第3話 -先駆者たちの記録、それは彼らの旅路-

 翌日からは本格的な授業が開始されます。私の最初の授業は魔術基礎理論。文字通り魔術を扱うにあたって需要となる魔術の操り方を教わる授業です。基本的には魔法の使える者は日常生活の中で少しづつ習得していきますが、それを生業とする場合このように専門的な知識や魔術に対する学を備えなければなりません。そのためにも基礎は大事だということです。

「初めての授業なだけあってみな緊張しているようだな」

 レミントンさんの言うように周囲の生徒たちからはなんだか緊張しているオーラのようなものが感じ取れる。それでも中には数名の生徒が楽しくおしゃべりをしている、だいぶ肝が据わってる様子です。この授業、同じ枠になった知り合いはレミントンさんだけでした。友人がゼロでなかったことにひと安心ですね。決して私がコミュ障とかでは無いです。

「まあ、私達も含め若干数名は友人と話しているようですね」

「そのようだな」

 魔術基礎理論。一体どう言った教授が担当するのか、めっちゃ怖い鬼教授とか、セクハラ親父とか、理不尽なこと言う教授じゃないことを祈るばかりです。

 廊下からコツコツと靴の音が聞こえて来ました。一定間隔で聞こえて来るものだから、私の中で緊張度が高くなっているような感覚を感じました。周りの生徒たちも音に気づき同じように静かになる。

 足音が終わると共に扉が開かれ、そこから1人の若い教授が姿を表しました。彼は荷物を教卓の横へ置き、笑顔で。

「皆さん、初めまして。私は今年の第一学年の魔術基礎理論の担当を受け持つガウェイン・シュバリエ・アインホルンだよろしく頼むよ」

 と、言った。

 優しそうな人でした。

「私は去年からここで教授をやらせて貰っているから至らないとこがあるかもしれないが、もしも何か不満があるなら言ってくれ可能な限り善処するよ」

 周りの生徒も彼の話を聞いて安心した様子。

「アリシア。私たちはアタリを引いたようだ。幸運の風は私たちに吹いているようだ」

「どういう事ですか? アタリというのは」

「いやな、彼以外にあと2人教授がいるのだが、そのうちのもう片方が曲者らしくてな。その教授を引かなかったのが幸運だということだ」

 どういった感じに曲者なのかまでは聞きませんでしたが、この話が出るということは相当な曲者だということでしょう。もしかするとそれが理由で数名の生徒が感極まった顔でガッツポーズをとっているのでしょう。

「最初の授業内容だけど、まず最初に君たちの魔力を調べさせてもらう」

 入学の時に魔力は計測して記録されているはずです。なのにどうして計測する必要があるのでしょうか? もしかすると魔力量は成績に含まれると言うことだろうか? だとすると私の魔力量は他の人と比べ、一段と多い訳では無いので好成績を収めるのは厳しいかもしれません。

「あぁ、調べると言っても魔力量は成績に直接関わって来ることは無い。だが、現状君たちがどれほどの魔術の適応能力があるかを確認するためだから安心してほしい」

 そう言いながらアインホルンは教卓の上へ魔力の解析装置を置く。その装置は私の見た事のあるものとは少し変わった形をしたものだった。私の知っているものは真珠のように白い球体であって、周囲に特にこれといって装飾品などは取り付けられていない。しかし、教授の持ち出したものは真珠のように白くなく透明でした。どちらかと言うと少し霞んだ水晶のようなイメージを受けます。

「順番にこれに触れてくれ」

 言われた通りに皆が水晶に触れていく、特に色などに変化はないが何やら教授が記録を付けている。私たちには記録は見えないが、教授には見えるようになっているようです。おそらく水晶自体に何らかの魔法がかけられているそう考えるの妥当でしょう。気になりますね仕組みが。錯覚や幻覚、不可視化系の魔法でしょうか。この種のものは注意深く見たとしても判別が難しく、水晶の姿を確認することは出来ないでしょう。しかし、自らの手で水晶を触るようなので触れさへ出来れば水晶にかけられた魔法がわかるでしょう。

 さあ、私の番が来ました。

「はい、じゃあ次の人。えっと名前は?」

「アリシア・フォン・バルクホルンです」

「バルクホルンさんね。1年間よろしく。じゃあ、それに手をかざして魔力を注いでみてくれ」

 水晶に触れて魔力を送る。ですが、やはりなにか魔術がかけられているようで計測結果の確認は出来ませんでした。しかし、教授は水晶に魔力を送っているようではなかったので幻術系の魔法によるものでは無いようです。予め魔力を貯めておいて消費するタイプかしれません。

