第5話 徒花の制騎士

 男は、ジグムント・フィリアという。


 薄い金色の長髪を垂らした眉目秀麗びもくしゅうれいの騎士であり、イデア制騎士団にて団長を任されている。


 数多の敵をほふり、功績を打ち立てた最強の魔術騎士は……


「ふつくしい……」


 そう呟いてしまうほどに、綺麗なモノを見た。


 血に汚れた鎧。

 燃えるような赤い髪。

 目の前に転がる花の死体に目もくれず、『次の敵は?』とにらむ鋭い瞳。


 そして何よりも、彼女は『騎士』だった。


 「すごいな……」


 魔術で飛行し、上空からうかがっていた敵国の一部隊。どうやら仲間割れを始めたようで、一人の騎士を取り囲んでいる。


「掛かって来い! 私は逃げも隠れもしないぞ!!」


 少し高い声。

 まだ成人してもいないのだろうか。


 その騎士は多対一で怯まず、あまつさえ老兵を助けている。退かず、びず、かえりみず。


「…………」


 その姿は、正しく騎士だった。


「私は……どうだろうか」


 答える者はいない。

 別働隊を殲滅せんめつした部下たちはまだ戻ってこない。


 自らの杖を握る手を見る。


「ははッ、震えてる」


 戦場は、いつまでも怖くて。臭くて。汚くて。慣れる事なんてありはしない。言われるがままに、手を汚す自分は決して騎士とは呼べない。


「でも……」


 寝物語に聞いた騎士に憧れた。

 人を救い、おのれの正義の為に戦う騎士。


 そんな騎士が目の前にいる。仲間だったであろう奴らは卑怯な手を使い、彼を殺そうとしているのに、自分はただ見ているだけ……


「団長、戻りました」


 任務を終えた部下が戻って来る。


「あぁ……」


 『団長』。

 自分には相応しくない称号だと気付いた時には、もう動き出していた。


「咲き誇れ!!」


 簡略化した魔術の詠唱。

 人体を苗床とし、その命を花に返るジグムントの魔術。


 母から貰った命以外の唯一のモノ。


 あの騎士と話してみたい。

 そう思えば、魔術コレを使う事に躊躇ためらいは無かった。





「まぁ、その騎士殿が女性だとは思いませんでしたよ」


 ジグが案内するままに、彼の寝泊まりする建物へ行っている。空中庭園の直下にあるらしく、清王陛下への挨拶のあと


 彼の求婚の理由を聞くことができたワケだが……私を正しくだと思ったから、か。


「悪い気はしない……けどさ」


「え、何て言いました?」


「何でもない!」


 顔がにやけそうになるのを必死にこらえる。


「あの……ジグムント様」


「なんか急によそよそしくなってる?!」


 清王にあって、あることに気付いてしまったのだ。


「もしかして、清王様の親戚だったり?」


「まぁ、息子ですけども」


「王子じゃん!!!!」


 名前に国名が入ってたからもしやとは思ってたけれども。


「でも血が繋がってるだけで、あるのはイデア制騎士団の指揮権限だけですよ?」


「そ、そうなの?」


 それだけでもあのチート騎士団動かせるなら、充分な気がするが……


「着きました。ここが私の家です」


 目の前に現れたこの世界で一般的な木造の平屋住宅。


「あ、ちゃんと部屋は二つあるんでご心配なく」


「……ありがと」


 この国に来てから感じている違和感。

 私はそれを払拭ふっしょくしきれずにいた。


 



 


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