第5話 -ギルド勧誘会、さあ戦の時間だ-
入学して2週間が経ちました。寒さはぐんぐんと増していき。早朝外に出てみれば吐息が白くなるようになりました。学園での生活にも慣れて来て、ルームメイトたちと楽しい日々を過ごしています。魔法について学べるのですから幸せです。それにアインホルン教授のお手伝いも楽しくさせて貰っています。
そんな中、学校側から新入生に対してある紙が配られました。私たちにとって至福の一時、午後のティータイム。みなが集まっている時にレミーが話題として切り出しました。
「ギルドですか」
テーブルの真ん中に広げられた1枚の紙には大きな文字で『ギルド勧誘会』と書かれています。
ギルド、簡単に言えば同好会やクラブ活動、部活のようなもので。スポーツをしたり、研究をしたり、同じ趣味を持つもの同士で交流を深めたりする活動のことのようで、このギルド活動にて成績を残したりすると後の就職や進学の手助けになるのだとか。どう言ったものがあるかは、明日より1週間ほど行われるギルド勧誘のためのイベントがあるので、興味があるものを見て決めて欲しいとの事らしいです。
「皆さんギルドどうするんですか?」
「どう言ったものがあるのかわからんが、強いて言うなら菓子を食べるようなギルドはないだろうか。欲を言えば抹茶を飲みたい。こちらの菓子と共に飲んでみたくてな」
いいですね茶菓子。ですが、抹茶と和菓子を嗜むギルドがそもそも存在するのでしょうか?
「『まっちゃ』がなにか分かりませんが、もしかするとあるかもしれませんね。私は......、特に決めてないですね」
セシルも私と同じで特にきめてないようです。
「私は剣術を嗜むギルドに加入しようと考えている。将来、学院内の大会で優勝したいからな」
レミーらしい感じです。
「アリーこそ何かやりたいことは無いのか?」
「特には無いですけど......、まあ、色々見て回ろうかと思います」
「そうだな、色々と見て決めるのもいいかもしれんな」
それにしてもギルドですか。
どうしましょう、特にこれといって何も思いつきません。魔法を探求するギルドとかありませんかね? それか、実家にいた時。お兄様としていた乗馬のできるようなギルドでもあれば良いのですが。
入るギルドは明日の課業後に始まるギルド勧誘会でゆっくりと決めましょう。
それより今は目の前にある紅茶と美味しそうなセシル特製のマフィンを頂かなくてはいけません。では一口。
「......んっ! 美味しいですセシル」
前世なら女の子だということを捨て、がっついて食べてしまいそうなぐらいです。
「ふふっ、そうですか、そう言って貰えると嬉しいですね」
私の絶賛の言葉に上機嫌なセシル。ニコニコとした笑顔です。そういえば私がお母様特性のクッキーを食べて「美味しい」と言った時、お母様も同じような顔をしていた気がします。
「だが、アリーの紅茶選びのセンスもなかなかのものだぞ、この紅茶何処の産地だ?」
「これは、シュルベート地方のデルアートル産のベートと言う紅茶で、渋みが少なくほんのりとですが柑橘系の風味が漂う紅茶です。気に入ったのなら、良ければいくらか茶葉を贈りましょうか?」
するとレミーは少し困った顔で。
「あぁ......、厚意には感謝するが、遠慮させてもらうよ。紅茶を自分で淹れるのは不得意でね」
「でしたらメイドさんがいると思うのですが?」
メイドさんなら紅茶の入れ方なんて基礎中の基礎なので不得意な方はいないはずです。
「そうじゃなくてだな。その......」
今度は目を大きく逸らし始めました。なんでしょうこの反応はすごく気になります。
「レミーはアリーの淹れる紅茶が好きなんですよね」
と、今度は満面の笑顔でセシルが話します。それを聞いてレミーは。
「......ごふっ。なっ、なぜそれを!?」
淑女として大丈夫そうではない音の後、動揺を隠せてない言葉が飛んできました。相当突飛なことだったのでしょう。やけに顔が真っ赤です。そういうことだったのですか、いやはやそう言って貰えると嬉しい限りですね。
「知ってますよー、いつもアリーの淹れてくれる紅茶楽しみしているんですものね。少し妬いてしまいます」
セシル今度は拗ねた顔。しかし、隠せぬイタズラ心が見えています。
「そんなことは無いセシルの選んだ紅茶もとっても美味しい」
レミー必死です。
「では今度、特別私の好きな紅茶を持ってきますね。あっ、ちゃんと私が丹精込めて淹れますから安心してくださいね、レミー」
