第12話 遺書

 何の変哲へんてつも無い夜だった。


「ヴィオラ殿!!」


 その日。

 『仕事があるので』と、ジグは王城へ向かった。その数刻後だったと思う。


「こ、これ」


 いやに取り乱したアレハンドロが、渡して来たのは一枚の手紙。丁寧に作られた、上質なものだった。


「えっ…………」


 ジグらしい、装飾された言葉の数々。

 その主題は、いかなる美辞麗句びじれいくを持っても隠せない。


「噓でしょ?」


 だって、その手紙は。


「噓だって言ってよ!!」


 つまるところ、遺書なのだから。




 親愛なる騎士、ヴィオラ・バスガル殿へ。




 まず、約束を守れず申し訳ありません。

 この非礼をあがなう事ができないことをお許しください。


 今朝、清王陛下より拝命はいめいいたしまして。私、ジグムント・フィリアは死ぬことになりました。


 あなたのお兄様、ガンジャ・バスガル殿を討ち取らんがため。この命を持って、大魔法の行使します。


 あなたのご兄弟を、手にかけなければならないこと。許されない。許される訳がない。どうか恨んでください。


 こんなこと、したくない。


 




 ヴィオラ。

 あなたともっと話したかった。

 まだ、全然話たりない。


 もっと笑っていたかった。

 やっと最近、笑えるようになったのに。


 あなたが綺麗と言ってくれた、この魔術は最低最悪の徒花あだばなでした。あなたが褒めてくれたこの国は、どうしようもなく狂っていました。


 あまりにも無力なこの身では誰も、自分自身でさえ救う事はできませんでした。



 僕はに、なれませんでした。

 でもアイツらは違う。仲間たち、制騎士たちはアイツらは騎士であろうとしてる。お願いだ、ヴィオラ。アイツらを連れて逃げてくれ。


 魔法実験の影響で、僕もアイツらも長くは生きられない。制騎士は三十歳までにみんな死ぬ。去勢され、家畜のように生きて来た。せめてアイツらに、人間らしい最後を迎えさせてやってください。


 

 


 会いたいよ。


 




 せめて、最後は手紙らしく。みっともなく書き散らしてしまって今更かもしれませんが。どうかほがらかに。僕も負けずに、ほがらかに笑って最後とさせていただきます。


 最後にこんな形でしか、伝えられなかったことをどうか許してください。






 ヴィオラ。愛してる。








 震える字で、書き殴られていた。

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