたちの職場にやってきた私たち。今はそこで休憩をしている。


「暇だ」


「ですね」


かれこれ30分くらい待っている。


「そういやエニーがつけてる宝石ってどうなの? むはんのう?」


エミリーが付けてる宝石について聞いてくる。


「そうなんだよねぇ」


「なんかこう、詠唱で何とか!」


「それで何とかなるんだったらそうしてるって」


「んー、炎の鍵ってやつがあれば何でもできるんじゃない? あれで猫倒したって言ってたじゃん」


確かに、炎の鍵は強力だった。無詠唱で特殊効果をバンバン引き出せたし。でも、戦闘時は無我夢中で結局何ができるのかはわからずじまいだった。


「実際のところどうやって倒したの? ビーム?」


「いつも通りだったようなちょっと違ったような......」


ううん、上手く答えられない。


「てゆうか即死とか使えないのー?」


とぼけた顔でエミリーが問いかける。


「エミリー知ってて聞いてるでしょ。聖書に直接的な生死の制御は禁じられてるって」


「炎の鍵なら何でも出来んじゃないのかって思っただけ」


「まあ......今度試してみるわ」


確かに試せばよかったな。今度やってみるか。もっともそんな機会がくるのかわからないけど。


「あんたたち、そろそろ仕事よ」


エックスさんが声をかけてきた。どうやら葉長石の加工が終わったらしい。ようやく終わったか。


「それで、お仕事とは?」


「この加工した葉長石に自分のエネルギーを流し込むようなイメージを思い浮かべて欲しいわ。あとそこのジジイと若造と手を繋ぐことね」


「ええ......」


「仕事なんだから我慢しなさいな」


「まあ......それだけなら......」


ジジイさんと若造さんと手を繋ぎ、詠唱をする。


「門よ開け」


ぐっ!? なんだこの感覚は? 胸が痛いんだけど!


「い、いてて......」


「どうしたのよ?」


「胸の当たりが痛いんすけど」


「あら、おかしいわね。痛みとかはないはずだけど」


「もう一回やってみます」


「頼むわよ」


「門よ開け」


い、いってぇ......。他のメンツを見た様子だと痛がってるのは私だけみたい。なんでだろ......。


「源のプールより流れしエレメントよ、この白き鉱石に流れよ......」


エックスさんの詠唱は他のメンツの詠唱より一番難解だ。めっちゃ汗かいてるし難しいんだろな。私は謎に胸が痛いけどな。


「虚空の現象、負の波動を一点に集め......」


エミリーも随分険しい顔をしながらの詠唱だな。


こんな感じのやつが10分ほど続いて、繰り返された。エディットを使うとエレメントの移動に伴う疲労感があるのだが、今はいつもの倍疲労感がする。


「はぁ......疲れだぁ、吐きそう」


「エニーさん大丈夫ですか?」


「ロック君こそ大丈夫なの?」


「まあ疲労感はありますが、エニーさんはもっと深刻そうに見えます」


「なんか、痛いんだよね......うう......」


「痛がっているところ悪いけどあんたにはもう一仕事してもらうわよ」


エックスさんは私の指輪に触れ、ポケットから別の石を取り出した。ビー玉サイズの小さな石だ。


「これは可視化石。ギルドとかに置いてあるステータスがわかるやつよ」


「それをどうするんですか?」


「これを飲み込んで、その状態で左手に指輪、右手にあたちの手を触りなさい」


「ええ?」


「そうよ。この石が情報解析の手助けになってくれるはずわよ」


まあ今渡された奴はギルドのものより小さいし飲み込めないことはないけれど、嫌だなぁ。


「えー」


「黙って飲み込んで!」


強引に石を飲み込まされる。ぐ、きつ。


「ぐえ」


「よろしい、それでは詠唱を開始して頂戴」


はいはいやれば良いんでしょう、やれば。はぁ。


「門よ開け」


詠唱を開始する。でも実際解析しろって言われても難しいな。


「我身体に取り組みしタンブルよ、迷える子羊を導き解を教えたまえ」


まずは飲み込んだ可視化石にアクセスしてみる。おお、なんかじんわりと可視化石が暖くなってきた気がする。


「我左手にあるは天界で造られし秘宝なり。女神の使いよ、我は正義によってこの秘宝の力を制御し地上に祝福をもたらす未来を願うばかり。どうかその巧妙な性質をうち明かし、愚かな我々に手助けをしたまえ」


ふと左手の秘宝をみると七色に光っている。上手くいってるっぽい!


