第23話 友達

「はぁぁ?」


 エルニクスと名乗った竜は、なんかやたら人間臭く。今、こうして私の話を聞いている。エメラルド色の鱗が、少し眩しい。


「はぁぁ……、そっかフィリアの連中。昔から過激な奴らだったけどそこまで」


 どうやら三百年は生きているというこの竜は、フィリア聖王国の事も知っているらしい。


「てか、君の後ろさ。質量のある背後霊みたいなのいるんだけど何なの?」


「へ?」


「エグい魔力の塊があるのよ。君、魔法使いか何かに呪われた?」


 思い当たるのは清王だが。呪われた実感が無い。


「何か実害無かったの? 身体に変化が出たとか」


「何も……あ」


 一つ思いあたる変化がある。


「死ねなくなっちゃった」


 そういって首の傷、植物に覆われた部分を見せる。


「うわ……そういうことね」


 なぜか、エルニクスの目が優しげに細められる。


「呪いなもんか、祝福だな。これは」


「そう、なの?」


「そいつを君にかけた奴は、絶対に君を死なせたくなかったんだろうね。てか、閉って閉って!! それキスマークを見せてるようなもんだよ!!」


 恥ずかしそうに目を背ける竜の様子に、なんだか私もずかしくなる。


「この祝福を君にかけた魔法使いはどうした? ずいぶんと腕の立つ者のようだけど」


「死んじゃった」


 質問に答えると、エルニクスが『やっちまったぁ……』と声を上げる。


「……その、ごめん。無神経だった」


 大きな体躯を縮こまらせ、申し訳なさそうにするドラゴンの姿がおかしくて。


「ふふっ」


 少し笑えた。


「いいよ、気にしてない。優しいのね」


「優しいもんか。人間一人の心を推し量ることもできないよ」


 ため息をついてる用だが、私の髪がなびくほどの風が巻き起こる。


「ああ、ごめん。この身体じゃ危ない。ちょっと待ってね」


 そう言うとエルニクスの身体が光って。


「これなら大丈夫だね」


 小さな女の子になっていた。

 この世界の平均的な市民の女児の服をまとい、メラルド色の鱗が少し頬に残ってる。同じ色の長い髪と蜥蜴のような縦に切れた瞳。可愛らしい小さな尻尾がスカートの端から飛び出していた。


「ありゃ、角残っちゃったか」


 髪の間から、先の丸い角がちょこんと両耳の上から出てしまっている。


「女の子だったんだね」


「分からなかったの?! ちゃんと人間のメスのしゃべり方してたのに!」


 フランクすぎて、正直ドラゴンのイメージも薄いとは言えないな。


「……あ」


 外を見ると、洞窟からも赤みがかる空が見えていた。


「帰らなきゃ」


「もう帰っちゃうの?」


「う……」


 うるうるとした目の美少女が私の腕を掴んでる。


「ごめんね。やらなきゃいけない事があるの」


「そっか……」


 むず痒い感覚が胸の内に広がるが、転生前も転生してからもこの感情の名前が分からない。


「ねぇねぇ、私たち友達になろう?」


「え?」


 余りにも唐突な提案に、脳がフリーズしてしまう。


「友達になろうよ。そしてまた私の洞窟に来て」


「え、でも……」


「あっ……ごめん。ドラゴンは嫌?」


「そんなことは……!」


「じゃあ、決まり」


 目の前のドラゴン娘は、満面の笑みで微笑む。


「私も、ずっと一人で寂しいかったからさ」


 あぁ、そうか。


「うん……うん、ともだちなる」


 私は、寂しかったのか。


 洞窟を出て、元フィリア聖王国の方角を向く。


「また来てね!」


 そう言って彼女は、飛び立つ私を見送ってくれる。


「うん……」


 転生して初めての友達。

 その約束すら守れない事に。


「ごめん。ごめんね……」


 心の底から、謝った。

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