第6話 -目覚める前に虚ろな世界へ、夢とは少し違う場所?-

 目が覚めた。最初はそう感じました。

 しかし、目に映る空間は私の知る自室の天井でもなくフカフカのベットの中でもありませんでした。フワフワとしたなんとも形容し難い感覚の中、空間、に浮いている。そういった感じです。カーテンから差し込む朝日の光なんてものはなく、周辺は淡いピンク、本当に優しさというか落ち着きを感じるような空間。そうまるで。

「なんですか。このなんとも言えないいかがわしい雰囲気の空間」

 実際に行ったことがないので知りませんが、そういった『休憩所』とか言われている部屋で灯っていそうな明るさと言うか。光というか。

「あのー、誰かいませんかー」

 と、声を出してみるも。まあ、私の夢の中なので誰かいるはずもなく。

「酷いわね、この神聖な空間をいかがわしいなんて」

「ひゃあああぁぁぁ」

 真後ろで女の人の声。あまりにも突然だったので、自分でも聞いたことないような悲鳴が出ました。慌てて離れようと手足を動かしますが、空間に浮いている状態なので掴めるものがあるはずなく。それはただ空を切るだけでなんの意味もありません。ですが、声の主はそういった訳では無いようで。

「そんな驚かなくてもいいじゃない。初めまして、アリシア」

 私の名前を口にしながら横を通り、目の前に来てから顔を覗き込んできました。その顔はなんと、私と瓜二つの顔をしていました。

「驚いたでしょ。私もびっくりしたわ、髪色は違うけど。私とあなたそっくりよね」

 私の髪色は黒色ですが、彼女の髪は金髪でした。

 私が金髪になったらこんな雰囲気なのかもしれない、そう思うほどにはそっくりなのです。

「えっと、そのあなたは?」

「あぁ、そうね自己紹介がまだだったわね。私はアリス。アリス・バルクホルンよ」

 バルクホルン私と同じ性です。という事は

「まさか、御先祖様?」

 その質問を聞いてアリスと名乗た少女はクルリと身を翻して後ろへ下がり。

「おぉー、正解正解。私はバルクホルン家の遠い御先祖様よ」

 遠い御先祖様。

 バルクホルンはお父様の家系の苗字なので、お父様に聞けば彼女のことがわかるかもしれません。それにしてもなぜ御先祖様である彼女が私の夢の中へ現れたのでしょうか? なにか私に伝えにきたとして、だとすると一体全体何を伝えに来たのでしょうか。もしかしてあと少しで私の命に関わることが起こるとかですかね? それだけは勘弁して欲しいものです。

「まぁ、それにしてもどうしてうちの家系は罪な人間が多いのかしら。私もしかり、あなたのお父様しかり、もちろんあなたも」

「私何か悪いことしましたっけ?」

 特にこれと言ってなにか悪いことをした記憶はないのですが、御先祖様が見るにそうでは無いらしく。少し呆れ顔になりながら「そうだよね。ははは......」と微笑を浮かべた後に。

「えっとね、こう言うのは私が言ったら面白くなくなるから自分で考えなさい」

 との事でした。

 御先祖様に言われた。それ即ち大事なお告げと捉えるべきでしょう。これは色々と考えてみることにします。と言ったものの皆目見当もつ来ません。一体どうしたものか困ってしまいました。

 えっと、これを伝えるために夢に現れたのでしょうかこの御先祖様は、だとするとなんだかしっくり来ないというかなんというか。そもそも本当にこの人が私の御先祖様なのでしょうか? 外見は確かに似ていますが、その......、体型と言い、物言いと言い少し幼い印象を受けます。

「ちょっと、誰が幼いよ! これでもね私は貴方よりも長い間生きてるの」

 えっ、なんで私が考えてることがわかったんですか?