「よし、もう離していいよ」

「ありがとうございます」

「あっ、これを」

 教授に小さな紙を渡されました。

「えっと、これは?」

「後で見ておいてくれ」

「はい、わかりました。失礼します」

 そう言って教卓の前を離れました。

 不思議に思いながら渡された手紙を確認してみます。そこにはこんな言葉が綴られていました。『今日の放課後研究室に来て欲しい。君と話がしたい』との事です。一体全体どういうことなのか皆目見当もつきません。もしかするとお父様やお母様のお知り合いでしょうか? だとすると、お父様とお母様の昔話が聞けるかもしれません。もしそうだとするなら学生時代のあの2人の様子を聞き出しましょう。ついでに馴れ初めなんかも聞いてしまいましょうか。今から楽しみです。

「なにか貰ったようだがメモか?」

 レミントンさんが不思議そうに聞いてきます。

「ええ、放課後に研究室に来て欲しいようです」

「ほう、なにかしたのか?」

「いえ特に、ただ言われた通りに魔力送ったぐらいですね」

 その後程なくして全員の計測が終わりました。特に計測についての解説などはなく普通に授業が開始されました。内容はまさに魔術に関する基礎的な授業で、魔術の発生原理や基本的な分類、そのほか関連技術などの簡単な解説が行われた。

「......と言ったところで、魔術は工業にも大きな発展をもたらした。それは現代ではどう言われているか......。ガルシアくん答えてみなさい」

 名指しで名前を呼ばれた男子生徒は「はいっ!」と、大きな声をあげ立ち上がります。

「魔術的革命と呼ばれています」

「そう、魔術的革命。それは文字通りの意味であって魔術と工業の融合により、魔法のように技術が進化した。という簡単な言葉遊びのようなものだ。結果これのおかげで我々の暮らしは大きく成長した。ところがそれとは逆に全てが良かったものとは言えない。なぜだと思うガルシアくん」

 男子生徒は必死に考えているようですが、口から出る言葉は「えーと、その」と、言った感じで答えが分からないようでした。

「答えられなくても大丈夫だ。これは最近になって問題視され始めた事案だからね。Mr.ガルシア座っていいよ。じゃあ、今度は......。バルクホルンさん答えてみなさい」

「ひゃいっ!」

 急に振られたので変な返事をしてしまいました。もちろん周囲からは「クスクス」と笑い声が聞こえてきます。しまいには隣のレミントンさんも笑いを堪えているようで口元が引きつってます。恥ずかしすぎる。ですが、答えはわかっています。

「えっと、魔術を使用できる者とそうでない者での差が生まれてしまい。それを原因とする差別などが発生し、就職や進学、グループないでのいじめが起こる場合もあります」

 私の答えを聞いて「クスクス」と教室の各所から聞こえていた笑い声は。「おぉ〜」と言う声に変わっていました。お父様から色々と話を聞いてて良かったです。

「正解だねバルクホルンさん、彼女の言ったように魔術を扱えるものが優秀でその他のものは劣等種である。と言う者達も少しづつだが、確実に増えている。彼らを魔術者至上主義者と呼ぶ。これらは決して許される行為ではない。君たちにはそれを踏まえて魔術というものに関わって欲しいと思う。少し道徳的な話になってしまったね。次からは本格的に実践を交えた授業をしていくよ、本日はここまで」

