第17話 蜘蛛と戦う話
アイススパイダー、ここ数年で現れた新種の魔物らしい。人間程度の大きさの蜘蛛なんだけど、眼から冷気を発している。その冷気は私がバイトで冷凍室に入った時のものより強力だ。これは手強い相手になりそう。
「シャーッ!!!」
アイスパ(アイススパイダー)が私にめがけて冷気を放つ。
「温度バリア!」
ロック君が間に割り込み結界を張る。
「さ、寒い......」
ばっちりと結界は張られ、冷気の直撃は避けられたが、フロアの室温が下がるのは防げない。
「それにしてもこんなところにこのレベルの魔物がいるとは面倒だわ」
そう不満を言いながらエックスさんはポケットから短剣を取り出す。
「カーマインフレシャ、だったかしら?」
「何よ」
「炎のエディットをこの短剣に向けて見て欲しいわ」
「対象が小さいから難しいわね......」
「頼むわよ」
「まあ、やってみるわ」
エックスさんのお願いを聞き、カーマインは詠唱を開始する。
「門よ開け......小さき剣先に宿すは生命の源となる灯火、燃えよ短剣!!」
ボウゥ!!!
カーマインのエディットでエックスさんの短剣の先に火が灯る。ただ危なくないのか不安だ。
「大丈夫なの???」
「人の心配してないで自分の心配をしなさいな」
ふと前を見るとアイスパが凍りついた糸の塊をカーマインに向かって吐き出してきていた。
「やばっ!」
「そりゃ」
エックスさんはそれを見るや否、短剣で糸の塊を切り裂いた。
「すみません!」
「構わないわよカーマイン」
そうエックスさんは言うと今度は反対側のポケットから小瓶を取り出し、中の液体を呑み込んだ。
「門よ開け......」
「おお、エックスさんのえでぃっと!」
「エミリーは黙っとれ」
「泉よ、自らの記憶に繋ぎたまえ。そして脳裏に潜り、住処にある物置を開くべし......」
「なんか珍しい詠唱だね〜」
確かに、ギャルの言う通り珍しい詠唱だ。まあ応用文法だったら聖書には載っていないオリジナル文法になるのは知っているけど、それでも私やみんなとは違った詠唱をしている気がする。私やロック君は聖書のメソッドを参考にしているからまあ詠唱自体は普通だと思うんだけど、エックスさんは独自で文法を発見したのだろうか。
「そこよ! 縛られなさい!」
虚構から縄が出現しアイスパを縛り上げた。
「これは!?」
「そして、これでとどめよ!」
燃え盛る短剣がアイスパを何なく切り裂く。それはまるで熱線で氷塊を切断するかの如く。
「ふっ」
アイスパは完全にバラバラになり、沈黙している。
「お、お強いですね!」
ロック君が彼女を評価する。まあ普通にやばい強さだよね。てかあのエディットはいったい......。
「ところであの縄は何なんでしょうか?」
「あれはアリスープの女が使ってたエディットをあたちが保存して再生してみただけよ」
「さっき飲んでいた小瓶の液がそうよ」
昨日も言っていたけど、エックスさんのエディットは保存と再生。エディットを液状化させて保存することができる。振れば使えるらしいけど、飲む必要もあるのか?
「この液を振れば誰でも能力は使えるけど、それじゃあ威力不足だからあたちが取り込んで活性化させたの。これはあたちだけの特権だわ」
「そうなんですね」
「この活性化は最初上手く行かなかったんだけど、記録の泉でふと脳裏に浮かんできたのよ」
「記録の泉って忘れてたことを思い出せるという観光地じゃないですか」
「そうなのよ。でも不思議と思い出した感覚になって、実際詠唱を使えるようになったのよ」
エックスさんの表情を見るに自分でも不思議な感じっぽい。ただの観光地だと思っていたけど何かあるのか、記録の泉。
「まあとにかく今は葉長石の採集よ」
言われるがまま、ピッケルで葉長石を採集した。
フロアは寒いしクタクタだけど、仕事なので仕方がない。
とりあえずリュックいっぱいに葉長石を採集して、私たちは地上に戻った。
—-------
葉長石を持って職場に来た。エックスさんの職場兼自宅だ。売れ残りの別荘を改装したらしい。少し古そうだが、広めの家だ。
「おーエニーどの。はじめまして」
知らないおっさんだ。禿げてる。
「お初にお目にかかります」
知らない若い男だ。細身でまずまずのルックス。
「あ、ちわーす。エニーです」
適当に挨拶をする。私に続いてロック君やギャルも挨拶をする。
「おふたりはどのような方でしょうか?」
私はエックスさんに質問する。
「ふたりはエディターなのよ。そこのジジイはエレメントを結合させるエディター。物質に魔力を定着させることができるわ」
「ふぉっふぉっふぉっ......」
「そしてその若造は再現。エディットを利用するのに詠唱をするのは既知だと思うけど、彼の能力があれば詠唱自体を再現できるのよ。まあこれだけじゃ他人は利用できないからジジイのエディットと掛け合わせてエンチャント装備を製造するわ」
「そうです!」
ふたりとも何だか凄そうな能力だ。Sランクではないはずだけど、実は結構な実力者ではないかと思ってしまう。
「まずはあんたたちのエディットをあたちたちが保存させてもらうわよ。もちろん悪用はしないわ。人類の発展のためだからご了承して欲しいわ」
「それでどうすればいいんですか?」
「まあまず採集した葉長石を加工するからあんたたちは休憩してて欲しいわ」
「はあ」
「アリケーキがあるから食べると良いわ」
「いりません」
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