第6話  騎士団長宅にて

「ここの部屋を使ってください」


 そう言ってジグが貸してくれた、転生前の基準でいうとこの六畳半くらいの部屋。部屋自体は簡素なモノだが化粧台や、ベットなどがやけに真新しい気がする。


 前に女性がいた?

 いや……


「ジグ、もしかして化粧台とか私の為に用意してくれたの?」


「はい、もちろん!!」


 満面の笑みで、答えるジグ。

 重いと茶化す気にもなれない。


「その……私、化粧とかしないんだけど」


「え、化粧無しで! それだけお美しいの?!」


「ぐぅ」


 知らない男が言えば、質の悪い世辞に聞こえただろう。でもジグの言い方やその目が、噓をつく人物だと思わせてくれなかった。


 もしコレが彼の使う魔術というなら、こんな喪女もじょ相手に対したものだ。


「お腹は空いてますか?」


「いや、奪い取って来た糧秣りょうまつ食べたから問題無い」


 胴鎧の隙間すきま、首の辺りから手を突っ込み胸の谷間に隠した野戦食の残りを確認する。


「…………」


「どうしたの?」


 赤面し、固まっているジグ。


「いや、その……」


「ん? あ、もしかして……こういうの耐性無い?」


 ちょっとしたイタズラ心で、鎧の留め金を外してみる。


「だ、だめえすよ!?!」


「まだ何もしてないよ……」


 こっちが恥ずかしくなるくらい、耳まで真っ赤にしたジグ。余裕の無さが口調にも表れるとは。


「ごめん、からかい過ぎた?」


「いや、こんな年にもなって女性に耐性が無くて申し訳ない……」


「こんな年って幾つよ?」


 見たところ私より少し上か?


「十九です」


「ガキが……」


「ヒッ!」


「あぁ、ゴメン。あふれ出る若さに嫉妬しちゃった」


「そう言って、そんなに変わらないでしょう?」


 最近、肌つやが気になってきたお姉さんにそれを言うのは酷だろう……


「……創造に任せる」


「二十二ですね?」


「何で分かるんだよ?!」


 当てられたく無かったよ、微妙な時期だからさぁ!


「魔術です」


「魔術、すごいな!!」


 プライベートとか無いじゃん……


「噓です。勘です」


「この野郎!!!」


「さっきのお返しです」


 そう言って、イタズラっぽく彼は笑うのだ。


「顔が良いのはずるいなぁ……」


 思わず本音がれる。


「え。僕、顔良いんですか?」


「何人もたぶらかしてそうな顔して何言ってんだか」


「へへっ、そうなんだ」


 くすぐったそうな引き笑い。


「そうだよ」


「わっ」


 弟がいたら、こんな感じだったのだろうか。柔らかい彼の髪を、できる限り優しく撫でる。


「ちょ、子供扱いは」


「いいから」


「……」


「いいから、さ。もう少し、こうさせて」


 優しく子守歌のようにささやきかけると、彼は素直に従ってくれた。


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