第20話 女騎士はもう死ねない

「は?」


 清王が間抜けな声を上げた。

 何故か、彼女の腹には一本の短剣が刺さっている。


「……」


 レンリの死体が近くにあった。


「クソガキがぁ!」


 レンリの死体を足蹴にしようとした清王の足を|直剣《ロングソード)で突き、貫く。


「やめろ」


「うるせぇ、ブス!!」


 いつもの上品さは何処へやら。脂汗を浮かべながら腹の短剣を引き抜き、私の首に突き立てた。


「っぐ!」


 鎧の隙間に一撃。予想外の攻撃に対応が遅れた。

 まずいな。


「はっははははは! ざまぁ、見ろ!」


 醜く顔を歪ませる元美女。

 無言で距離をつめ、彼女の杖を持つ手を切り飛ばした。


「ぁあぁあああ!!」


「……お前に手向ける花は無い」


 彼女の心臓に剣を突き立てる。

 

「これは死んでいった聖騎士たちへの手向けだ。『咲き誇れ』」


 色とりどりの花が清王へ咲いてゆく。


「あはははははは! 呪われた忌み子がよォ!!」


 何事か、ゲラゲラと笑う清王。


「予言してやるよ。てめぇはこの先、絶対に幸せになれねぇ!」


「…………」


「せいぜい足掻けや、虫けらみたいに」


 反吐が出そうな言葉を残し、清王は花に埋もれて死んでいった。


「かはっ」


 口に溜まっていた血を吐き出す。

 首に刺された短剣。かなり深く刺さってる。


「抜いたら死ぬな」


 まぁ、もう生きる意味も無いし。

 そう思って、何の感慨も無く抜いた。


「…………え?」


 血が、吹き出さない。

 不思議に思い、傷口に触れる。


「なんでよ」


 植物が傷口をおおい、瞬く間に再生していく。小さな花が咲いていた。


「もう……死ねないじゃん」


 『生きて』と彼は言った。


「ひどいよ…………ジグ」


 祝福のような暖かな呪いが、私の中で確かに生きている。


「やった、清王を打ち倒したぞ!!」


 聖騎士の一人の声を皮切りに、生き残りたちによるときの声が上がる。


 まるで他人事のような感覚。声は遠くで聞こえているような気がした。


「……」


 無言で、レンリの死体に歩み寄る。

 起こしてやると、その首に私を刺した短剣と同じ傷痕がある。


「……はっ」


 苦悶に顔をゆがめることも無い安らかな顔。憎しみなんて無いみたいに。


 もっと恨んでいいんだよ。もっと叫んで良かったんだよ。君はその資格があったのに。


「ごめん。ごめんね」


 抱き寄せて、泣く。

 誰も、彼が清王に決定打を与えた事を知らない。


 この子の魔術だったのだろう。


「ありがとう、騎士さま」


 だからせめて、私だけは彼の功績をたたえよう。


 命をして、誰かの戦った。

 誰にも知られず、道ばたにうち捨てられるのはあまりにも悲しい。


「花よ、『咲いて』」


 彼の周りに、花を咲かせる。せめて、安らかに。


「じゃあね」


 その言葉を最後に、もう泣かないと決めた。

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