「ふふ、驚いてるわね。そうよ私はあなたの考えてることがわかるのよ。だからここでは隠し事は出来ないわよ観念なさいね」

 そういえば最初に話しかけられた時。私が考えてたこと、私の名前も最初から口にしていました。見透かされているとは、なんとも言えない気分です。

「それにね、私は成長期が来てないだけなの。だからまだ伸びしろはあるのよ」

 いやいや、伸び代も何も御先祖様生きておられるのですか......。生きていたとしてもどれぐらい前の御先祖様か分かりませんが、相当な年齢なのでもう伸びしろも何もないのでは?

「あっ」

 さっき「あなたの心は読める」と聞いたばかりだと言うのに早速失礼なことを考えてしまいました。時既に遅し、気づけばニコニコとした笑顔のアリスの姿が見えます。

「ふふふ、アリシア君は御先祖様に対する敬意がなっていないようだね。私が直々にお仕置をして差し上げましょう」

 顔は笑っていますが。声が、声が笑っていません。これはやばいかもしれませんよ、だって私は今、自由に動ける状態ではありません。しかし彼女は先程の見たように自由に動けます。

「そうだね、君は自由に動けないよね。さあ、私からのお仕置その身を持って味わって貰いましょう」

 不敵な笑みを浮かべながら私の背後へ回り、両肩へ手をかけてから耳元でこう囁きます。

「前世で水泳の大会へ出場した時、緊張しすぎてスタートの......」

 そうですよね。そんな気してました。私の心が読めるという事は私が別世界の記憶を持っていることも知っているというわけで、彼女はその記憶の中にある私の恥ずかしい記憶を言葉にして行くつもりのようです。

「あー、あー、それダメ言っちゃダメ。やめろッ! やめろって! ねぇ、やめて」

「ブザーが鳴る前にプールへ飛び込んで恥ずかしい思いをしたあげく......」

「もうダメ。それ以上はダメ。ごめんなさい。やめてください。私が悪かったので許してください」

「失格を貰って。控え室でガン泣きしたんだよね」

「思い出したくなかったァー」

 やめてください恥ずかしすぎて、やばいです。誰か助けて......。

「あらあら、まだ1つしか言ってないのに語彙力が壊滅的になってるわね。本番はまだこれからだって言うのに」

「もいいです。もうわかったからもう変なこと言わないからゆるひて」

 心が読めてるならこの言葉が私の本心だとわかっているはずです。なのですが、彼女はニヤニヤと悪い顔を浮かべながら私を見ています。

「じゃあ、今度は......」

「まだ続けるのぉぉ〜」

 床があったら私はその場で崩れ落ちてる。そう感じるほどに体から力が抜けて行く感覚に襲われました。それでもなお彼女からの報復攻撃が止むことはなく、どれぐらい時間がたったか分からないぐらいに、私は恥ずかしさの渦に回されめちゃくちゃにされていました。

「はぁあ、楽しかったわぁ」

 そう満足そうな顔をして、ふわりと私の前へまわってくる。

「わ、私は散々ですよぉ」

「本当は最初の2、3個ぐらいで終わらせようとしたんだけど。あなたの反応が面白くて可愛いからついつい、いじめたくなってしまってね」

 そんなノリで人の黒歴史を掘り下げないで欲しいです。

 うぅー、やっぱり報復攻撃だけじゃなくて面白がってずっとやってたようです。精神的ダメージが絶大すぎて、えぐいです。どうやら語彙力はまだ治りそうもないです。

「さぁ、沢山遊んだしそろそろ本題に入ろっか」

 長いイタズラタイムが終了し、やっとこさ本題へ入るようです。もっと早く本題へ行って欲しかったです。

「そういえば、前世では5歳の時に......」

「あー、はい。すみませんでした。私が悪かったです。いい感じのタイミンでした。もうやめて。これ以上はメンタル持たないです」

 それを聞いて彼女は得意げな顔で、「ふんっ」と鼻を鳴らしながらこう続けました。

「分かればよろしい」

「それで本題というのはなんですか?」

「どれぐらい先かは分からないけど、あなたに災難が降りかかるわ。でも、具体的にどう言ったものか分からない。直接あなたに降りかかるのか、間接的に起こるのかすらも」

 それってつまりはなにか悪いことが起こるけど、何時、何処で、何が起こるか分からないと。これほど当てにならない予言が過去にあったでしょうか。いいえ、前世と今世。両方共にそんな予言聞いたことありません。

