第2話 武器商人に踊らされる話

 モカ王国最大の都市【エチオ】にやってきた。この都市はとにかくでかい。

そして今日はやけに賑やかだ。なんせエディター兼武器商人の《キャロット・アオ》がやってくるそうだ。正直なところ詳しい情報は知らない。


とりあえず儲けた金で調味料を買いたい。この王国の食べ物は美味しくない上に味も薄い。ならばせめて塩コショウを多めにかけたい。


だがしかし、この世界の調味料はバカ高いのだ。ほら、そこの調味料だって200gで1,500モカもする。日本円換算で2,200円ぐらいだ。おかしい。


「すみません、もっと安くなりませんか?」


「ああん?」


「お姉さん値切りはやめた方が......」


「んぇえ〜? ロック君何でぇ?」


「ここの店経営者が貴族だから値切りしても相手にしてもらえないどころかブラックリストに入れられちゃうよ」


何じゃそりゃ。携帯会社かよ。


よくわからないのでロック君に詳しく聞いたところ、貴族経営の店は基本的に貴族をターゲットにしているらしい。

平民は少しでもケチをつけるとブラックリストに入れられて店を利用できなくなるようだ。そもそも何故貴族が平民に当たりが強いのかは知らないけど。


「はぁ」


「お姉さんもエディターなんだしエディター経営のお店を利用すると良いよ」


というわけで、食材市場にやってきた。確かに価格がさっきと比べるとだいぶ良心的だ。しかもエディターなら5%オフらしい。貴族相手には逆に5%高く取るようだ。

そこのコショウ瓶は500gで600モカ、確かに安い。買おう。


「これください」


「お姉さんエディット使いだったりする?」


え、確かにそうだけど何でわかるんだろ。てかみんな私のことをお姉さんって呼ぶな。確かに若者が多いから24の私でも上の方っちゃ上の方だけど。


「ええまあ」


「やっぱりー、マジそんな感じするわー」


このギャルっぽい人は《エミリー・チラックス》さん。もちろんエディター。胸は、ないな。癖が強いがエディターはみんなこんな感じらしい。むしろロック君が例外。


「安くしとっくから、今後もご贔屓に〜」


確かにエミリーさんは私以上に我が強そうだしエディター贔屓だし、そりゃ貴族からは嫌われそうな感じはする。


いや、そもそも貴族ってなんだ?

