第二章 叛逆編

第16話 叛逆、聖騎士たちへ

「早い方が良い。アレハンドロ、みんなを集めてくれるか?」


 アレハンドロに呼びかけ、制騎士たちを集合させる。場所は、ジグムント・フィリアの家。


「集めるって、何をするんですか?」


「………ジグの手紙のこと、話すよ」


 ジグムントは制騎士たちと私に手紙を残した。まるで嗚咽おえつしてるかのような内容。彼の願いを叶えなければいけない。


 演説をかます清王の広場を離れ、目的地へ向かう。


「制騎士は何人いるの?」


 かたわらにいるアレハンドロに訪ねる。獣人だから分かりにくいが、おそらく暗い顔のまま彼は答える。


「今、あなたが連れている二十一人が全てです」


「え?」


 初めて会った時、たしかもっと居たはず……


「各方面の戦争にかり出されて、戦死したり魔術爆弾として投下されたりで減ってしまいましたね」


 淡々と当たり前の事のように語られる。


「……そっか」


 そっけなく返事できるくらいには、私の心は麻痺してきているのだろう。ジグの家に着いた。家主はもう居ない空っぽの家。


 部屋に入ると、昨日の昼食で使った食器がまだ洗われずに放置されている。まだ、ジグの匂いが残ってる。


「…………でも立ち止まっていられない」


 溢れそうになる涙は、殺意で隠して。

 もうしばらく着けていなかった自分の鎧は、ずいぶんと重かった。


 部屋のすみに、ジグが初めて会った時に着けていた真っ白なサーコート。それと同じ色の外套がいとうがあった。おもむろに手に取り、羽織る。


「行こうか」


「……ヴィオラ殿、これを」


 制騎士たちの前に立とうとする私に、アレハンドロが直剣ロングソードを手渡す。


「これは?」


「お兄様の……義足が残って居たので回収をしてきました。そのままでは、アレなので俺の魔術で『剣』にしました。どうか……お役立てを」


「……ありがとう」


 暖かい家から出る。外はどうにも冷え、集合した制騎士たちも何処か寒そうだった。


「みんな……いや、制騎士たち。あなたたちの団長が死んだ」


 コレは演説じゃない。


「彼に頼まれたんだ。君たちを逃がしてほしいって」


 独白に近い。


「君が引き連れて逃げて欲しいって」


 彼ら、制騎士へ向き直る。


「ごめん。君たちは、逃げて」


 制騎士たちは身じろぎもせず、聞いている。


「私は、清王を殺したい。ジグの、君たちの団長の尊厳を、誇りを踏みにじった清王を殺したい……だから、残るよ」


 清王の周囲は魔術師たちもいる。途中で殺されるのがオチだとは思うけど、ここで黙って逃げられるほど理性的じゃない。


「ジグとの約束なの、君たちは逃げて。アリスト王国の南部に、バスガルの屋敷がある。この紋章を見せれば、話を聞いてくれるはず」


 鎧の首辺りについていた紋章を、下の板金ごと千切りアレハンドロに渡す。


「じゃあね、私は行く」


「待ってくださいよ」


 うなるような低い声。

 アレハンドロが私を呼び止める。


「俺たちも団長から手紙を受け取ってる。詳細ははぶくが、ようはあんたに付き従えって書いてたんだ」


 彼は並び立つ制騎士たちに呼びかける。


「俺たちは団長のおかげで生かされてた。王族の血を使いたくもねェはずなのに、俺たちの為にかなりの無茶をした」


 私の知らなかった、ジグの一面。


「そんな団長の最後の命令だ、無視できるワケがねぇ」


 制騎士たちが、私の目にひざまずく。


「ヴィオラ・バスガル殿。我々、イデア制騎士団はあなたに付き従います」


 制騎士を代表して、黒い狼がのたまう。彼が何かを渡してくる。持ち手の赤い、それ以外はごく普通の剣。


「我々も騎士です。どうかご一緒に戦わせてください」


 制騎士たちの視線が、私へ集まる。


「「「団長、ご命令を」」」


 彼らの目あるのは、殺意じゃない。

 ただ理想を追いかけ、使い潰された仲間への弔いだ。


「そっか……」


 せめて、彼らの誇りはけがされないように。


「ありがとう」


 力強い言葉で、彼らを祝福しよう。


「誇り高い騎士たちよ。今から私は君たちの君主を討つ。忠義、義理立てのある者は去って構わない」


 愚問。

 制騎士たちは一人として去らない。


「今から行うのは、君たちの団長への弔いだ。誇りを穢し、命を弄んだ清王を撃つ」


 アレハンドロが渡してきた剣を抜き、掲げる。 


「あの王の何が清いものか! この国の何が聖なるか!!」


 純朴な少年のような制騎士たち。

 ジグが守り抜こうとした彼らを、私も守り抜こう。


 まず、消費される命を当たり前と受け入れてしまっている彼らの心を救いたい。


「君たちの団長の魔術を見た。この世にあるどんな魔法より綺麗で尊い物だった」


 あの花を、奇跡と呼ばずして何と呼ぼう。花を殺しに使わせられた、ジグはどんなに苦しかっただろう。


「団長から……ジグから、君たちの話を聞いた」


 ジグムントは笑いながら、彼らを語っていた。彼ら制騎士はジグムントの誇りなのだ。


「君たちこそ、尊い。君たちこそがなのだ!!」


 異世界に来ようが変わらない、世界はいつも汚らしい。だからせめて、


「制騎士で無い、騎士たちへ。誇れ、君たちこそが美しい」


 掃除をしよう。

 醜いもの、汚いもの、その全てをにしよう。


「行こう。この国をキレイにしよう」


 その日、フィリア聖王国にて。

 制騎士たちが叛逆はんぎゃくした。


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