「それ、不確定すぎませんか?」

「そこに関して申し訳ないと思ってるわ。私も全能の神じゃないから。ただ、あなたとこうして繋がりができているってことは。なにか大きな、不運とか、厄災とか、それこそ命に関わる出来事があるかもしれない。だから私とあなたは言葉を交わせているの」

「どういう原理でアリスが私と会話出来ているか気になりますが、命の危機ですか。突然言われてもしっくり来ませんが、この世界は魔法があります。私の予想なんてものは宛にならないでしょうから。頑張ってみます」

 私は元より、前世ではオカルティックな予言などにはあまり興味を抱かない人間なのです。しかし、前述の通りこの世界には前世と違い魔法があります。それだけでも十分オカルト的な力であることは間違いありません。そしてこの夢が私の脳が勝手に作り上げたものかもしれないという確証はどこにもありません。だから手段はどうであれ何かしらの警戒はするべきでしょう。

「そうね、何が起こるか分からない。何も起こらないかもしれないけど、なんにもしないよりはマシよ」

「と言っても何をすればいいんでしょう?」

 何が起こるかわからない。それ即ち、対処にしようがないという事。私に襲いかかる危機というのが例えば、成績不良とかならば私が努力すればいいだけの話です。ですが、突然の事故などは予期して回避することは難しいでしょう。

「対処の方法だけど、できるだけ他の人と居る方がいいと思うわ。例えば友人とか、自室はあなた自身で結界を張るなり、防衛する何かを用意するなり、やれることをやりなさい。それか友人に相談するとかね。」

 友人ですか。ルームメイトである彼女らやアインホルン教授に、クリスさん特にクリスさんは「何かあれば助けてあげる」と言っていた。最初は彼女に相談してみましょう。

「ほんと、さっきも言ったけど、改めて思う。血が繋がっているって感じるわ」

 アリスはやれやれと言った感じで手を降っている。

「そんなにですか?」

「良い友人達を持っているわね。私もそうだったし、あなたのお父さんも同じだった。良い友人達に囲まれてたわ」

 私やアリスだけでなく、お父様も同じで良い友人に囲まれていたようです。どうやらお父様のこともご存知のようです。まあ御先祖さまですし。

「それと一緒に余計なところも似てるって言う。なんだか昔の私を見ているみたいだわ」

 というのはさっき言っていた。「うちの家系は罪な人間が......」云々のことでしょう。それにしても全然分かりません、一体全体なんのことを言っているのだか。

「はあぁ〜」

 げんなりしながら大きくため息をひとつ。おそらく私の心を読んで出たものでしょう。

「まっ、いいわ。それにいずれはわかることよ。でも、ひつだけ忠告。後になれば後になるだけしんどくなるわよ、選ぶなら1つだけ。欲張るだけしんどくなるわよ。これは私の経験談だからね」

 と、そんな外見で言われてもどうしましょうか。

 あ......。

 気づいた時にはもう手遅れで、私の考えは彼女に読まれている。詰みですね。

「そうですか、そうかですか、せっかくあなたのために来たというのに、そういうこと言うのね」

 失言でした。しかし、心を読まれると言うのはいささか不便です。言わなくても私の考えていることがアリスに筒抜けになってしまっているから、考えないよう意識しようとする時点で私は彼女にメンタルを削られる未来が待っているということです。

「さあ、次はどうしてあげようかしら」

「えっと、その......。すみません悪意があるわけでは......、ひゃっい! ちょっ、待って。そこダメ」

 彼女は私の背後へさっきと同じように回り込み。あろうことか私の脇や、横腹をくすぐりだしました。今更ですが私の服装は無地の真っ白なワンピースです。なので脇とか横腹はその気になればダイレクトにくすぐることが出来ます。これも恐らく彼女が設定したものでしょう。笑わなければ諦めるかと思い、堪え必死に抵抗しようとします。

