第19話 捨て止める為の命だとしても

 生産年度、八十二期。被検体番号、十二番。レンリ。


 制圧先の村で発見。その後、奴隷として魔法省の管理施設で育った、十四歳の少年である。少年は自我が希薄な魔術兵器として育てられた。


 調整され、習得したのは時の魔術。

 自ら死ぬことで、時を止めることができるというもの。


 その効果は絶大で大群、個人は関係無く。ただ一時、魔術をなした発動者の命がこの世から跡形も無く消えるまで世界の時は止まる。


 彼、レンリの兄たち五人を犠牲に開発された大魔法。


「……あ」


 アレハンドロ、副団長が清王の魔術を受けてはじけた。彼の命が霧散していくのを感じる。


「あああああ!!」


 我を失ったヴィオラさんが、清王に斬りかかる。


「ふふっ、叫ばないでお猿さん。『破裂しろ』」


 聖騎士全員が、『終わった』と思った。かばおうにも間に合わない。


「ああ? 何かしたか、クソババア!!」


「何この子、魔術が効かない?」


 初めて清王の顔から余裕が消える。なぜか分からないが、ヴィオラさんには魔術が効かない。


「でも……このままじゃ!」


 何もできてない自分。年上の聖騎士たちに守って貰ってばかり。ヴィオラさんは一歩も退かず、清王を攻撃してるが強力な魔術障壁が張られ、あれでは清王本体への攻撃は難しい。突


「吹き飛べぇ!!」


 剣を大きく振り被ると、刀身に風のような者が巻き起こる。


「へぇ、『ガンジャの嵐』ね」


 騎士ガンジャの義足から繰り出されていた嵐の力。彼の義足から作られた剣がゆえに使える力。振り下ろされると同時に、轟音を伴う衝撃はが発生。


「あら」


 清王の魔力障壁に、亀裂きれつが入る。 


「ヴィオラ殿にばかりに任せるな! 我々も続くぞ!!」


 聖騎士の一人がそう言って突撃していく。魔法では清王に勝てない。だから近接戦に持込もうという魂胆こんたん


「うるさいわね……『破裂しろ』」


「へばっっ!」


 聖騎士の一人が内臓が風船のように内側から膨らみ、皮膚を突き破って破裂する。 


「来なくていい!! 逃げろ!!」


「「嫌です!!」」


 ヴィオラさんの叫びに、聖騎士たちは返す。僕はただ見てるだけ……


「あなたは、我々に誇りを取り戻してくれた!」


「我々を人として、騎士として扱ってくれた!!」


「そんな人を守れずして、何が騎士か!!」


 そう言って突撃する騎士たちは、肉塊になるか。割れるか。背負うの障壁も破れず、ある者は近づけもせずに死んでいく。


「やめろォォ!!」


 ヴィオラさんが泣いていた。

 それを見て思い出す、ずっと前の記憶。


 奴隷になる前、この国から略奪された村で暮らしていた。村の女の子と喧嘩してしまったとき、兄さん言われたんだ。


『女の子を泣かせちゃダメだ』


 あぁ、そうだった。

 もう、迷いは無い。


 腰の短剣を引き抜き、自分の喉を突く。


「げぶっ」


 血の味が、口の中に広がっていく。

 おぼれながら、詠唱。自分の血に溺れながらでも詠唱できる訓練なら、魔法省の連中に散々やらされた。


「この……命はせきとなる。こより、塞ぎ止めるは……刻限こくげんの流れ」


 時間が、遅くなっていくのを感じる。


「命を捧げ、この身はかなめとなし、茫漠ぼうばくたる時の流れを止めよう」


 苦しい。苦しいよ。


「止まれ!!」


 時が、止まる。

 瞬間、レンリ以外の全てが動きを止める。


「ハァ、ハァ……」


 そのまま、清王に近づく。


「ぐッ……! あああ」


 首の短剣はそのままに、杖を清王の魔力障壁、先程ヴィオラさんが日々を入れたところに押し当てる。


「壊れろ!!」


 詠唱では無い。基礎的な魔力の衝撃波を連射。連射。


「うっ」


 マズい。もう意識が消えかけている。まだ死ねない。


「あああああ!」


 魔力障壁が壊れる。


「っ……うぅ」


 首に刺さったままの短剣を引き抜き、清王の横っ腹に刺す。


「へへっ……やったぁ」


 喉から流れるが止まらない。

 足の力が抜け、地面に倒れる。


 泣きながら、剣を振るヴィオラさんが目に入る。


「泣か……ないで」


 もう、何も見えなくなった。

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