第6話 熊を焼き肉にする話

 悪魔熊あくまぐま。見た目はでかい熊だけどツノと尻尾が生えている魔物。モカ王国の分隊を1つ壊滅させたこともあるらしい。


「グルルッ!!!」


「えっ!? もう来たの早くね!?」


「知らないわよ、良いから身構えて!!」


予定より早く来てしまった。思った以上にスピードが速い。


「ガルッ!」


熊は爪を立ててこちらに向かってきた。やべー!


「ひぃ!!」


熊の切り裂き攻撃を、何とか虹の剣で受け止める。が、力が強い。


「カバーミー!!」


「わかってるわよ!」


私がヘルプを求めると、カーマインは詠唱を始めた。あと5秒耐える必要があるのか。きつ......。


「剣、何とかして!」


「......」


YABE、反応しない。まさかのここで失敗かよ。


「ガルウゥッ!!!」


「ひええええええええっ!!!」


「ファイアーっ!!」


「グオオオオオオオオオオッ!!!」


ふぅ......間一髪。悪魔熊は炎に包まれた。私はこの隙に距離をとる。


「ガアアアアアアアッ!!!!!」


「何アレ!?」


熊が雄叫びをあげると、炎が鎮火していく。こんな技を持ってたなんて。


「門よ開け......」


「グワァッ!!!」


やばい、今度は私がカバーしなければ!


「とりゃあっ!!!」


「グルルルル......」


ぐぐぐ......。何とか剣で受け止めた。カーマインの詠唱が......


「あと10秒頼む!」


「嘘ぉ!? 無理無理!!」


「ブツブツ......」


無理だって! 止める気ないのかよ。

めっちゃ熊の顔怖いし、バカみたいな力あるし、爪やばいし。


「なんか、痺れるやつこい!」


バチィッ!!!


「グオオオオオッ!!!」


おお、キタキタ! 私の祈りが通じたみたいだ。エンチャントの効果によって電撃が生成されて、剣から熊に伝わる。

しかし......


「オオオオオオオオオオッ!!!!!」


もう持ち直した!? そうか無詠唱だから火力が足りないのか!

ちょっとダメージは入ったみたいだけど、雄叫びを上げて熊は気合を入れ直した。おそらくあと0.5秒後には再び攻撃が来る。


「前転!」


「ガウッ!!!」


熊の強烈な引っ掻き攻撃を、私は股の下を前転することにより回避。


「門よ開け......」


私が熊の背後で詠唱を開始すると剣が輝き出した。


「天界の使者より創造されし奇跡の秘宝よ、我に奇跡を起こしたまえ!!」


行けぇ! なんか毒とかでダメージ負わせるやつ!!!


剣を力一杯振りかざし、熊の背中に斬りかかる。命中し、赤黒い血液がそこから吹き出した。


「グアアアアアアアアアア!!!!!!」


「燃えよ悪魔!!」


熊が悶えている間にカーマインの詠唱が終わり、先ほどの3倍はある火球を熊に放った。


ゴオオオオオオオオッ!!!!!


あっちぃ!! ここまで熱が伝わってくる。

でもこれで焼肉の完成よ!


「流石カーマイン!!」


「当然よ」


燃え上がる熊。完全に沈黙しており、熱い炎に全身ばっちりと包まれている。


「なかなか鎮火しないなぁ。油分が多いのかな?」


「知らないわよ。ションベン行ってくるからエミリー達が来たら教えてちょうだい」


そう言ってカーマインは茂みの方に行ってしまった。


「はぁ......」


燃える熊を眺める事しかやることがない。燃えてんなー、熊。

しかしフツーは焼肉の臭いとかしないものか。何故か全く焼肉の臭いがしない。

熊を食べたことがないからよくわかんないけど。


「......ん?」


いや、何かおかしい。普通立ったまま燃えないし、そもそもこんなに燃えるものなのか?

油分が多いって問題ではない。


バチバチバチッ


「!?」


急に煙とバチバチ音がし始め、覆われていた熊の手が炎からすっと現れた。そして......


