第21話 清王、失墜。

 ここから先、私はあまり覚えていない。

 魂が抜けたかのごとく、一日中街をうろついていた。


 フィリア聖王国はというと。

 清王が死に、奴隷たちが開放されたらしい。


 帰る場所があるものは、帰った。ないものは国に止まった。男女間の敵視、というか既存女性住民の差別感情が残りって消えない。


 街を回って分かったことがある。清王はこの国の中では名君であったこと。彼女は私にとって屑だったが、この国の国民も同様だったこと。特に権力のある連中にはロクなのが居なかった。


「お前らは、ダメだ」


 そう言って、魔法省の連中は皆殺しにした。女の魔術師ばかり、非力をよそおい、私を暗殺しようとしてたのが見え見えだった。


聖王国は変わった……はず。


「ヴィオラ様。この国は今、混乱状態にあります」


 生き残った聖騎士たちが私に話しかけてくる。私はといえば、干し肉を噛みながら聞き流してる。場所は王城跡、瓦礫の山。


「そうだね」


「秩序が必要です。絶対的な力をもって、この国を治める秩序が」


 遠くの空に、大きな鳥のようなものが飛んでいる。


「ヴィオラ様、王になってください」


「嫌だ」


「どうして。あなた様しか適役はおられません。どうか!」


「ねぇ、私が王になったとこでこの国は変わる?」


「はい、変わります」


 街を見渡す。

 女性住民の憎しみの眼差し。男性住民の畏怖の視線。


「……どうだか」


 まぁでも、この国の君主を殺してしまった責任は果たさなきゃいけない。


「いいよ、王になる。でもその前に少し準備してくるから」


「分かりました。戴冠式たいかんしきの日程は、明日にはお伝えします」


 時間が無いな。


「飛べるかな?」


 愛した人は答えてくれない。

 でも、花たちが答えてくれた。


 背中に生える草木の翼。念じれば、どこへでも連れて行ってくれることが分かる。


「あの鳥はどこにいったのかな?」


 ジャンプする要領で飛び立つ。


 砂埃をまき散らし、空を舞う。

 青く澄み切った空。眼下を見渡せば、汚らしい町並みが見える。


「……行こう」


 あの鳥が見えた山へ向かう。

 草木の羽は、まるで私をいたわるように優しく飛んでくれる。


「ここかな?」


 鳥の影が消えた山を越えた先。

 深い谷がある。霧で見えにくいが、大きな洞窟だろうか。


「……」


 進む。まるで引きつけられるかのように。


「へぇ」


 キレイな洞窟だった。

 磨き上げられたかのような岩。わずかに生えたこけが、神秘的な光りを発している。


 踏まないように、汚してしまわないようにゆっくり進む。


「こんにちわ」


 その奥、私が声をかけた先。


「…………」


 ドラゴンがいた。


 

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