第三章 放浪編

第26話 ある街のスラムと義賊の獣人

 空を駆けるドラゴンとの旅。

 国を出て、二日目ほどたった山中にて。


「なぁ、ヴィオラ。話半分で聞いてほしいんだけどさ」


「なぁに?」


 川でエルニクスが羽ばたいて取った魚を焼いてる。

 まぁ、身体がデカいだけあってエルニクスはよく食べる。


「この世界のどこかに、『最果て』と呼ばれる場所があるんだ。そこではどんな奇跡でも起こせるらしい」


「それって……」


「君の後ろ。クソデカい魔力の塊が居るのは分かるよな?」


「クソでかいんだ……知らなかった」


 ジグムントは死してなお存在感が消えないようだ。


「そいつ、ずいぶん力のある魔法使いだったみたいだし。たぶん生き返らせられるんじゃ」


「ほんと?!」


 人間形態で魚をむさぼるエルニクスに詰め寄る。


「か、確実なことは分からないけどさ。ずっと昔に、そう言う場所があるって聞いて」


「あまり期待はしないほうがいいって事か」


 でも少しだけ、期待が持てた。


「なんか足下から花咲いてるけど……」


 この花……もしかしてジグからのコミュニケーションだったり。


「まぁとりあえず旅の目的はできた。『最果て』目指そう」


 どんな場所だろうか。

 どんな道行きを辿るのだろうか。


 少し、ワクワクする。


「次の街で情報集めてみようよ」


 エルニクスに尻尾と鱗を隠すように言っとかないとな。


 携帯食と路銀集めに行こうとしていた街。アリスト王国とフィリア聖王国以外に行く初めての都市。


「どんな場所だろう」







 古い城壁に沿って作られた街、ドミニク。

 城は放棄されて久しく、街の行政府は機能せず治安は最悪レベルなのだとか。


 街はいくつかの犯罪者ギルドにより統括され、おもての世界では得られない情報が集まっているらしい。


「にしても……うん」


「ひっどいね」


 エルニクスと街に入った瞬間。


 街に入って、目の前で四件の殺人。昼間だというのに娼婦がうろつき、怪しげな薬で半狂乱になった裸の男が逆立ちで走ってた。


「お前ら、余所モンだな?」


 話しかけてきたのは、猫の獣人。人間要素がかなり濃い。ハーフなのだろうか、猫の要素が細い髭と耳しかない。服装はずいぶんと扇情的な女性のモノ。


「あぁ、フィリア聖王国から来た」


「は? あの差別国家の金持ちか?」


 敵対的だな、この子娘。


 猫の子娘が、腰に隠していたナイフを抜く。構えは低く、実戦経験の豊富さが窺える。


「悪い金持ちから、稼ぐのがアタシの仕事だ! 有り金置いてけ、クソ共!!」


「ちょっと分からせるか、ヴィオラ。こいつ焼いていい?」


「大丈夫。私がやる」


 そう言って、腰の直剣ロングソードを引き抜いた。







 

  

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