第28話 巡礼の旅路と盲目の聖者

「お腹、空いた」


 怪物の唸り声のような音がエルニクスの腹から聞こえる。


「えっと……一応、聞くんだけど人間食べたりとかしないッスよね?」


 怯えるフェイ。


果実フルーツとかの方が好きらしい」


 この前、大量の魚を食べながらエルニクスが話してたっけ。


 今、いるのは遙か上空。

 私は魔術を使い、花の翼で飛び。フェイは竜化したエルニクスの背中に必死にしがみついている。


 眼下には、諸王国を結ぶ陸路。ハイート街道がある。戦争により荒廃して久しく、今や人々が行き交って居たはずのが移動には盗賊がはびこり、被害者の骸が並ぶばかり。


「……ん?」


 そんな外胴のど真ん中を、粗末な布をまとった人物が歩いている。粗末な杖。外套はボロボロ。汚くなってしまったのか、黄土色のそれをはためかせ深く被ったフードで顔は見えない。


「あれ……ちょっとマズくない?」


 ボロ布の人物を囲むように盗賊が現れる。手には曲剣や、槍。戦場の広いものであろうそれは、十分な殺傷能力がある。


「よし、フェイ。人助けしてこい」


「え?!  あたしっすか?!」


「いまいち君の強さ分かんないからさぁ、ここで有能なとこ見せちゃって」


「無理矢理連れてきたくせにェえぁあああああああああ!!!」


 エルニクスから振り落とされ、街道へ真っ逆さまに落ちるフェイ。ちょうどボロ布の人物の目の前に、四足歩行で華麗に着地。さすが猫系の獣人だぁ。


「し、死ぬかと思った」


「何だぁ、姉ちゃん。いきなり現れやがって、ソイツの連れかぁ?」


 曲剣をもった盗賊の一人が近づいてくる。


「あぁ、もう。お前ら盗賊だよな?」


「見て分かるだr」


「ならいい」


 その一言を合図に、周囲に複数の投げナイフが放たれる。確実に一本一本が急所をとらえ、


「よしっ」

 

 盗賊を壊滅させた。


「やるじゃん」


「すげー」


 エルニクスと上空からおり、頑張ったフェイをねぎらってやる。この前捕まえた魚の干物で。


「もー人使い荒すぎッスよ。あざまーす」


 これで彼女は機嫌をなおしてくれるから、安いもの。振り返り、ボロ布の人物を見る。


「ははは、こんなキレイな娘さんに囲まれるとは! 私も捨てたモノではありませんなぁ」


 低い男の声。

 彼がフードを取る。長いくすんだような金髪。目は閉じられた面長な人。


「私はイフィリスト・スティーニ。助けていただき、ありがとうございます」


 丁寧なお礼。

 この人物の育ちが良いことが窺える。そして、恐らく彼の目が見えない事も。どこに向かって頭下げてるんだ……


 いったいどうやって、ここまで来れたのだろう。近くに街も無いはずなのに……


「イフィリストはさぁ、なんでこんな所を一人で歩いていたの?」


 無邪気な様子でエルニクスが問いかける。


「私は『最果て』を目指していましてね」


「へェ、それまた何で?」


 フェイは無意識だろうが、いい感じに質問を繋げてくれた。


「この世界における唯一絶対的な信じられるものが欲しいのです」


 その一言で思い出した。

 ずっと不思議に思ってたこと。


 この世界、がいないんだ。



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