追撃を入れました。名前を呼んだタイミングで笑顔、あえて私が淹れることを強調して言ってみました。
「2人して酷いじゃないか、ヒロ2人に何か言ってくれ」
と、私たち3人のやり取りを紅茶とマフィンを黙々と楽しみつつ傍観していたヒロ。レミーの助けを求める言葉に対して。
「ん、良かったでは無いか。また美味しい紅茶が飲める。しかも沢山だぞ」
レミーに助けの手は差し伸べられることはありませんでした。その姿を見てセシルにスイッチが入ったようでレミーをいじり倒すつもりで次々に言葉を投げかけます。セシルのSはそういった意味なのかも。
それを横目に不意に正面に座るヒロの姿が目に入りました。
「ん......?」
するといつも真剣な眼差しでティータイムを楽しむヒロがレミーたちの座っている方向とは逆方向、中庭の見える大きな窓に視線を向けた。その目はなにかに警戒する猫のように鋭く冷たい目。そういうイメージを受けました。
「ヒロどうかしましたか?」
私の声を聞きいつも通りの顔に戻ったヒロは先ほど見せた鋭い顔とは違い、柔らかな笑顔を見せて。
「いやなに、外に見たことの無い野鳥が見えてな、少し目を細めていたのだよ」
との事でした。
遠くを見るために目を細めていたと彼女は話しているが、少し違うような気がします。この時の私はまだヒロが見たモノの正体には気づいていませんでした。
その時ヒロの右側に恥ずかしさのあまり顔を隠すレミーの姿が写ったのはここだけのお話しです。
結局のところ、最初に少し話した程度でギルドの話は終わってしましました。今思えば、この時にレミーやセシルに色々と質問していればよかった気がします。
◇◇◇ ◇◇◇
午後。最後の課業が終わり、新入生は全員講義堂へと集まりギルドに関する説明が開始されました。
説明の内容はほとんど先に配られていた紙に書かれている内容と変わらないものでしたが、どうやらギルド間でのトラブルを避けるため一つのギルドにしか所属できないとのことです。
その他にも細々したルールの説明が続き、やっと解放され遂にギルドの勧誘会が、戦争が始まりました。
私たち1年生全員にギルドのリストが配られていて、それにはある程度個々のギルドの説明が記載されています。興味の湧いたそれらのギルドルームへ向かい説明を受けそこへ加入するか、しないかを決める。この一連の流れを繰り返してギルドを見定めるというものです。これを4日間行い最終的に人数が定数を超えるギルドでは加入試験をするのだとか、なんだか受験をしているようです。そして残りの3日間でほかのギルドを探して加入するのだとか。
最初は、ギルド「スウィンズ」ブラスバンドのギルドだそうでイベント事がある時や、校外でもパブや、コンサート会場を借りて演奏をしていて。思いのほか有名なギルドです。先輩も優しそうな方ばかりで楽しそうなギルドでした。これは候補のひとつに数えておきましょう。
その他にも興味のあるものをいくつか見て回ったのですが、どうもしっくり来るものがなくその辺をウロウロしていた時です。
何やら周辺の生徒が東館と呼ばれている実習棟へ流れているように見えたのです。それもなにか目的があり、路上ライブを見るために集まる民衆のように。ワクワクした気持ちが抑えられないような雰囲気に私は、なんとなくついて行ってみよう。そう思ったのです。流れに任せ歩いていると、この集団がなにか同じものを目的として動いていることに気づきます。ザワザワとした空間の中でその答えとなる会話が聞こえました。
「1階生の留学生が上級生と剣を交えるらしいぞ、場所は東館の中庭らしい」
「1年の留学生って誰だ」
「そいつは......、極西の島国から来たサムライガールらしい」
あー、もしかして、もしかしなくても。そのサムライガールはヒロのことではないでしょうか。なにかトラブルに巻き込まれたかもしれません、急いで向かいます。
東館はそれほど遠くではなく自前の地図を見て迷うことなく着けました。少し時間はかかってしまいましたがどうにか試合には間に合ったようです。それにしても思いのほか人が多く、なにかのスポーツの客席のような状態。まあ、試合ですからこうなるのも当然と言えば当然なことで、必死で人の壁を突き進んで試合が行われる広場がはっきり見える場所へ到着しました。