身分の高い高貴な集団ってのは想像つくけど詳しくは知らない。


「ロック君? 貴族って何?」


「え......知らないんですか?」


「だって私よそものだしぃ〜」


「ああ......そうでしたね......」


ロック君の反応をみるに知ってて当然なものらしい。

詳しく聞いてみるとモカ王国の貴族は、王国の黎明期(建国の初期)から国づくりに貢献してきた集団らしい。


「それとルビーというエディターが貴族の極秘情報を盗もうとして追放されたらしいよ」


「そうなの?」


「あくまで過去にあったとされる噂だけど」


ふんふん、それはエディターに対して印象悪くなっても仕方がないかも。そういえば本命のキャロット・アオさんに会っていないけど、どこにいるんだろうか。


「ところで、そもそもキャロットさんに簡単に会えるもんなの?」


「会えるよ。エディターは絶対数が少ないからそれだけで貴重な存在なんだ。エディターは皆他エディターに会いたいと思っているよ」


「確かに、エディター イズ 何者 って感じだもんね自分らでも」


「そうだね。あと、お金の話が好きなキャロットさんなら食いついてくれると思うよ」


「というわけで、来て」


「え? アタシ?」


〜1時間後〜


ここは広場。まわりが騒がしくなる。そして馬車に乗ってきたスーツ姿の若い女性が降りる。彼女こそが《キャロット・アオ》らしい。確かに童顔巨乳で低身長だ。


私は女だから「おー」ぐらいの感想ですむが、男のロック君はどうだろうか。やっぱり興奮しちゃうのかな。


っと、それより話をしないと。ここにはエディターが3人もいる。ロック君の話を聞くと、これは相当珍しい状態だ。きっと話を聞いてくれるはず。


私はエミリーさんとロック君と共に、キャロットさんの元へ移動した。


「すみませーん」


「どうしたのかね?」


「私、エニーという者ですが......」


「ボクはロック・リーと申します」


「アタシはエミリー、よろ!」


このギャル、もうちょいマシな自己紹介してくれ。

キャロットさんの表情も微妙だしヤバァイ。


「あー迷子ならその辺の憲兵にでも訪ねたまえ」


「アタシら全員エディターなんだよね〜、珍しくね?」


「......ほう」


ギャル......エミリーさんが我々の正体を明かすと、キャロットさんの表情が一変した。


「この国にはエディターが5人いるとされている」


キャロットさん曰くモカ王国にいるエディター5人は以下の人物


・武器を製造しモカ王国の軍に武器を提供している女商人 《キャロット・アオ》

・食材市場で働く女学生 《エミリー・チラックス》

・田舎に住む男剣士 《ロック・リー》

・軍所属の男魔術師 《ポポイ・エント》

・フレシャ一族の末裔まつえいであり謎の女 《カーマイン・フレシャ》


え、私は? っと尋ねたところ王国に登録されているエディターはこの5名のみだとか。


「エニー君はどこの出身かね?」


「い、北部の田舎出身です。ロック君と同じ地域で......」


「嘘だね」


やばいバレた。そうです私は異世界転生して来ました。だがそんな話が通じるのだろうか、いや通じない。


「こここ、根拠とかああああるんですかねぇ?」


「嘘が下手すぎてアオびっくりだよ......」


この人一人称 ”アオ” なのかよ可愛すぎか


「こほん、まあ良いでしょう」


すっとキャロットさんが紙を差し出してきた。


『女性向けの酒場 あなたの疲れをイケメンギルドメンバーが癒します』


要するにホストクラブのようなお店の招待券だ。90分22,000モカもするらしいがこの招待券があれば11,000モカで利用可能らしい。じゅるり。


「ナナナなんですかこれは!?」


「好きそうかなって」


「否定はしません!!」


何という汚い商人なんだ! 許せないわ!!


「まあそれは冗談何だけど」


冗談なの!?


「失礼ながら11,000モカも払えるような身分には見えなくて、一体どうやってお金を稼ぐ気なのかな?」


「まあ競馬とかで?」


「競馬って貴族が運営している新興の娯楽でしょ? よく稼げるね」


「詳しいので」


……キャロットさんの顔がまた変わった。こちらをじっと見つめている。ふとエミリーさんの方向を見たら寝てる。ロック君は......?


「何見てるんですかスケベなお姉さん」


「違いますうぅ! すけべお姉さんじゃありません!」


YABE、せっかく仲良くなってきたと思ったのにロック君に嫌われてしまう。何とかテコ入れしないと。


「そ、そういえば皆さんってお告げとか聞いたりしてます? エディターのアレ」


「聞いてるけど〜?」


ギャ......エミリーさんは聞いてると。


「アオも聞いたけど、まさかエニーさん聞いてないの?」


「そうなんですよ〜」


「ますます何者か知りたくなってきたよアオは」


自分でもわかんないんだけどなぁ。


「冒険者の店に行けば何かわかるかもしれない」


「イケメンがいっぱいいるところですか???」


「違う違う」


「クエストを受けたりギルドに加入できる場所だよ、ボクも近々ギルドに入ろうと思ってたところだよ」


ロック君、偉い。そして可愛い。......じゃなかった、私も競馬だけで生活するわけにもいかないしいずれはハロワ的なところに行こうと思っていたところだ。ちょうどいい。


「アタシもギルド行こうかな〜、最近貴族の当たり強いから休業にしようと思ってんだよね〜」


さらっと世知辛いことを言うなこのギャル。普通に可哀想じゃないか。


「わかりました、行きます」


「お、やる気になってくれたかな」


「ええ」


「アオはすでにギルド入ってるから君たちと行動を共にはできないけど、一ヶ月後にギルド交流祭があるからそこで情報を持ってきてほしい」


「ロック君、交流祭って何?」


「要はギルド間の模擬戦闘ですね」


「えっ戦うん!?」


流れでギルド交流祭に参加することになってしまった。怖いから戦闘は嫌だけど、ギャルが可哀想だし後戻りはできない。しかし私とロック君とギャルの3人ではギルドとして成立しない。最低あと1人メンバーが必要だ。もしくは既にあるギルドに入るか。


ロック君に聞いてみたところ、エディターが3人もいると色々と面倒ごとに巻き込まれる可能性があるという。

となれば勧誘する方針でいきたい。しかし誰が良いのだろうか。悩みながら私たちは冒険者の店に向かった。

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