「あらあら、笑うのを我慢すれば諦めると思ってるの? ざんねん。意地でも笑わせてあげるわ」

「くふっ......、やめっ、あっふ、ちょっ」

 我慢はむしろ逆効果のようで、彼女は蒸気を送り過ぎた暴走する蒸気機関車のごとく。私の体中をくすぐり回します。

「諦めた方が楽よ」

「もう......、ムリ......」

 この後、程なくしてこの変わった空間に私の大きな笑い声が響きわたりました。

「......ひっ、はあ、はあ......。んっ、はあ。やっと、終わっ......た」

 アリスは大満足という顔で笑い疲れた私の顔を覗き込んでいます。私とそっくりな顔が覗き込んでくるものだから、息が上がっているとはいえ、少し身構えます。

「大丈夫、もう何もしないから」

 そうであって欲しいですが、また何時か襲われそうで怖いです。その時、私たちの周りが淡くひかり始めました。

「現実のあなたが目覚めようとしてるわね。そろそろお別れの時間みたいね。あっ、そうそう。さっきあなたに言った『友人に頼る』と言う話だけど、さっきあなたの考えていたクリスって子とヒロ。彼女たち私の見立てが悪くなければ相当な腕みたいよ」

 戦闘を見たことがあるヒロはともかく、クリスさんがなぜ候補に数えられるのでしょう? 何かしらの力でクリスさんに戦闘力が見えているのかもしれません。分かりませんが。そういえば今思い出しました。私に降りかかる不幸というのは、入学の時から感じている違和感となにか関係があるのでしょうか、あるとするならばそれをヒントに私が独自で調査的なこともできます。

「最後にひとつ聞きたいことが......」

 言い切る前に、彼女は私の唇に人差し指を押し付け口を塞いでから。

「頑張ってね。私は貴方を見守ることしか出来ないけど、応援しているわ、あなた自身の最高の結末を探しなさい」

「最高の......、結末?」

 私の一言を最後に彼女は笑顔を見せていました。そして今度こそ夢の世界から目覚めたのでした。


 ◇◆◇ ◇◆◇


「行ってしまったわね。それにしてもまさか彼女も私と同じで、あっちの世界出身だなんてね。ほんとに濃く血の繋がりを感じてしまうわ」

 と、アリスは今では帰ることも、見ることも叶わない。遠い自分の故郷のことを思い出し、感傷に浸るのでした。

「諦めないで、何度でも這い上がってくるのよ。諦めなければ未来はある。私がそうであったように」

 アリスは祈るように目を瞑るのでした。


 ◇◆◇ ◇◆◇


 夢から目覚める。今度こそ私の生きている現実世界へ帰って来たようです。眩しい朝日が、私の顔へ光を送り付けていました。体を起こし、先程まで見ていた夢を思い出します。アリスはヒロと、クリスさんを頼った方がいいと言っていました。しかし、腑に落ちないのは最後の彼女の行動。私が最後に質問をしようとした時。私の口を塞いでわざわざ喋らせないようにしていました。心が読めている彼女ですから、私の質問を見てから答えることも出来たはずです。「何かを知っている」そう考えるのが妥当でしょう。今度は阿吽を言わせずに質問攻めにしてしまいましょう。

 それにしても最後の言葉「あなたの最高の結末を探しなさい」彼女はそう言っていました。

「最高の結末って何?」

 私にとって最高の結末......。

 誰も傷つかない。もちろん私も、これが現状私の思いつく最善の結果なのですが、おそらくアリスの言っていたこととは違うかもしれません。ダメですね。情報が少なすぎて、何も思いつきません。朝から頭を使うと痛くなってきました。難しいことはまた別の機会に考えるとしましょう。


 ところで、今日はギルド勧誘会2日目です。早く加入するギルドを探さなくてはなりません。人気なギルドはそのほとんどが初日で定員オーバーを起こしていることでしょう。そんなところへわざわざ行くことはせず、人数の少なそうなホンワカしたギルドを探しましょう。


 今日も一日が始まりました。


 -to be continued-

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