第5話 剣を買ってトレーニングしてクエストに挑む話

 カーマインをボコした後、私は競馬場に行った。当然稼ぐためである。


今回も当然稼いだのだが、明らかに目立ってるし出禁もそろそろ近いのかもしれない。そもそも不正だし。


それはともかく、500万モカを稼いだし良い武器でも買いたい。身体能力の低い私は金にものを言わせるしかないのだ。


武器屋に来た。


「ところで武器って何が良いの?」


「アタシも似たようなタイプだし一緒に探そ」


「エミリーさんもエディット強力ですよね」


「そろそろ呼び捨てで呼んでって」


「ええと......エミリー?

(これでいいのかな)」


「かわヨ」


「からかってますぅ?」


出会ったばかりなのでタメ口に抵抗感があるが、本人が希望するなら応えてあげ......る。


「アタシもエニーって呼ぶから!」


「そりゃ......どうも」


「ところでこれはどう? クロスボウ」


クロスボウとは、弓の一種である。主に中距離用武器でスナイパーライフルと比べるとクールタイムも短め。......あくまでこれはゲーム知識だけど。


エンチャント付きのものだと自動追尾がある。これなら素人でも扱えそう。


「これはショットガン。リロードが長いけど、火力が強い。エンチャント付きのものなら爆発効果もあるって」


これは凄い。普通に軍が使う兵器レベル。ただ素人が扱えるかは......。


「う〜ん」


「お困りですかな?」


「はい」


「だったらこれとかどうです?」


おじさん店主が見せてきたのは小型の剣だ。剣先が七色に輝いていて綺麗。


「これは虹の剣、エンチャント付きの剣だが他のとは訳が違う。なんでもあのロータス卿が置いていった剣だからな」


ロータス卿とは誰かを尋ねたところ、聖書にも載っている超絶有名人らしい。

本名は 《ロータス・レディ》

聖書によると1人目のエディターであり女神の使いだという。他の一般的なエディターとは異なり人間ではなく不老不死だとか。


エディターは世界に18人存在するように調整されているらしい。1人エディターが死んだら1人エディターが産まれる仕組みらしいけど、ロータス卿は死なないからずっと能力を持ち続けているだとか。


「しかしそんな神具のような剣が何故ここに?」


「これはキャロット様からの預かり物です。Sランクのエディターが現れたら託せと」


「そんなにSランクエディターって珍しいんですか?」


「そりゃもちろん珍しいも何も今のところ世界に2人しか確認されていせんから! あなたは世界で3人目のSランクエディターですよ!!」


「それなら私はもっとチヤホヤされるべきでは?」


「そうですね、Sランクの判定も出ましたし数日経てば世界にあなたの名前は広がるでしょう」


「やっぱり!?」


「しかしこの国では貴族がエディターに制限をかけています。もちろん貴族もエディターの力を借りないわけにはいかないので、キャロット様のようなエディターから援助は貰っていますが」


「それでも貴族がエディターに制限をかける理由とは?」


「やはり過去にルビー・フレシャなるエディターが貴族に対して敵対行動をとったことが原因かと」


その敵対行動とやらが詳しくわからないけれど、貴族らがエディターに不利な情報を抱えているのか、あるいは力を狙っているか何かか?


「話が逸れました。さてこの件、本当にロータス卿の物かは証明出来ませぬが強さは証明できます。無数の追加効果からひとつの追加効果を気まぐれで発揮する機能が備わっている剣なのですから、ある意味全てのエンチャントの効果を使える剣と言えます」


何という私向きの武器!

これは運命か!?


「一時期は軍が保持していた時期もあったそうですが、エディターでないと良さを引き出せないようで追加効果が一般人では発動しないようなのです」


「なるほど、エディターの私なら使いこなせると」


「そうですね、実際ポポイ様はそれなりに使いこなしていました。素人目からすれば」


「含みのある言い方ですね」


「まあ、ポポイ様曰く「適正6割」らしいです。ポポイ様はAランクでも上位のエディターで、身体能力に関してはSランク。そんなポポイ様でも6割ですから使いこなすのは容易ではないかと」


「じゃあ私でも無理じゃね?」


「それはやってみなければわかりません。なんせSランクエディターはかなり少なく能力に関しても未知数です」


「なるほど」


「それじゃあ手に取ってみますね」


虹の剣を手に取ってみると、ビリっと静電気のようなものが流れた。痛ってぇ!


「気をつけてください。その剣は触れると電流が流れるようです」


「それ先に言ってくださいよぉ......」


「ゴム手袋をしていただければある程度は大丈夫です」


ある程度か......