そして、もちろん極西の島国から来たサムライガールこと、ヒロとその対戦相手である青のネクタイすなわち四階生の先輩も見えました。双方特に何もせずに向き合っているだけです。これはもう既に試合は始まっていて強者同士の見えない戦いが既に始まっているのでしょうか。ただ睨み合っているだけの時間が少し流れます。と、二人の間に一人別の青ネクタイの先輩が現れました。
「ではこれより。私、四階生バートン・ヘンリー立会いの下。四階生、ジェフ・アンソニー対、一階生ヒロコ・オサナイとの略奪戦を執り行う」
全然始まってませんでした。しかし、一体どういうことでしょう。立会人から放たれた言葉はまさかの略奪戦です。相手は四階生で先輩。ヒロの剣術を見た事は無いですが、先輩が相手となると危ないのではないでしょうか。もしかすると不当なものを請求されて、ヒロが奴隷のような扱いを受けて、ボロ雑巾のようになってしまいませんよね!? この略奪戦飛び入り参加しても大丈夫でしょうか、でも私対人戦はしたことがないのでどうしたらいいのか分かりません。
「それでは両者構え......」
そうこうしているうちに試合が始まるようです。当事者では無いですがなんだかヒヤヒヤが抑えられません。
双方構えの状態へはいる。先輩は剣に手をかけ、ヒロは腰の刀に手を乗せて体制を低くする。立会人がそれを確認する。
「始めっ!」
大きな声で試合開始の声が響く。
最初にしかけたのは先輩で、剣を抜くや否や速攻で剣を下段に構え体を低くし一気に距離を詰める、目指すはおそらくヒロの懐。一撃で勝負を決めるつもりのようです。それに比べヒロは微動だにしせず、ただ相手を見つめているだけのよう。その間にも2人の距離は縮んでいき、先輩はヒロの目の前に到達していた。
「ふん、腰が抜けたか」
先輩はそう言って剣を下から上へ切り上げる。もう回避行動は間に合わないこれではヒロが切られてしまいます。
「危ない!」
咄嗟に声が出ていました。もうダメだと思いました。これではヒロが真っ二つになってしまいます。ですが、そうはなりませんでした。私が声をあげると共にヒロに動きがありました。体を少しずらし刀を鞘から半分ほど抜刀し斬撃を防いでいました。中庭全体に大きな金属音が響きます。
「ほう、受け止めるか」
「いい太刀筋をお持ちのようで」
「それはどうも。でもこれはどうだい」
先輩は不敵な笑みを浮かべています。なにか策があるということでしょう。少しの間膠着状態が続きます。鍔迫り合いの音を響かせ両者1歩も動かずにいます。しかし、それも長くは続かない。あと少しでこの拮抗した状態が崩れる。ギャラリーからの妨害によってヒロが不利になるように試合が動き、そしてヒロは敗北すると。私は何故かそれを確信していました。不思議な話で、初めて目にする光景であるはずのこの決闘。なのに1度この光景を見たことがあるという確信があったのです。この確信が本当ならこのギャラリーの中からヒロへ向けて攻撃が行われる。だとしたら一体どこから? そうだ、魔力の流れを見ればどこから来るかわかるはず。私は目を凝らし魔法を発動する前に現れるモヤのようなものを探しました。すると程なくして赤色のモヤが私の後ろの方から流れてくるのに気が付きます。火属性魔法の時の色です。だとしたら対処は簡単水属性の魔法を当てて相殺すればいい、そうすれば1番被害を少なくできる。すぐさま水属性の魔法の構築文を脳内で暗唱する。モヤの量が増えてきた、そろそろ放とうとしているのが分かります。出来るだけ威力をあげるため魔力を集中的に貯めているようです。私の魔法で相殺できるでしょうか。しかし、できることはやったつもりです。あとは相手の攻撃を待つのみです。
先輩が蹴りを入れる素振りを見せヒロはそれに反応し即座に距離をとる。それと同時に魔法が放たれた。
「ファイアボール!」
ひとつの火球が私の上を通過して行きました。それを確認し彼女の元へたどり着く前に私が魔法を放つ。できるだけ相手の魔術者にバレないよう声援を送っているギャラリーに見えるように拳をあげてから周りに聞かれぬよう小さな声で。
「ウォーターカッター」
私の放った水刃は火球を真っ二つにした。その後、火球と水刃は軌道をそれ、あらぬ方向へ飛びヒロ達の足元へ着弾しました。
撃墜です。
初めての試みですが出来ちゃいました。と、喜んでいる場合ではありません、直ぐにしゃがんで少し離れた場所へ。
「ふーむ、私の記憶が正しければ。1対1の試合だと聞いていたのだが、どういうことか説明願えるか?」
ヒロは冷静に先輩へ質問をしていました。