 その言葉と同時に授業に終わりを告げる鐘の音が響く。それを聞き生徒たちは次々と教室を後にします。私達もノートや万年筆を片付け教室を後に。

「それにしてもアリシア可愛かったぞ」

 何が可愛かったか、もちろんさっきの返事の件でしょう。

「やめてください恥ずかしいです」

 恥ずかしがる私を見てからかっているようです。しかし、さっきの返事をもしも別の誰かがしていたとするなら私も笑っていたかもしれません。他人のことは言えないでしょう。

「しかし、その後の返答は良かったな。まさに今問題視され始めた事案を答えていたからな」

 そう、この問題は私達魔術師に取って利益の多い話でもあるのです。おそらくは今後もっと大きな問題に発展することでしょう。

「いいえ、お父様からそういった話を聞かされていたので、今回は運が良かっただけですよ」

「そう言うな知識は人の財産であり、実力あり、武器なんだから、謙遜することは無いよ」

 そう言われると悪い気はしません、むしろ嬉しいです。やはりレミントンさんは優しい方です。

「レミントン、アリシア」

 すると背後から私達を呼ぶ声。後ろからヒロコさんと、セシルさんの2人が歩いて来ました。

「どうだった教授は?」

 ヒロコさんは難しい顔を浮かべて。

「私の方はなんとも一癖も、二癖もある教授だったな」

 ヒロコさんはどうやらハズレの方が当たってしまったようです。

「私はおおらかな女性の教授でしたよ。ということは御二方の方はあの若い教授さんですか?」

「あぁ、そうだなアインホルン教授だ」

 ヒロコさんは今後大変になるかもしれませんね。

「そういえば2人とも聞いてくれ」

 おっと、少し嫌な予感がします。まさかと思いますがレミントンさんあなたまさか、

「アリシアがな教授に当てたられて質問に答えたのだが、それが素晴らしくてだな」

 これは極めてまずい気がします。絶対レミントンさんこの話に合わせてあの話をするつもりな気がします。

「待ってください、その話は今しなくてもいいじゃないですか」

 講義の言葉と共に、必死に妨害をしましたが努力虚しく、先程の恥ずかしい話を2人に聞かれてしまうのでした。

 前言撤回、レミントンさんは意地悪です。その後、午後の課業を終え、食事を済ませた後に言われた通りに研究室へ向かいました。

 あたりは既に暗くなっています。唯一の光は廊下をほんのりと暖かかく照らしているガス灯のみ、一定間隔で設置されていて不気味に感じます。先日の夕刻の時のいい雰囲気とは真逆です。夜の外出ですが、ちゃんと寮監から許可証を発行してもらっています。外出する前に説明を聞きましたが、夜分学内で発生した生徒間でのトラブルに学園は一切関与せず、責任を取らないそうです。面倒事には関わりたくないですね。心配事はさておき、目的地であるアインホルン教授の研究室に到着しました。ノックの後自分の名前を口にする。すると程なくして中から「どうぞ」と教授の声が聞こえてきた。

「失礼します」

 部屋の奥の方で、資料とにらめっこしている教授の姿がありました。昼間のにこやかな顔とは違い難しい表情を浮かべていました。そして彼とは別に人影を目にします。最近よく出会う金髪の少女の姿がありました。

「あら、最近よく会うわね。あれかしら運命か、神様の気まぐれか。あなたも教授に呼ばれたのかしら?」

 同じことを思っていたようですが彼女はだいぶロマンチスト風ですね。言葉から察するに彼女も教授に呼ばれたようです。

「はい、私も教授に。理由まではわかりませんが」

「あいにく私も理由は聞いてないわ。彼女も来たようだしそろそろ教えてくれませんか、教授?」

 そう呼ばれた人は未だに資料とにらめっこしている。

「まあまあ、訳を話す前に君たち自己紹介してないでしょ。早く済ませてしまいなさい」

 そうです。私たちはお互いの名前を知りません。

「じゃ、じゃあ、私はアリシア・フォ......」

「......フォン・バルクホルンさん。魔法省の官僚、バルクホルン卿の一人娘ね。あなた学園内ではそれなりに有名よ」

 当然というような顔で私の名前とお父様の経歴答えてるのですが、それにしても改めて思いました。お父様すごいんですね。

「教授そうなんですか?」

「ん、あぁ。君、多分だけどこの後色々と忙しくなるよ」忙しくなる?

 一体何が始まると言うんですか、詳しく聞きたいのですが教授はそれ以上話すつもりは無いようです。

「私はクリス・ロンド・ハリコフスキーよ。よろしく」

 握手を求められたのでそれに答えます。

「はい、よろしくお願いします」

「さっ、自己紹介は終わりましたよ教授。早く本題に入ってください」

 クリスさんは急かすように教授へ歩み寄る。

「わかった、わかったからそう急かさないでくれ。君たちを呼んだのは少し話をしようと思ってね」

 話というの一体どういったことを話すのでしょうか。特に教授と共通の趣味を持っている訳でもないのですが、それにクリスさんも会うのは初めてではないものの、名前は初めて知った訳ですし。

「と言っても話というのは簡単なもので、君たちに私の研究を手伝ってもらおうかと思ってね」

 研究の手伝いですか。と言っても私はこれといってなにかに特化した知識は持ち合わせていませんし、それに私の知識の源は全てお父様の書庫頼みであってその知識で教授の研究の手伝いができるかと言われると、難しい気がします。

