第15話 この国の真実

 ジグからの遺書を受け取って、制騎士のみんなも信じられなかったようで。 


「騎士団には待機命令が出てるが、このままじゃ団長もガンジャ殿も危ない。止めに行きましょう」


 副団長、アレハンドロの言葉を皮切りに制騎士団は集合。私も同行させてもらい、転位によってジグの場所へ着いた。


「は?」


 視界いっぱいの、花畑だった。


 色とりどりの花。

 よく見ると根元には、ミイラのようになった人の死体。


 胸やけすっるような、甘い匂いが辺りに立ちこめている。一際ひときわ甘い香りのする先に、一本の木があった。


 大槍に寄り掛かるように、兄さんみたいな死体があった。髪色みたいに真っ赤な花が咲いている。


「兄さん……」


 信じられなくて、呼びかけながら近寄ると死体と思われた花の塊が僅かに動く。


「……ぁあ。ヴィオラ、か?」


「兄さん!!!」


 駆け寄ろうとする私を止めて、彼はあの妙な木を指さす。


「さい、ご…………聞いて、やんな」


 そう言うと、ゆっくり目を閉じた。


「……噓でしょ?」


 視界が歪んでいくような錯覚。


「嫌だ、嫌だよ……」


 何と無く、分かっていたのかもしれない。


「ねぇ、返事をして」


 でも脳が理解をこばんだ。


「ジグ」


 木のうろ模様もようの ようなそれは、人の顔。うつろな目をしたジグだった。


 もう、表面が完全に木になってしまっている腕がゆっくりと私への伸びる。


「え?」


 その手は、私の首の下げられた首飾りを握りつぶした。


「ぁ・Aぁ、ど0か」


 もう、人の言葉を離れつつある何かが混じってしまったジグの声。


「あIす、ろ……人よ、す5、やかで」


「嫌だ! 逝かないで、ジグ!」


 手を握る。

 もう、手か枝かすら分からない。


「あ……」


 思考が流れ込んでくる。

 たぶん、彼が最後に思ったこと。


「生きて」


 なぜかその言葉だけはハッキリ聞こえて。

 

「……やめて」


 琥珀こはくのようなものが手渡され、てのひらに吸い込まれて消えていった。それを見て満足そうなため息とともに、かつて彼の腕だった枝は折れてしまった。


「ねぇ……起きて。起きてよ、ジグ」


「ヴィオラ殿、もう団長は」


 アレハンドロが木にすがる私を引き剥がそうとする。


「やめて! ジグ、目を開けて!」


 悲痛な叫びに呼応するように、花畑に風が吹く。


「兄さん、助けて!! ジグが、ジグが!!」


 どんな戦争でもが、兄さんは笑って帰ってくるような人だった。大丈夫、今度だって兄さんならなんとかしてくれ……


「あ……」


 兄さんがいた場所には、きれいな赤い花が咲いていた。軍旗はためく、大槍に寄り添うようにして。


「ああああああああああああ!!」


 もう、それからの事は覚えてない。

 ただ、おぼろげにアレハンドロが話してくれたことは覚えてる。。


 フィリア聖王国。

 彼の、ジグムントを殺した。この国の真実。


 国の英雄なのに、さげすまれる制騎士団。なぜか?



 それは、彼らがだったから。



 フィリア聖王国。

 女性を絶対の価値した、女性至上主義国家。


 様々な種族が暮らす国にも関わらず、種族間のいさかいは無かった。意図的な差別階級として、男性がいることでこの国の安寧は保たれている。


 どうりで、この国に来た時。

 女性しか、では見なかった。


 この国において、男は生まれた瞬間から奴隷である。まともな食料は与えられず使い捨てられ、新しい奴隷は他国を侵略したときに補充しているらしい。


 唯一ゆいつ、顔の良い物だけが娼夫しょうふとして売られる。次世代の子供を産むためだけの装置としての販売だそうだ。


 魔法省と呼ばれる組織。

 そこでは男性の子供を使った人体実験が日夜行われている。


 制騎士とは、制圧騎士のことであり他国への侵略の為に実験によって生み出された魔術兵器の事であるとのことだった。


 呆然とした私を、制騎士たちは連れて帰る。国では、清王による演説が行われていた。


「敵国の憎き悪兵、ガンジャ・バスガルを討ち取りました!」


 そこに、ジグへとむらいの言葉は無い。ただひたすらに、自らの功績のように、だまし討った敵をこき下ろす女の姿があった。


「……殺す」


 つぶきは、私の中で明確な殺意となる。


「ジグ、『世界は美しい』とあなたは言った」


 木のようになってしまった彼の触れたとき、流れ込んできた記憶。続いて聞こえてしまった、自分を醜いと罵った貴方の言葉。


「私はそうは思わない」


 世界は、こんなにも醜い。

 そんな世界で、あなたは綺麗であろうとしたのに。


「だから」


 もういない、私を愛した人へ誓おう。


「全部、壊すね」


 確かに愛された。

 愛してくれた人は奪われた。


 全部壊したその先で。

 彼が見せたがっていた、本物の花畑ができますように。

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