「と、言われてもな。1対1と言った覚えは無いのだがね。それにこの試合は公式試合では無く生徒同士の喧嘩の直線上なのだ。君をよく思わない生徒がいたんだろう。そういう君こそ、いつの間にか人を呼んだみたいじゃないか」
それに対して相手側は悪びれる様子もなく言い訳をしていた。様子を見るに最初から正々堂々とした試合をするつもりはなかったのだろう。なんて卑怯な。
「ほう......、そうか。ならばひとつ聞きたい」
「どうぞ」
「見物人より攻撃した者もこの試合の参加者としてみなしてもいいのだな?」
「あぁ、そうだな。頭数に加えてもいいだろう。しかし、ある程度の方向がわかったとしても、このギャラリーの中から1人見つけ出すのは大変だろう」
「心配には及ばん。既に場所は把握している」
それを聞いて先輩は驚いた表情の後。笑い声を上げながらこう言った。
「はははっ、そんなわけないだろうこの人数だぞ簡単に見つけられるものか。冗談も大概にしてくれ。それかあれか脅しのつもりだとしたら相当な素人だな」
「かもしれぬな」
「まあいいさ、続きと行こう」
先輩がまたも先手をとる。
同じように急接近し今度は連続で斬撃を入れる。隙を与えず相手が崩れるのを待ち、最後にとどめを刺す。こう言った流れにする腹のようです。私もヒロへ支援をしたいものの居場所がバレると妨害者のヘイトがこちらへ向きかねません。むしろこちらを狙っているまであります。さっきは不意打ちの攻撃だったのでどこから打たれたのかはある程度しかわかっていないはずです。今私がしなければならないことは。
「早く移動しないさい」
声の主は横にいた眼鏡をかけた女子生徒、青いタイの四階生。ヒロと戦っている先輩と同じ学年。というかバレないようにしたはずなのに普通にバレてます。どうしてですかね?
「どこでもいい。ここじゃないもっと見えやすい所へ」
見えやすい場所。ギャラリーも全体が把握しやすい場所へ行けということでしょう。しかし、移動中はヒロへ対する妨害を阻止する人がいません。ヒロならそれでも何とか出来そうですが、万が一のことがあっては行けません。さすがに中庭を離れる訳には。
「さすがにここを開けるには」
「安心して、移動中は私がここから見てる。あの程度の発動速度なら私でも撃ち落とせるわ。相手はそれほど利口ではない、それにあなたと違って魔術のセンスもないわ」
なんでしょうこの先輩。相手の魔術者のこと滅多斬りに非難してるのですが、なんだか敵なのに少し可哀想に思えてきました。
「わかりました。どなたか存じ上げませんがありがとうございます」
そう言い残し私は中庭全体が見渡せる場所。東館のテラスを目指しました。正直この時、この判断が正しかったかは少し微妙かもしれません。だって中庭が戦場になっていて、もちろん中庭に向かって窓がある訳ですから。そこから決闘を見ようとギャラリーが集まるわけで、そりゃあ東館内は人でごった返してますよね。しかし、それを押しのけて私はどうにか最上階のテラスへ到着しました。テラスも同じように人で壁ができていましたが、東館内より少し少ないようだったので前へ行くのに時間はかかりませんでした。
「これで見える」
案の定、中庭全体が見える。ヒロもちゃんと健在のようで、今もほぼ同じ場所で相手の攻撃をいなすか、受け止めるなどの完全防御の体制で踏みとどまっているようです。
先輩は私の足元に見えるギャラリーの集団の中に居た。
それを確認して再度魔力視を行使する。相手の魔術者の出す赤色のモヤは意外とあっさり見つかった。最初は私と同じでヒロから見て右側にいたが、今は完全に後ろ側に立っている。
モヤの量が増える、しかも量が多い。先程より威力を大きくして放つようです。魔力のパターン的にさっきと同じ火球。1度失敗した攻撃をもう一度行おうとするとは本当にセンスがないのかもしれませんね。魔術は大きければ大きいほどその分、発射後の前進速度が低下する傾向にあって、そうなるとさっきよりも速度の遅い火球を放つことになります。こんなことをするということは速度が落ちることを知らないんでしょうか? それに比べ私は高所にいるので水刃の前進速度に高低差による位置エネルギーを合わせることが出来きます。
「だからあなたと違って、同じぐらい大きな魔法でも速度は同じかそれ以上」
