第24話 騎士王と約束

 清王を討った私、ヴィオラ・バスガルはどうやら王となるらしい。いきなりの王位簒奪。他国の人間である私が行った一連の行いは、アリスト王国による破壊工作だったいうことにされているらしい。


 真相はといえば、ただの怨恨えんこん


 周辺国も敵に回し、アリスト王国側は関係を否定。バスガル家をお取り潰しにしたらしい。


「はぁ……」


 何をやっているのか。

 澄み切った青い空を見上げる。


 聖騎士たちを率いて戦った私は、ちまたでは騎士王と呼ばれているらしい。大した名前だ。


 騎士とは、誰かを守る為に力を振るう者。


 私怨の為に力を振るい、誰一人として守れなかった私を騎士と呼べようものか。


「では、ヴィオラ様。広場へ」


 聖騎士たちにうながされ、広場に出る。仰々ぎょうぎょうしい服とその装飾は、鎧を着るよりも重く感じた。


「……まぶしい」


 太陽が見える。

 王になろうかというのに、気分的には今から断頭台へ向かわせられるかのよう。


「いい目してるよ」


 私を見る、民衆の目。

 侮蔑ぶべつあざけり、期待、不安。


 やってきた事の責任を、今とらなきゃいけない。


 広場、戴冠が行われるその場にて。


「ちょっと待った」


 聞き覚えのある、可愛らしい声がした。


「え?」


「遊びにきたよ、ヴィオラ」


 竜の羽が背中から飛び出した竜娘。エルニクスが飛んでいる。聖騎士たちを含め、民衆も彼女の登場に固まってしまっている。


「なっ、なんで」


「ん? なんか友達が困ってそうだったから」


 度肝を抜かれた聖騎士たちも、侵入者への対応に切り替える。


「貴様、何者だ!?!」


「あ、ちょ」


 聖騎士たちは私をかばおうと、エルニクスとの間に割り込む。


「私は、エルニクス!! 西の谷の賢者にして飛竜!! エルニクスである!!」


 にっこりと屈託なく笑い、彼女は名乗る。


「エルニクス?!」


 民衆の間から、聞こえるどよめき。


「三十年前、清王様に討伐されたはずの飛竜がなんで……」


 そんなことあったのか。


「今日は私の友、ヴィオラに話があって参った!! 君たち人間に危害を加えるつもりはない!!」


 聖騎士たちい攻撃されてもおかしく無い状況。彼女はなぜ、危険を冒してまでここに来たのだろう。


「いいよ、彼女は私の友だ。下がってて大丈夫だよ」


 聖騎士たちに言い聞かせ下がらせる。

 私の立つ場所まで、降りてきたエルニクスは相変わらずのあどけない笑みをわたしに向けた。


「もう、王様ならそう言ってくれればいいのに」


「今からなるとこだったんだよ」


「それもそっか」


 そう言ってまた笑って、スッと彼女は真面目な顔になる。


「ねぇ、ヴィオラ」


「何?」


「それってホントにヴィオラがやりたいこと?」


「…………」


 答えられなかった。


「王様とかさ、騎士とかさ。それってホントにヴィオラがやりたいことなの?」


「……責任だから」


「責任とかさ、どうでもいいよ!!」


 ほんの少しだったけど、彼女が声を荒げたのにかなり動揺してしまう。


「ヴィオラ。この世界にはね、とっても広いの。まだ君の見た事無いものが沢山ある。知らない事も沢山ある」


 身振り手振りは大げさに、まるで舞台役者のように彼女は言う。


「それを見ずに、世界を諦めないで」


 エルニクスが手を差し出した。私の手は、震えていた。


「狭い世界にとらわれないで」


 真っ直ぐ私を見つめて。


「一緒に行こう。君となら、何だってできる」


 そう言って、満面の笑みを見せるのだ。


 エルニクスのエメラルド色の髪が、風になびく。


「……いいのかな。私、この国の王様殺しちゃったよ?」


「いいよ、そんなの。あいつ三十年前から性格悪かったし」


 うえっと下を出す彼女の表情、聖騎士たちが笑みをこぼしていた。


「いっぱい、人……殺しちゃったよ?」


「大丈夫!! 私も結構殺してるよ!!」


 生まれて初めての友達が、私の手を取る。


「行こう! キレイなもの、知らない事、いっぱい教えてあげるから!!」


 私の立つ地面から、小さな花が咲いている。

 腰の直剣ロングソードは、カタカタと嬉しそうに揺れていた。


 

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