第18話 義足剣

「降りてこいよ、自称『清王』さまよォ」


 空中にいる複数の魔術師たちも杖をかまえているが、先程のアレハンドロの攻撃を食らった人達もいるようだ。動きが鈍い。


「どうして私が男共と同じ地面に立たないといけないの?」


 心底理解できないといった不思議そうな表情。見た目は美しいのに、その内面たるやおぞましい事この上ない。


「駄犬が、裏切ったか!」


 魔術師の一人が叫び、魔術を発動。私に注意は向いていない、さっきの感覚を思い出しながら草花のイメージを思い浮かべる。


「種よ、芽吹めぶけ」


 アレハンドロを駄犬呼ばわりしたおばさんを指さし、となえる。


「ゴフっ……え?」


 その魔術師は、腹からいきなり生えた子葉に瞠目どうもくしている。


「ジグムントの魔術……」


 清王の冷たい表情が一瞬、崩れる。


「貴様っ!」


「対策よ! 対魔力防護を張って!!」


 たぶん、もう魔術師達に直接花を咲かせる事は出来ないだろう。他の魔術師たちが魔術を発動、数人が杖に魔力をまとって突撃してくる。


「アレハンドロは休んでて、聖騎士たちも手出し無用」


 右手の剣を握り直し、構える。

 アレハンドロが、出撃前にくれた兄の義足から作られた剣。やけに手になじむ。


「貫け!!」


「引き裂け!!」


「刈り取れ!!」


 三人の魔術師が、一列に突っ込んで来る。良い連携だが……


「咲いて」


 静かに言うと私の足下に、一輪。突撃してきた魔術師と私の間に割り込むように花が咲く。


「きゃっ!」


「……」


 何の感慨も無く、花びらの隙間から剣を突き出す。


「ぐえっ」


 確かな手応え。首の真ん中、気管を切り裂きながら剣を抜く。


「死ねよ!!」


 続いて二人目。怒声張りあげながら迫る彼女は何か魔術を放ってきたが、かわせない速度じゃ無い。左肩からバッサリと袈裟斬りに。


「うわあああ!」


 ヤケクソ気味に向かって来る三人目。魔術のなのか、杖に鎌のような幻影をまとっている。


「……確か、こうだっけ」


 剣を逆手に持ち、剣を投擲とうてき

 『武器は投げてこそ本領を発揮する』と兄さんは言ってたっけ。


「がッ……」


 脳天に直撃、中身をまき散らして死んだ。

 直感で分かる、今は私が投げた剣に命じる。


「戻ってきて、兄さん」


 そう言うと、音も立てずに私に右手に剣が戻って来る。兄さんの髪のように返り血で真っ赤な刀身。投げるとき、確かに感じた当るという直感。


 黒い狼がくれた剣。兄の義足から作られたというこの剣、確かに彼の遺志いしが宿ってるのを感じる。


「アレハンドロ」


「はいよ、ヴィオラ殿」


 魔力を使い過ぎたのか、息の荒いアレハンドロ。周囲を見れば、聖騎士たちが買う当選に持ち込み、魔術師達を無力化していた。


「ありがとうね」


 掲げた剣を彼に見せる。


「お兄さんの力ですよ」


 苦笑する狼。


「忘れないで欲しいな」


 プラチナ色の悪魔清王が、急に目の前に現れる。


「……」


 無言で斬りかかる。アレハンドロの魔術の援護も行われるが……


「弾かれた?!」


 アレハンドロの魔術が効いてない。私の剣戟も見えない何かにはじかれた。


「作法がなってないのね。『ひび割れろ』。あら……?」


 彼女は首をかしげてる。


「爆発しない……解除したのね。ジグムント、あなたがこんな女に入れ込むなんて」


「ごちゃごちゃ、うるせえ! この壁、どけて戦え!!」


「お猿さんでも壁の存在は分かるのね」


 クスクスと神経を逆なでするような笑い声。


「口の聞き方を教えてあげる。『爆ぜろ』」


 清王が手を私にかかげ、詠唱。剣を構え、受け身を取れるようにする。

 

「マズい!!」


 アレハンドロが飛び出し、私と清王の間に入る。


「……え?」


 音も衝撃も、何も無かった。

 パシャンと水風船がはじけるような音がして、アレハンドロが赤い水溜まりになった。


 黒い毛が、中に舞う。


「汚いわ」


 ダルそうにいう清王。

 もう、目の前が真っ白になった。



 



 

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