第5話

 シカさんたちのお話。

 

 シカさんたちの僕たちへの感謝。

 鹿園ツアー。

 すでに、この世界での命が秒読みの自分たちに、楽しいひと時を持ってもらいたい。

 そのための鹿園ツアー。

 年に一度、開催されています。

 今回は十名。

 参加者の数が最多。


「私たちは、神様のお使い。神様ではありません。あなたたちの寿命を延ばすことは出来ません。でも私たちの世界に招待することは、出来ます」


 病気になってから最も楽しかった今夜。

 きっと、皆さんもそうでしょう。

 睦美ちゃんは、どうでしょう?

 答えてくれません。

 僕の恋。

 半歩後退。


 シカさんのお話は続きます。


 命を生み出し、差し上げられれば、良いのですが、私たちには、無理なのです。

 でも次の世界のあなたたちの運命。

 ご希望されれば、赤い糸をお繋ぎします。

 運命の赤い糸。

 少しだけ、あなたたちの運命に、手を?

 いいえ、蹄をお貸しします。

 ご希望の方はお申し出ください。


 僕は手を上げました。

 一人を除く、全ての人が手を上げました。

 睦美ちゃんの手だけが、まだ上がりません。


 僕の恋。

 振り出しでしょうか?


 突然、睦美ちゃんの発言。


「この場にいる全ての人が、同じ時代に生まれることが出来ますか?」


 シカさんたちが、答えました。


「もちろん、そのくらいなら私たちにも可能です。でもいったいどうして?」


「私と巧君の結婚式。皆さんに参加してもらいたくて」


 睦美ちゃんの腕が、僕の腕に、そっと絡みました。


 『運命の出会い』

 

 睦美ちゃんの中では、結婚とイコールで、結ばれています。

 

「まだ少し早すぎませんか」


 櫟本さんが、ニコニコ笑顔。

 帯解さんもニコニコ笑顔。

 気づけば、みんなニコニコ笑顔。

 少し気の早い睦美ちゃん。

 睦美ちゃんも、気づきました。

 顔が、真っ赤に染まっています。

 せっかくなので、僕は、睦美ちゃんに、お願いしました。

 順番が、少し違うような…。

 

 僕の良いところ。

 そんなことは、気にしません。

 大切な事が、伝われば良いのです。


「次の世界で、結婚してください」


 とっても早いプロポーズ。

 頷く睦美ちゃん。

 みんなが拍手。


 僕の恋。

 次の世界で、ゴールイン。


 皆さん。

 結婚式には、是非、お越し下さい。


           おわり

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桜パラソル @ramia294

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