「きたわね、あたちも手伝うわ。門よ開け......」


エックスさんも詠唱を開始する。


「エレメントの動脈を感じ、適合せよ......」


上手くいくかな?


「あぐっ!」


エックスさんが、急に手を離す。そして、手を痛そうにしている。


だ、大丈夫か?


「いてて......制御が難しいわ。あんたひとりで頑張りなさい」


あらら、ダメだったのか。手伝って欲しい気持ちはじゅうにぶんにあるけど、仕方がない。Sランクエディター様の私がやるしかない。


「道をたどり秘宝のエレメントよ、姿をあらわしたまえ。その身体の奥底にある性質を我の身体の奥底にある命令系統と......」


ええと......ここからどうしよう......。


「あっ、光が消えていくわよ。やばいわ!」


エックスさんがそう言った。確かにやばい。ええと......。


「因果律の結合によって世界の理を大きく変革させるものと知る。その壮大な法則に愚かな我々には容易く触れることは容易ではないと察する。しかし、我は正義と地上の発展のために身を犠牲にしてでも膨大な因果の......一部である希望という名の糸を制御を行うことを切望する......」


かみそう。


「お、また光出したわね」


それはよかったけど、あと一歩なんだよな。


「第一に、我の構造を......」


と、このように詠唱に苦戦していた瞬間。


「ぎゃっ!」


急に縄が飛んできて身体を縛り付けられた。もちろん詠唱もストップで、石も光を失ってしまった。


「何事!?」


「よう大平っち、久しぶりだぜ」


「え!?」


この声、この姿、奴だ。吉田だ!


「こんにちはみなさん。そして大平っち」


高身長でメガネ、リスの髪留めをしていて茶髪のロングヘアだ。昔より髪が長い気がするが、まあおおよそ同じだ。私の前世である大平と、現在のエニーの姿も少し違う程度でおおよそ同じ。吉田もそれくらいの差だ。


「あんた、エニーの友人?」


エックスさんが問う。


「その通り。自分は大......エニーっちのお・と・も・だ・ちなんだぜ」


にやけ顔で吉田が答えた。


「じゃあなんで拘束してるのかしら?」


「言い方がひどいじゃないか、拘束だなんて。ただその石にはちょ〜っと触れて欲しくないなって」


「どうしてだ吉田?」


「吉田......この世界では 《イリー・スクワーレル》 と呼んで欲しいぜ」


「イリー! この石の秘密を知っているのか!?」


「その指輪の石は権限強弱石といって、エディットの強さをコントロールすることが可能になる。ロータス卿の秘宝の一つだな」


そんな強力な物がなぜ普通にあるんだ?


「そんな強力な物がなぜ普通にあるんだ? って顔してんな?」


「心を読むな」


「だって普通は使えないからな。ただエニーっちなら使えるだろう。詠唱にまる1日は必要かもしれないけど」


「そんなにかかるの!?」


「それでも使えることは使える。そしてそれを使うとロータス卿がやってくるだろう」


「やってくるとどうなるの?」


「それは......殺されるんじゃない?」


「え?」


「でも自分はエニーっちが大好きだからな、守ってやりたい」


「......」


「ほ、本当だって!」


私が少し黙り込むとイリーは焦りだした。イリーは確かに私のことが好きだ。いつもプレゼントをくれたし、ブログ稼業の手伝いもしてくれた。でも、この状況で信じろって無理だろ。


「上手くいけば全宇宙を支配できるんだぜ!」


「マジで言ってる?」


「マジだぜ」

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