「手伝うのはとても光栄なことですが。2つ質問が」

「なんだい」

「どういった研究内容なのでしょうか? それとなぜ私と彼女の2人だけなのでしょう?」

 確かにそうです。

 なぜ私と彼女なんでしょうか。2人になにか共通点でもあれば合点が行きますが、せいぜい性別が同じとかでしょうか? クリスさんの苗字から察するに大陸の東に大きな国土を持つ大国。シュリア連邦やその周辺諸国で見られる苗字です。その時点で国籍は違うでしょうし、分かりませんね。

「そうだね。確かに内容を知らないまま研究の手伝いと言われても困るよね、すまなかった」

 やっと資料から目を離しました。

「それで研究内容だが、まず私の専門分野は医療系の魔術でね。少し前から回復魔法などの効果の個人差などを調べているんだ。攻撃魔法の類は軍隊がよくやっているけど、医療に関して魔術の進歩はあまり芳しくないのだよ。どうにかもっと本格的に魔術を医療に使って、もっといい治療を行いたいと思って研究をしているのだよ」

 確かに回復魔法の効果は個人差が大きくなる傾向があり、そのためあまり医療目的では使えない場合があるという話を耳にしたことがある。一応簡単な回復魔法を治療に使うことはあっても、それが手術などになると。医師の魔力だけでは心許なく、医師とは別に魔術師の両方を用意しなくてはならなくなる。それでは手術の効率が大きく低下する。おそらくそのあたりの研究でしょう。ですが私医療の知識ないですよ。

「すみません。私からひとつ」

「あぁ、いいよ」

「そのですね。私医療関係の知識は皆無なんですが......。その、私で大丈夫なんですか?」

「それについてだけどハリコフスキーさんの2つ目の質問に答えるついでになるけど。実はだね君たちを選んだ理由は単純で課業の時に魔力を計測するって言ったよね」

 2人揃って頷く。

「あれ嘘なんだよね」

「「嘘!?」」

 綺麗に揃います。

 なんでしょう上手い具合に2人の行動がシンクロしています。

「綺麗な球体あったよね。計測装置と称して出したヤツ実はあれただのガラスの塊なんだ」

「「ガラスの塊!?」」

 またまた揃います。なんでしょう私たち相性いいですね。それにしても、どおりで魔力を通しても手応えはないし、教授が魔力を送る様子もないし、球体自身からも魔力を感じないわけです。だってただのガラスなんですもの。

「それで、選定基準だけど。君たち2人はあのガラスを解析しようとしていた。ないしは私の魔力の動きを観察しようとしていた。もしくはその両方だったからだよ心当たりあるんじゃないかな」

 そうですね、すごくあります。というか両方していましたね。クリスさんも同じことをしていたということでしょう。

「ちょっと待ってください」

 唐突にクリスさんが驚いたような声音で口を開きます。

「アリシアさん貴女まさか、解析だけじゃなくて魔力の流れが見えるのですか?」

「はい見えますね。うっすらとですが属性によって少し雰囲気が違いますが」

 さっきよりも驚いた表情になりました。

「貴女すごいわね魔力視だなんて。私からも一つ言わせてちょうだい。貴女これからすごく忙しくなるわよ」

「忙しくですか......」

 クリスさんにも同じことを言われました。ということは相当な目に会うのでしょうか? ただでさえお父様の名前によって有名になってしまっている上に、今度はまた別の要因で有名になってしまうということですから、そう考えるとなんだか嫌な予感がしてきました。おそらく先ほど話題に出た魔力視云々が関わってきそうです。

「話がズレてしまったね。それで君たちの手伝ってもらう内容だけど、君たちは治癒魔法、回復魔法を発動してもらいだけだよ。それとは別に私の助手をやってもらえると嬉しい。それで交換条件だけど君たち2人には特別に私からいくつか報奨を用意するよ。どうだい引き受けてくれるかい?」

 報奨の内容がどういった物か気になりますが、私個人としては断る理由もないですし、また新しい分野の知見が広がるチャンスですこれを逃すのはもったいないです。

「わかりました。私でよければ教授のお手伝いさせていただきます」

 私に続きクリスさんも。

「私も教授の研究内容に興味があるので協力します」

 その答えを聞いて教授は「すごく助かるよ」と安堵の言葉を口にしていました。それにしてもクリスさんの反応からするに、魔力視の力は貴重な能力なのでしょう。これがあれですか、私のチート能力というものでしょうか?

