第15話 記録の泉と旧友の話

 悪魔アリ。それはちょっと大きくて角と尻尾の生えているやつ。


「悪魔アリってなんですか!?」


「あー、悪魔系の魔物よ。あんたたちが討伐した悪魔熊みたいなものよ」


エックスさん曰く、悪魔アリとやらも悪魔系の魔物らしい。


「そ、それでその悪魔アリが何故スープに......」


「5年前ほどにとあるエディターがここを訪れた際に悪魔アリの軍団に襲撃されたけど、返り討ちにしたそうなのよ。その時の死体を体液をスープに......」


「いやいやいや意味わかんないし気持ち悪いし!!!」


悪魔アリが名物になった経緯がキモすぎた。何じゃそりゃ。


「ちなみに今でも巣から悪魔アリは定期的に湧き出てくるんだけど、束縛エディットで外に出た瞬間体液をゲットできるようになっているのよ」


「いやキモいです」


「慣れれば美味しいのに......」


キモすぎだろ......。しかしその悪魔アリを仕留めたエディターってどんな奴なんだろ。


「あの......その時のエディターさんはどんな人なのでしょうか?」


私は素朴な疑問をぶつけてみる。絶対”超”が付く変人だろうけど。


「名前は知らないわね。ただ工作が得意とは言っていたわね」


「外見的特徴は?」


「ええと......まず女性よ。身長は大きくてスタイルも良かったわね」


「ふむふむ」


「あとリスの髪飾りをしていたわね」


「そうなんですか」


「それを知ってどうするのよ? アリスープが飲みたくなったのかしら?」


「いやいや違いますよ。純粋な好奇心です」


アリスープはガチでいらない。工作が得意というところが気になったのだ。私の友人は工作が得意だったので、少し気になっただけ。


「ま、アリスープのことは置いておいて今日はもう休むのね」


「えーさっきまで寝てたし遊びたいんですけど〜」


「あんた、窓の外を見るのね。あ、部屋の外にあるわよ」


部屋の外に出て窓を確認する。と、夜じゃん。夜だったわ。朝に出発したのにもう夜になっていたのか。


「エニーさん今日はもう休みましょう」


ロック君が言う。


「そうしますわ......。いやぁ面目ない」


「いやいやエニーさんの活躍がなければ今頃ボクたちは全滅していましたよ。ゆっくり休んでください」


や、優しい。照れちゃうぜ......。


—-------


寝れないのでバルコニーで涼んでいると、ロック君がやってきた。


「エニーさんこんなところに居たんですね。寝ないんですか?」


「心配ありがと......。でもあんまり眠くなくて」


「半日くらい眠っていましたからね......」


「なんかしゃべってぇ〜ロック君〜」


「良いですよ」


良いのか!? 私のダル絡みにかまってくれるとは。


「あ、そういえばエニーさんって焼肉ギルドとキャロットさん以外に友人っているんですか?」


「まあ過去には」


「そういえばエニーさんはボクの家に来る前は何をされていたんでしょうか?」


う〜ん。転生時の記憶はほぼ無いんだよなぁ。気がついたら森でさまよってたし。なので森の外れに住んでたとロック君には言ってるけど。


「まあ......記者みたいなもんかな」


本当は、前世ではブロガーだったけどこの世界にネットは無いからこう伝えるしかない。


「す、すごいですね! なんかこの辺りの話聞いちゃいけないものだと勝手に思い込んでいたので聞けて良かったです!」


「いやいや、全然聞いて構わないよ」


「ありがとうございます。それでご友人とはどんな関係だったのでしょうか?」


「学校の同級生だよ。私って友達が少なかったんだけど、そいつは図工の時間、私に話しかけてくれて......。ちなみに名前は吉田」


「ヨシダ、ですか」


「そっ。茶髪で身長は高め、おっぱいもでかい。あと眼鏡でアイドルオタクだったかな」


「アイドルって何ですか?」


ああ、そうか。この世界にアイドルって存在してないのか。


「え〜と、歌手みたいなもんかな」


「そうそう」


「どんな歌手だったんですか?」


「確か動物系ユニットの【フォレストシスターズ】とかいうやつだった。その食いしん坊なリス系妹、《マーマル・ベッカ》ちゃんを溺愛してたな、奴は」


「リス系妹って何ですかね......」


「それは私もわからない」


ん? リス系妹......なんか引っかかるような......。


「どうかしました?」


ロック君、悩む私の表情を見て察したのか。


「あ、いや......どうも思い出せないことがあって」


「どんなことですか?」


「最後に吉田にあった時のこととか全然覚えてなくて、なんか色々忘れてんなーって」


「そうですか......」


「別に嫌な思い出とかはないし、良い奴だったからこう久々に話題に出すと寂しくなってきちゃった」


親も社会もウゼ〜って思ってたから前世に未練はなかったと思ってたけど、友人のことを話すと急に寂しくなってくる。会いたい。


「森の方に記録の泉という場所があるそうです。何でもそこに行くと忘れていたことを思い出せるとかで有名らしいです」


「記録の泉!?」


それってレッドさんが言っていた場所だった気がする。戻ったら記憶の泉に行けと言われたけど詳しいことはわからない。


「な、名前は知ってます」


「そうでしたか。まあボクも名前とプラスアルファの情報しか知りませんが......」


「いやいやいやとてもありがたいよ。場所は知ってる?」


「北の方にあります。明日の仕事終わりにでも行ってみますか?」


「いいね! サンキューロック君!」


記録の泉か......。普通の観光地っぽいけどそこに何があるのだろうか。逆に行かないとどうなるのか。いやまあ、行くけどね。

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