モヤを中心に大きな火球が現れ。放たれるも、案の定あまり速度が出ていない。これなら、さっきは早すぎてできませんでしたが、今度は魔術の核を撃ち抜いて完全相殺ができるかもしれません。しかも火球のサイズも十分。核も通常より大きいことでしょう、狙い撃つことは十分にできます。
「ウォーターカッター!」
少し興奮しすぎて普通に呪文言っちゃいました。
大きな火球へ向けて、こちらも大きな水刃をぶつける。水刃は火球の核に命中し、それを成型している魔術の膜が破壊されることで起こる魔術崩壊が起こり周囲に火属性のエレメントが放出されました。エレメントによる二次被害を防ぐため私が意図的に水刃の核の膜を解除することで、双方のエレメントを衝突、水蒸気を発生させて事なきを得ました。もちろんエレメントの量は私の魔法の方が上なのでおそらく火傷するほどの暑さでは無いはずです。
......多分ですけど。いや、水蒸気が出てる時点で高温であるのか、火傷してたらごめんなさい。
そして試合の方ですが、私が下を確認した時には既に決着が着いていました。中庭の真ん中程でうつ伏せになって先輩が倒れていました。ヒロは刀を鞘へ収め辺りを確認し、私に気づきこちらに手を振っています。それに私も両手でお返しします。にっこり、いい笑顔が彼女から溢れていました。おそらく私の起こした水蒸気のおかげで勝てたのでしょう、お手柄です私。
そういえば、さっきの眼鏡をかけた先輩に感謝を伝えなければならいと思い中庭に降りましたが、既にどこかへ行ったようでした。名前ぐらい聞いておけばよかったです。
急いで中庭、彼女の元へ向かいます。人の波をかき分けて勝利したことは知っていますが、何より心配なのが怪我です。あれほどの斬撃に晒されていたのでどこか怪我をしているかもしれません。それこそ顔なんかに切り傷でも入ってしまっては、あの綺麗な整った顔が台無しになってしまいます。
居ました。ギャラリーは試合を見届け三々五々にばらけ始めていたので、降りてから見つけるまでさほどかかりませんでした。私は見つけるや否や足早に彼女の元へ、向こうも気づいてこちらへ駆けてきました。
「ヒロ!」
私は走っていた勢いのまま彼女に抱きつきました。心配でたまらなかったということでしょう。
「おおっ、なあに大事無いぞ。アリー、ぬしの助太刀に感謝だ。ありがとう」
そんな私を彼女は受け止め『ポンポン』と背中を叩いていました。
「大丈夫ですか? 怪我は無いですか?」
「怪我なぞしてないさ。さっきも言ったろ。大事無いと、ただ」
「ただ?」
彼女はは体全身から力を抜いて少しうなだれるようにこう言いました。
「体が疲れたよ、それに恐らくだが術の類だと思うが体が、倦怠感と言うのか? なんとも言えん感じだ」
本人の言うように術の類だとすると、呪術や闇属性系の妨害魔法の類か、単に魔力切れや肉体疲労などの身体的な疲れに類するものかもしれません。前者でない限り時間が解決してくれるでしょう。症状が続くようであれば対処します。
「そうですか、その程度なら大丈夫かもしれませんね。ですが一応お医者様に診てもらってください」
「あぁ、そうさせてもらうよ。......でだアリー」
「?」
「私は今の状態が続いていてもいいのだが、そろそろ離れないと周りの者たちにあらぬ噂を立てられかねんぞ」
今の状態、そうです。私はまだ彼女に抱きついたままでした。傍から見ればなかなかにシュールな光景です。というか恥ずかしいです。死んでしまうかもしれません。そのことに気づいて私は「バッ!」と離れました。それと同時に周囲を見回すとそこには「微笑ましい光景が見れたな」と言った顔をした生徒の姿が沢山、ほんとに沢山の生徒が居ました。顔が赤くなるのを感じて私はヒロの手を引いて走って東館を後にしました。少し強引だったのかヒロが手を取った時「とっ......」と言っていました。ごめんなさい。
その後、保健室へ彼女を連れて行き......。たかったのですが、保健室の場所をちゃんと把握出来ていなかったので、結局ヒロに教えてもらう羽目になりました。薄々気づいていましたが私は筋金入りの方向音痴のようです。
ヒロを保健室へ預け私は自室に戻り、もちろん道に迷いましたが、どうにか辿り着きベットへダイブ。恥ずかしさのあまり少しの間ジタバタしていましたが気づいた時にはすっかり夢の中へ沈んで行きました。
その夜。
私は悪夢(?)を見ました。
-to be continued-
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