「それと肉体面も鍛えていただく必要があります。みっちりひと月トレーニングしていただきます」


「ええ!?」


「ポポイ様でも使いこなすのに一週間は苦戦しておられました」


「えーなんとか楽な方法とかないんですか? そもそも本当にその剣使わないとだめ?」


「......」


「え? 何?」


「威信の問題です!」


「え?」


詳しく話を聞いてみた。

Sランクのエディターはこれまで、ランク制度が誕生した50年の間で2人しか確認されていない激レアな存在であること。そしてその2人はとんでもない強さを持っているという。


ひとりはモカ王国の32代目の国王 《ジャバ・ハルバルト》

『エディット詳細:破壊の槍 Sランク 身体能力:Aランク 知性:Sランク 総合:Sランク』

破壊の槍でどんな硬い生き物でも貫いたという。現在は死亡しているが、ジャバ国王の力によってモカ王国は現在世界史上最高の支配力を保っている。


もうひとりはイーグル共和国の女兵長 《アグネス・ミルグラム》

『エディット詳細:超絶身体 Sランク 身体能力:Sランク 知性:Aランク 総合:Sランク』

エディットによって人間離れした身体能力を持っているという。

何回も暗殺されかけたが、そのほとんどを回避能力で避けた。また、刺された時も生命力の高さで息を吹き返したという逸話もある。

この方は現在23歳でご存命だ。


確かにこのふたりはやばい。私がこのふたりに並ぶとはとても思えない。そうか、確かに久々にSランクエディターが誕生したのにこれでは国の威信に関わる。


「や、やります!」


くぅ〜逃げてぇ〜。しかしここは持ち前の運に賭けるしかない。馬券を買わなかった時に限って予想は的中するものだ。確率を操作できるエディットがある今、降りるという選択肢はない。


「ありがとう。キャロット様もお喜びになられるかと」


「(お姉さん......騙されてない?)」


「ん? どうしたのロック君?」


「いや別に......」


ーーーーーーーーーー


〜数時間後、街の訓練所で〜


「おらっ! そこ休むな!!」


ひえええええっ!!!


「何でボク達まで......」


「寝言は寝て言え!!!」


「ごめんなさい!!」


武器を買った後、まさかこんなことになるとは。これ、キャロットさんが仕組んだことらしい。割引で訓練が受けられるのは良いっちゃ良いけど......。


「よーし今日はここまでだ」


「しんどーーー!!」


「おいエニー、気を緩めるなよ」


「何でこんなに急ピッチで訓練しないといけないんですか?」


「交流祭でSランク様がなんの実績もないと舐められるからな。月末にはAランク以上向けクエストを受けてもらう」


「ガチぃ!?」


「内容は魔物討伐だ。相手は我がモカ軍の分隊を1つ壊滅させたこともある強敵だ」


「んひいいいいいいっ!?」


「現在は南の森に潜んでいるとされる」


「そ、そこに行けと?」


「そうだ」


鬼畜過ぎる。1分隊って30人くらいでしょ?

え、何考えてるんだ??


「まあ無理そうなら撤退してもいいが、その場合は奴が北に上がってくると予想されている」


「(第二の)故郷が......」


「もちろん我々もなんとかしたいが今は西の魔物相手で忙しい」


「......」


ほ、本格的に異世界の冒険譚が始まってきた実感がひしひしとする。ただ、こんなに辛いとは聞いていない。どうしよ〜〜〜


「ロックく〜ん、私やってけないよ〜」


「......」


「ロック君?」


「ボクも正直怖いよ」


「だ、だよね! なら......」


「でも、ここで立ち向かわなければ故郷も失われる」


「......」


「それに、美味しい調味料が手に入らなくなってしまうじゃないか!」


「......!」


「お姉さ......エニーさんの作る料理はたくさん調味料を使うけど、とても美味しい。ボクはまたエニーさんの料理が食べたい!」


「......」


「だめ......かな?」


「だめなんかじゃないよ!!!」


「うわめっちゃ泣いてんじゃん」


「ちょっとエミリー見ないで〜」


「ウケる〜(笑)」


ーーーーー


こうして私たちは地獄のようなトレーニングをし、とうとう魔物討伐作戦の当日を迎えた。


〜南の森中央〜


「よっ」


「ちょ、カーマインは何で訓練に参加しなかったの?」


「私はアンタらみたいに身体能力低くないし」


「ぐぬぬ......でも私も身体能力Cランクまで伸びたしそれに!」


「それに?」


私は七色に輝く剣を取り出した。ビリっと痺れるが、訓練を積んだ私にはどうってことはない!


「どうよ!」


「ふーん......」


「カーマインより活躍して目立ってやるんだから!」


「お、珍しくやる気じゃん」


「やるわよ......大事な男のためだもん」


「へぇ」


〜南の森最深部〜


「たどり着きましたねエミリーさん」


「うん」


「奴は寝ていますが狼煙を焚いたら起きます、覚悟してください」


「でも何でエニー達はここにいないの?」


「逃げ出す可能性があるからです。ボクたちが攻撃して、逃げたらエニー達が対処します。その後ボクたちも追って合流します」


「なるほど」


「それじゃあ行きますよ......」


〜エニー側〜


とうとう狼煙が上がった。モカ軍の分隊を1つ壊滅させたこともある魔物【悪魔熊あくまぐま】との戦いが始まった。

正直、物凄く恐いけど......ロック君やみんなのためにも逃げ出すわけにはいかない。


「......! 来たぞエニー!!」


「もう!?」


「グルル......」

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