「グオオオオオオオオオッッッ!!!!!!!」


熊が馬鹿でかい咆哮をあげると、そいつを包んでいた炎が一気に引いていく。


「グルルルル......」


マジかいな......。なんか全体的に傷も治ってるみたいだし......もしかして振り出しに戻った?


「うわあっ!!」


今度はなんだ!? ロック君の声が向こうから聞こえたけど?


「ごごごごごめんなさい! わざとじゃないんです!」


「あ、ロック君どうしたの?」


そばに行き質問をする。


「いやその......」


するとロック君は恥ずかしそうに、横にいたカーマインの方を見た。


「別に......気にしてねーし......」


はっ!! そうゆうこと!!!???!!!???!!!


「何やってんのカーマイぃーン!!??」


「違うわよ! バカ!!!」


こっちのガキも顔を赤くしやがって!

まだ私だってロック君に見せたことないんだけど!?

オコだよ!!!


「グオオオオオオオオオ!!!」


「熊うるせー!!」


私は怒り任せに、熊を剣で斬りつける。

鋭い刃先が熊の顔面に大きな傷を付けた。毒を付与したけど、効くかは知らない。


「グワッ!!!」


「ひぃ!」


「シールド!!」


私の前に結界が出現し、熊の引っ掻きを防いだ。


「助かった!」


「つ、次はどうする?」


「えっと......」


考えろ、考えろ。どうしたらに有効打を与えられるか......。


「グルルルル!!!」


「間に合わないっ、一旦眠らす!!」


作戦を考える暇もない、一旦エンチャントの効果で眠らせてみる!


ザシュ!!!


「ぐ......」


バタン!!!


よっし! 見事剣が命中し、即座に熊は倒れ込んだ。次は......


「ロック君、詠唱付きで結界をお願い!」


「わ、わかった!」


「あとカーマイン、あなたも詠唱を開始して!」


「わかった!」


炎の攻撃は回復されるけど、今回は時間稼ぎに使う。カーマインには悪いけど前座として活躍してもらいたい。


「あれ? アタシは?」


「エミリーは熊が雄叫びを上げ始めたら無効化を使って!」


「よくわかんないけど了解ー☆」


「相手は強いからちゃんと詠唱して」


「おけおけ!」


これで5分は稼げるはず。そして最後に私の攻撃でフィニッシュする!


「詠唱開始......門よ開け!」


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」


私が詠唱を開始すると共に熊が覚醒。起き上がり雄叫びを上げる。


「シールド展開!!!」


ロック君が展開した結界が熊を包み込む。


「ガウッ! ガウッ!」


熊は爪で結界を壊そうとしているけど、これは簡単には壊れないはず。


「グオッ!!!」


た、タックルし始めたぞ!?

熊の体重は大きいものだと130kgぐらいにもなるとかならないとか。結界もミシミシいってるしやばいかも。でも詠唱は止められない。ロック君何とか頼む!


「ぐ、これ以上は使用限界......」


「焼き尽くせ! ヘルファイアー!!!」


おおっ! カーマインのエディットだ。私とカーマインはある程度距離があるのに、汗が止まらない。この熱さの伝わり様、やはり攻撃系Aランクは強い。


「グオオオオオオオオ!!!!!」


「これが雄叫び? じゃ、いっちょやりますか!!」


エミリーのエディット、地味に初めて見る。どんなものか......。


「門よ開け、喚く魂よ......ひと時の静寂を執行せよ! ダウンライズ!!!」


「グルルゥ......」


何これ!?

詠唱3秒であのうるさい熊を黙らせることができるのか!?

しかも熊の傷も回復する様子が無い。回復を無効化したっぽい。

今ならイケる!!


「幾多の星々の誕生のごとく、那由多の分岐の先の巡り合わせにある......」


「グワッッッ!!!!」


「危ない!? 避けて!!」


「奇跡を結び、門の先から終焉の火球の一部を降臨せよ!!」


その瞬間、猛烈な閃光と共に空から隕石がこの森に落下した。

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