第17話 鈍鉄は何よりも眩しく。

「我が名はヴィオラ・バスガル!! 兄、ガンジャに代わり君たちに『騎士』が何たるか示そう!! ついてこい!!」


 泣いてる暇はない。

 これでも私はなのだ。


 強く、優しく、罪なき民を守る者。

 『騎士』はかくあるべしと、兄さんの言葉を思い出す。


 剣を掲げ、歩き出す。

 自称『清王』の玉座へと向かう。


「アレハンドロ!」


「何ですかい?!」


 私の怒声に合わせ、彼も声を張り上げる。


「今の清王の位置は?」


「探知頼む、ケイン!!」


「了解…………演説会場から帰宅、王城の玄関。あの空中庭園です」


 近くにいた半森人ハーフ・エルフと思われる聖騎士が魔術を発動。すぐに状況をアレハンドロと私へ報告。


「よし、王城に突貫。制圧した後、清王を拘束する! 場内の人間は戦う力の無い者は傷つけるなよ!」


 虐殺や略奪はしない。

 そんなものは聖騎士に必要無い。


「ははっ、それは無理ですよ。ヴィオラ殿、清王様はこの国一番の魔法使い。側近の、その中でも実力のある魔術師たちしか、あの王城にはいないのです」


「じゃあ、皆殺しだ!!」


「「「了解!!」」」


 戦えるなら仕方無い。

 分かりあえない、だから殺すしかない。


 統率の取れた騎士たちの声が轟く。


「……ねぇ、あくまで提案なんだけど」


「どうしました?」


「あの王城、?」


 その言葉を聞いたアレハンドロが、私の目から見ても分かるほどの笑みを浮かべる。


「えぇ、仰せのままにできますよ」


 私と騎士たちが居る場所は、まだ王城から少し距離がある。


「まず、あの清王の権威の象徴を壊そう。頼める?」


「やっと出番でさぁ」


 そうアレハンドロは言うと、レンリ君が彼から離れるように私へうながす。


「どうして?」


「副団長の魔術は危ないですから」


 その説明の意味はすぐに分かった。


「これは……」


 アレハンドロの周りに、無数の剣が浮かんでいる。画一的な形は無く、刀身や握り手も様々な鉄の塊たち。


「我が命は剣となる。こより突き立てるは鈍鉄どんてつの牙」


 皮肉的な詠唱。

 まるで自らの魔術をおとしめるような。


「命はに、この身はながねとなし、汚らわしい剣戟けんげきを響かせよう」


 なのに、魔術をつむぐ黒い狼の表情は。聖騎士たちの誰も見た事が無いほどに晴れやかだった。


「突き立てろ!!」


 太く、低い、狼の遠吠えが街に響く。


 同時、無数の剣は一つに。

 巨人が振るうかのごとき剣が、一直線に王城へ向かう。


 剣が激突した部分が崩れ落ちている。


「意外ともろいな、王城」


 私の疑問に、レンリ君が答えてくれる。


「あの城、物理的な攻撃にも魔法的攻撃にも備えがあるのですが、その……副団長のは物理と魔法の二重属性でして」


「あぁ、対応できる範囲を超えた攻撃して無理矢理壊してる感じ?」


「そうです」


 魔術を使うにしては、頭まで筋肉で出来てそうな戦い方するな……


「はははははははは!!! まだあるぜ!!!」


 地面にアレハンドロが手をつくと、呼応するかの如く地面が削れ、新たな剣が生成されてゆく。


「ヴィオラ殿も手伝ってくださいよお!」


 無数の巨大剣を王城へ突き立てながら愚痴る。


「私、魔術使えないけど」


「団長から貰ったでしょう?」


 思い当たるのは、ジグが最後に渡してくれた琥珀のような何か。


「……どうすればいい?」


「花が咲く想定イメージから……」


 その先は、何となく分かった。


「咲き誇れ」


 少しの虚脱感と共に、王城へ向かい色とりどりの花をともない木が生え、ツルが生え、集まり城を貫いた。


 轟音。

 無数の瓦礫がれきを伴い、空に浮いた城が落ちる。


「あははは! これ中の奴ら死んだんじゃないですか?」


 嬉しそうに言う、アレハンドロ。


「いや、まだだよ」


 落ちる瓦礫に隠れているが、数人の人影が見える。


「やってくれたわね。狂犬」


 プラチナ色の髪。美貌。美声。今はその全てが憎らしい。


「待ってたぞ、売女ばいた


 清王、ハイネ・フィリアの姿だった。

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