第29話 神様が欲しいんだ

……とは?」


 つい口に出してしまった単語に、イフィリストが反応してしまう。


「あぁ……まさに『この世界における唯一絶対的な信じられるもの』ってやつだよ」


 面倒くさくて、先程の彼の説明に被せる。


「ほう……それは、西の賢者さまによる知識ですかな?」


「え、なんでばれた?」


 エルニクスの事を知っている?


「知り合いだっけ?」


 覚えてなさそうなエルニクスの反応。


「百年程前、私の故郷の村で酒宴をしたあと農耕技術を伝え、橋を架けてから『またお酒もらいに来るから~』と言い残した後、百年ほど来てないと……」


「……忘れてた」


「おい」


「ひでェっすね」


 エルニクス……

 なまじ長く生きてるから、これからもこんなことありそうだな。


「まぁ、そんなとこ。こういう世界があってもいいよねってエルニクスと話してたの。私たちも『最果て』目指してるから」


「あなた方も、『最果て』を……?」


「そんなこと話したっけ?」


 エルニクス、話したこと無いよ。気付かないで。


「ふーん……だとしたら、欲しいですね。『カミ』」


「どうして?」


 問いかけと同時に、私に対して飛んで来る飛来物を感知。迎撃しようと剣を抜こうとすると、


「ちょっと前を失礼」


 イフィリストが割り込み、腰から太い剣を二本、引き抜く。


「ムンっ!」


 二刀、その直剣ロングソードの刀身には大きさの違う数個の穴が開いていた。飛来してきた数本の矢を彼は全て切り飛ばした。


「『笛剣』といいましてね。目の見えない私のために、故郷の友人があつらえてくれたものです」


 丁寧な説明のもと、矢が飛来してきた方向にいしゆみを持った盗賊共が見える。


「こいつのおかげで、私はここまで来れた。先程の恩返しさせていただきましょう」


 風切り音のが響き渡り、イフィリストは疾駆する。


「ひぎゃあああああ!」


 悲鳴を上げた奴から、斬られていった。

 音を頼りに人を切り刻む盲目の剣士。


「終わりました……お話しの続きをしましょう」


 何処も見えていないのに、彼は何かを見続ける。


「この世界はどうしようもなく壊れてる。苦痛と混沌が渦巻き、何一つ信じられるモノは無い」


 絶望したような目。

 されど、その言葉には希望があった。


「だけど、生があることは……産まれることは、きっと素晴らしいはずなんだ」


 私の前に、盲目の剣士はひざまずく。見えて居ないはずなのに。


「信じられるモノが欲しい。どうか、私も『最果て』へ同行させてください」


 真っ直ぐ、閉じられた目が開き私を見つめる。


「この世界には、『カミ』が。信じられるモノが必要なんだ」


 夜空に浮かんだ月のような色の瞳だった。


「……まさしく、君みたいなやつが聖騎士なんだろうな」


 何てことない、ぼやき。


 彼の有り様、後の旅路における逸話いつわから、後に聖騎士 イフィリストはこう呼ばれた。


 『信仰の聖騎士』と。





 

 


 


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