第4話

鹿園ろくえんでは、帽子が無くても私たちとお話出来ます。ただし帽子を脱ぐ時は、要注意です。あなたたちの記憶が戻ります。現在の本当の自分の姿を思い出します」


 シカさんたちが、僕たちを集めて、急にお話を始めました。

 参加メンバーが、全員若返っています。

 せっかく若返った自分たちの姿。

 元の年齢に戻りたくありません。

 全員帽子をとる事に躊躇しています。


 シカさんたち。

 それでも、帽子を脱げということですか?

 現在僕たちは、鹿園にいます。

 鹿園は、空の上。

 帽子を脱いだら、地上に落下。

 なんてことは、無いですよね。


「そんなことは、ありません」


 僕の質問に、真面目に答えてくれるシカさん。

 姿が戻るのは、理解出来ます。

 記憶が戻るってどういう事?

 とにかく脱いでみましょう。




 思い出しました。

 現実の僕は、末期癌でした。

 たくさんのチューブに繋がれ、ただ生きているだけの命。 

 それも、もはや終わりに近づいている患者。

 医者は、僕の命の終わりを告げるために、両親はその言葉を聞くために、その病室にいました。


「私は、植物状態だった」

 睦美さんは、話しました。

 スキー事故でした。

 無謀むぼうな滑りの若者と、睦美さんのゲレンデ事故。

 睦美さんの意識は、戻らず。

 衰弱していきました。


 ツアー参加の皆さんは、全員その命が、風前の灯火。


「何故、僕たちは鹿園に?」


「私たちに優しくしてくれたからですよ。普通地元の人たちは、シカせんべいを買ってくれません。公園に住む私たちに、見向きもしません。でもあなたたちは違います。観光客でもないのに、私たちを可愛がってくれました」

 

 僕は。ただの動物好き。

 そんなに感謝されることはしていません。


 シカさんたちのお話は、続きました。

 

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