「私も一様魔力視は可能だが、まさか属性まで見分けられるとは驚いたよ」

 教授もできるみたいです。

 後日調べてみましたが、魔力視を使える人間はある一定数いるようです。しかし、属性がわかるとなると珍しいようです。

「そうだそうだ。報奨と言っても不正の加担や、評価点の傘増しとかはしないからね」

 それはご最もです。

「それにしても、助かったよこんな優秀な助手が2人も着いてくれるとは嬉しい限りだ」

 教授の中での私たちの評価が既に高めになっているようです。これは下手なことをして失望させないようにしなくてはなりませんね。もしかするとこれは教授の生徒をやる気にさせる技なのかも。

「遅くなってしまったね。私が寮まで送ろう。今の時分は危険だからね」

 そういえば深夜帯での生徒間のトラブに学院は一切関与しないと言ってましたね。しかしどうして関与しないのでしょう。気になりますが、嫌な予感がするので質問は控えておきましょう。

「やはり、今も『あれ』は行われているのですか?」

「『あれ』って言うのは『略奪戦』のことかい」

 まさかのクリスさんが話しをふっちゃいました。

 それにしても略奪戦とはいかにもな、物騒な単語が出てきましたね。

「そうだね、まだ続いているよ。それでも、最近は減ったほうさ」

 クリスさんは知っているようでそれ以上話を続けようとしませんでした。ここまで聞いてしまうと、なんだか説明できない嫌な予感がして来ました。しかし聞きたくなってしまうのが私です。気づいた時には既に質問を口にしていました。

「その略奪戦というは一体......?」

「略奪戦というのは数十年前ぐらいから始まったもので、文字通り所有物の権利を巡って勝負をすることなんだ」

 教授の話によると。

 深夜にローブ姿の者に襲われて、それに敗北した場合。その時身についけていた物を奪われるというもで、最初はちょっとした小物を奪われる程度で終わっていたようで、学院側もあまり危険視していなかったが、学院側興味を持っていないと気づいた途端。深夜だけでなく、夕刻や、朝方に起こるケース。所持品だけでなく命を奪うケースもあったとの事です。この事件は学院内外の者両方が行ったもので、大問題となったようで、女子生徒の中には酷い目にあった者も少なからずいるようです。これはまずいということで学院側と捜査機関が動き始め一気に件数は減ったのですが、完全に解決はしていませんでした。しかし、その時とある生徒が友人らを引き連れて主犯と思しき者を捉えたのです。その生徒の名前を聞いて私のなんとも言えない嫌な予感の正体を知りました。

 主犯を倒し、犯行グループのアジトを見つけ出し一夜にしてそれを壊滅させた生徒らのリーダーの名前は......。「ダスティン・フォン・バルクホルン。後に魔法省のトップに登り詰めた有名な魔法使い。そう、君のお父様だよバルクホルンさん。それが今では学院の文化のようになって昼間から決闘のような様式で行われていることもある」

 そういえば昔お父様が 、「私は学院生の時悪党共を倒したんだぞ」と言っていたのですが、それを聞いた当時の私は冗談だろうと思っていましたがホントのようです。そういえば、うっすらと略奪戦という単語お父様から聞いた覚えがあります。詳しく思い出せないのはきっと読書に夢中になっていたからだと思います。それにしても略奪戦。名前の時点で悪趣味です。略奪できるモノは所持品だけでなく当事者の持つありとあらゆるモノ。その気になれば命を奪うこともあるとは、それを始めた人々の倫理観を疑います。

「今では件数自体はすくなったけど、やっぱりバルクホルン卿でも組織の完全壊滅はできなかったようでね。未だに残党がいるようだ。それにこの略奪戦は今では学院の文化のような扱いになっていて、今では申請をすれば昼間でも行われてる。それに仕掛けたがわのものが負けた場合今後一切自分で略奪戦の申請は行えないことになっている。まっ、そんなわけであまり夜中に生徒だけで出歩くのは危険ということで気をつけてくれよ」

昼間に行われるものはイベント的な扱いになってはいるようですが、夜中に行われるものは慈悲なんてものはなく。それこそ相手の全てを奪えると、とんでもない話です。

 話しているうちに寮に到着し、教授に「また明日」と言い寮へ戻りました。

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