第16話 地下で蜘蛛に会う話
朝、ええと......6時くらい。いつもより早めの起床。眠すぎる。
「おはようございます」
おお......ロックきゅん。可愛い。ここは古めの宿屋なのだが、その背景と空間がかえってロック君の良さを引き立てている。気がする。いや、元から可愛いだけかも。
「何朝からモンモンとしてるのよ」
「なんだカーマインか」
「何だとは何よ! しかも急に無表情になって!」
「あはは......」
こんな風にくだらない話をしていると、エックスさんが部屋にやってきた。
「おはようなのわよ」
「おはようございます」
「起きたばかりで悪いけど、早速今日のスケジュールと仕事内容を説明するわよ」
本当にいきなりだな。エミリーとかまだ寝てるけど......まあいいか。
「あんたたちにはいくつか鉱石を集めてもらうわ。その鉱石は葉長石と言うわ」
「よ、よう?」
「ようちょうせき、よ。白っぽい鉱石ね」
葉長石という鉱石を近くの鉱山で集めてから、仕事場に向かうそうだ。葉長石はエンチャント装備の製造に欠かせない鉱石らしい。原理は不明らしいけど。
「仕事場についたらエディットを行使してもらうわよ。詠唱もちゃんとすることよ」
「鉱石に向かって詠唱するんすか?」
よくわかんないので詳細を答えてくれるような質問を投げてみる。
「違うわよ。そもそもエディット発動の詠唱って何か知ってるの?」
「知ってますよ流石に。天界へアクセスして力を引き出すのが詠唱と聖書にありますよね?」
「その通りよ。そして力で理を操作できるのがエディットなのよ」
そこまでは知らなかった。用語が抽象的だけど......まあ魔法なんだし理解しようとするだけ無駄だろう。
「詠唱の精度によって持ち前のエディットを細かく制御できるかはエディター次第なのよ。聖書にもある基礎文法と、個人のエディットを細かに操作する応用文法の組み合わせが大事なのよ」
基礎文法ってのは共通の普遍的な文法だ。詠唱ありでエディットを発動させる時は必ず「門よ開け」からはじめる。
応用文法は、正直フィーリングだ。感じたままに言葉を発する。適当だったり安直過ぎると失敗する。聖書に物質や概念ごとのメソッドがあるから、それらを上手く繋げると上手くいきやすい。独創的なエディットを創りたい時は試行錯誤が必要だけど......。
「難しいっすね」
「そうね。でもエディットを掛け合わせればあらゆるものを制御できると言われているわ」
「それが炎の鍵って訳ですか?」
「それについては知らないわよ。でも装備品にエディットを付与すればそれっぽいものは作れるってわけなのよ」
「で、具体的にどうしたらいいんですか?」
「そうね、あんたたちのエディットを別の物質に移す必要があるのよ。そこであたちたちと同時に詠唱するわ。そこであんたたちのエディットを変換してエンチャント装備にエディットを移し替えるわけよ」
「そうなんですね」
「あとエニーにはロータス卿の秘宝を触りながら詠唱して貰うわ」
「秘宝ってこの指輪とかですか?」
昨日付けた指輪を見せる。
「そうよ」
「でも詠唱って、自分のエディットを引き出すためのものですよね。秘宝にエディットは意味ないんじゃ......」
「自分の持っているエディットで秘宝の中にある魔力に呼びかけるのよ。確かに難しいのは否定しないけど......」
あー、そうゆうことね。実は前に虹の剣でやったことはある。ただこれは難しい。あまりにも漠然としているから。
「まああたちの社員ふたりも協力してくれるから焦らないことね」
「はあ」
—-------
まずは鉱山にきた。葉長石を採取するために。
「こんな感じの鉱石を集めて欲しいわ」
エックスさんはそう言いながら葉長石を見せてくる。さっきも聞いたけど白っぽい石のようなものだ。
「ここの鉱山は整備されているから、道なりに進めば問題ないわ」
確かに道は比較的整備されているし明かりもある。
「それじゃあ進むわよ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
私たちは言われるがまま、鉱山を進んでいく。
奥へ奥へと深く潜っていくのだが、少しずつ寒くなってくる。
コートは着てるけどある程度は寒い。
「寒いんですけど......」
「そりゃ地下なんだしある程度は我慢して欲しいわ」
手厳しい、エックスさん。
「へい......」
まあ暖房とかはないし我慢するしかないんだけどさ......うん、知ってたよ......はぁ。
それから30分後。
「やっぱ寒くないっすか!?」
めちゃ寒い。いややばい感じに寒い。絶対0度を下回っている。
「確かにおかしいわね......こんなに寒かった記憶はないわよ......」
「奥の方から冷気がしますね......」
確かに、言われてみれば。
進行方向と一致しているし、進むしかない。とりあえず奥へ行く。
「さっきより更に寒くなりましたね」
「なんで???」
「いるわね......」
エックスさんが周囲を警戒する。
「いるって何がですか?」
「本来はここには出ないはずなんだけど......」
私は当たりを見回した。前後左右には何もいない。ふと上を見てみると......。
「う、上!」
「やっぱり!?」
巨大なクモが冷気を漂わせながら静かにこちらを見ていた。
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