第25話 わがまま飛竜と王無き戴冠式

 いよいよ戴冠式というときに、まさかの竜による乱入。戴冠式が行われている広場は、騒然としていた。


「ふざけな! そんな事が許されるか!!」


 女性住民からの声。

 そりゃそうだ。自分たちの国の王を殺した奴がのうのうと生き、あまつさえ責務すら果たさず逃げ出そうとしているのだから。


「そうだ!!」


「責務を果たせ!!」


「お前が殺したんだろ!!」


 重なるような声。

 『死ね』や『殺せ』と言わない辺り、私が王になる事自体は反対じゃ無いらしい。


「うっ、ううっ」


「ちょ、エルニクス?」


 エルニクスの目に大粒の涙が溜まってゆく。


「嫌だぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」


「「「うわあぁ!!」」」


 周囲の者が思わず耳を塞いでしまうようなほどの大きな声。


「やだやだやだやだ!! ヴィオラと冒険するんだぁぁぁぁあ!!!」


 地面に寝っ転がり、ジタバタと手足や尻尾を暴れさせる。まるで子供のような駄々。


「絶対ヴィオラと一緒に行くんだぁぁあぁああ!!」


「ちょっと、何この子……」


「やだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ドン引きする程の駄々っ子ムーブを見せ、民衆を黙らせるエルニクス。


「やだやだやだやだぁぁぁああ!!」


「分かった。分かったから!」


 何とかなだめようとするが、ぎゃん泣き状態の女の子への対応の仕方なんて知らない。


「行くから、大丈夫。エルニクス、私も行くから」


「本当に?」


 私を見つめる少女が、三百年以上生きた飛竜だなんて誰が思うだろう。


「うん、行く」


「やったぁ!」


 無邪気な子供の様に喜ぶと、彼女の身体が光り出す。


「わぁぁ!!」


 竜の姿を表すエルニクスに、民衆達の悲鳴が重なる。


「行こう! ヴィオラ!!」


 後ろめたさから振り向くと、そこにいた聖騎士たちがひざまずいている。


「「「どうか、良き旅を」」」


「ありがとう」


 そう笑いかけてくれる少年達に、心からの感謝を述べて。


 私も目を閉じ、念じる。

 背中に広がる花の翼。空に舞い上がる身体は、どこか軽い気がした。


「ねぇ、なんであんなことしたの?」


 隣を飛ぶエルニクスに話しかける。


「人間は要求を通す時、あんなふうにするものだろう?」


「普通はしないよ」


「え? 私が人間の街を観察してた時、小さな人間がやってたぞ」


「それ子供だよぉ……」


 なんか、エルニクスの人間似姿が子供なのも合点がいった気がする。


「えぇ……どうしよ。私、人間で言うなら三十歳くらいなんだけど」


「三十路女性のギャン泣きかぁ……」


 まぁ可愛いから、いいか。


「エルニクス、西の谷の賢者とか言われてんだね」


「ん? あれ自称してるだけだよ」


「えぇ……」


 良く笑う飛竜と女騎士の旅が始まった。



 




 


 


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