第12話 ケモノって良いよねって話

 突如現れた謎の黒い生き物が、ロック君の胸部を爪で切り裂いた。


「ぐあっ!!」


「ロック君!?」


嘘......やばいやばいやばい。えっ?


「うぐぅ......」


ロック君は胸を抑えながら倒れ込んだ。私が動揺している間にも胸から血が流れ出ている。


「ロック君! しっかりして!!」


「エ......ニー......」


「ニャオオオオオオ!!!」


「来るわよ!」


「んあ”あ”っ! わかってるっちゅーの!!!」


怒り任せで剣を振るう。


「ニャオ!!!」


素早い!?


「回避!」


やばい。


「ニャーズ!」


私が攻撃を回避すると、奴は黒い光線をエミリーに放った。


「無効化っ!」


「ニャッ!」


「マジ!?」


光線を放ったあと、奴は驚くべき速さでエミリーに目掛けてジャンプした。


「フニャ!!!」


「きゃあ!!」


とっさにエミリーは手で顔を覆った事により、顔へのダメージは避けたが、手を引っ掻かれてしまった。エグすぎる。出血量がやばい。


「門よ開け......」


ここは隕石を落として一気にやるしかないのか。いや、ここは海外領だ。またやらかしたら今度は死刑かもしれない。それどころかモカ王国全体的にもやばい。


「エニー!」


「わかってる......」


「どうするのよ!?」


「肉弾戦しかないでしょ......」


「......」


「一秒でも早く奴を殺して、ロック君を救う。わかった?」


「ったく、わかったわよ」


奴は猫のような姿をしていた。ただし、一般的な猫より少し大きい。それに角と尻尾が生えている。恐らく、悪魔熊の系統と同じだろう。


「門よ開け、我剣に炎を宿したまえ......」


「ニャ!」


「ファイヤー!」


「ミャウ!」


私が詠唱している間、カーマインが火を放って防ぐ。


「喰らえ、紅の刃!」


「ニャ!」


回避された。く......。


「ギガファイヤー!!!」


「ニャゴオオオオオオッ!!!!!」


カーマインの放った炎で奴が燃え上がる。けど......。


「ジュウウウウッ!!!」


やはり効かない。奴は身震いをし、炎を鎮火させた。火傷も回復している。


「やっぱり私が心臓を貫かないと!」


「わかった、任せたわよ!」


「門よ開け......」


「ニャ!!」


奴が猛スピードでこちらに迫る。


「このっ!」


そこをカーマインが割り込み蹴りを入れようとするが......。


「ニャグルゥ!!!」


奴は回り込み、カーマインの脚を爪で切り裂いた。


「がはっ!」


「カーマイン!」


「ニャルルル......」


「くっ、こんのおおおおおおっ!!!」


ここから先は地獄だった。


まず私が剣を振るうが、奴は回避。爪で襲い掛かる。もちろん再度回避するけど、無詠唱エディット連発のせいかめちゃめちゃに転ぶ。でも痛いとか言っている暇すらなかった。


地震を起こしてから、斬りつけてやろうとした。完全には当たらなかったが角に命中。切り落としてやった。


しかし奴は怯まず飛びかかり、私の腰に噛み付く。牙が鋭く、血がドクドクと流れていく。


咄嗟に左手で奴を殴り、引き離す。

地面に叩きつけられた奴だけどすぐさま体制を整え、こちらに飛びかかろうとする。


私はそのまま突っ込み、相手の心臓目掛けて剣を突き刺した。


「あああああああああっ!!!!!」


「ニャグルウウウウウウウウウッ!!!!!」


相手の手も私の胸に爪をたてて切り裂こうとしたが、私が先に心臓を貫いた。


「......」


「ぐはっ......」


意識が朦朧とする。暑いのか寒いのかわからない上に視界がグラグラとする。漂う血の不快な臭いだけが、私の意識をなんとか保たせている。


で、でも......勝った......。もう立ってるのもしんどいけど、私には確率を操作するエディットがある。奇跡的な回復でハッピーエンドだ。


と、思ったその時だった。


「その剣はロータス卿の物だな」


「!?」


心臓を貫かれたはずの奴が声を発した。そもそも喋れんのかよ。それとも私の頭がイカれたのか?


「我が名は 《ニャダル》 である。魔王様の側近であり意思の代弁者のひとりでもある」


そう喋ると猫のような姿をした奴は豹変し、半獣半人の姿になった。


「おに......さん......はぁ......ゴフゥ......」


ぐ......血が......。


「どうしたのかな?」


「獣姿はえ......エロいって......」


「死にそうになりながら面白いことを言う女は初めて見た......」


「そりゃどー......も......」


や、それより......なぜ......心臓を......つ、つら......。


「そうそう、何故心臓を刺されているのに生きているかって?」


......


「心臓が複数ある、それだけの話だ」


ロック君......たす......けて......


「クックック......」

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