暴け!アリバイトリック

 雨の中、魔王様の死体は城の周りに設置された花火の発射装置に突き刺さっていた。駆けつけたレッドはあまりの光景に膝から崩れ落ちてしまった。


「父上……体調不良とはいえ、先程まで確かに生きてらしたのに、会話を、したのに……」


 小刻みに震えるレッドに肩を貸して病院まで引きずっていく。

 その途中、蛇のような何かがシュッと素早い動きでズボンの中に潜りこんできたけど気にしていられない。蛇は足首の少し上あたりで大人しくなった。


「大変! 椅子に座らせてェ」


 医者狸族のポコナが、真っ青通り越して群青色のレッドの姿に慌てながら、医療用スライムを頭からかぶせた。ボコボコとして苦しそうだ。


「ああ、これねェ、過呼吸の治療なのよォ。自分の吐いた息を再び吸う事で落ち着くのォ」


 サトリの家系でなくても分かるほど動揺が顔に出ていたららしい。レッドの呼吸が整った。と思ったら目を閉じて静かになった。

 気を失ったレッドを病室のベッドに寝かせる手伝いをして、固く手を握る。バキバキに壊れてしまった心が、どこか遠くに消えて行かないように。


 このままレッドの心が闇に沈んだまま、立ち直れなくて死んでしまったらどうしよう。お父さんとお母さんに会いに行ってしまったら……。

 ぼくは世界でひとりぼっちだ。



「……トリィ、父上の為に泣いてくれるのか。ありがとう、少し落ち着いた」


 いつの間にか目を覚ましていたレッドが、ハンカチで涙を拭いてくれた。レッドは探偵として事件を捜査する事にした。


 雨は止んでいた。発射台からは死体がどけられている。


「他の凶器は落ちていない。発射台に刺さった事が死因なのだろうか……いや、別の武器で殺してカムフラージュの為に発射台に落とした可能性もある」


 レッドは手の平から炎を出して、大鎌デスサイズの形にした。メラメラ燃えて熱そうだ。


「トリィ、鍛錬を積むとこのように自身の得意魔法で武器を生み出せる。このまま使う事も出来る」


 レッドは炎の大鎌デスサイズで近くの木に斬りかかる。鋭い切れ味で真っ二つにすると、切り口からメラメラと燃えていく。


「犯人は、この木と同じ運命だ」


 鎌で切られるのは痛いだろうなと思ったら、近くの木に隠れていた。


「すまない、君は大鎌デスサイズが嫌いだったな」


 レッドは次の現場に向かう。祭壇の間だ。

 王族以外は雷の結界でやられてしまうからと廊下で待たされているけど、本当かな。気になってドアを軽く押したら普通に開いた。チラッと中を覗く。


 おそらく歴代の魔王様なのだろう、肖像画が並んでいる。パイプオルガンが置かれて、花が飾られて、香が焚かれている。魔王様の死体がベッドの上に置かれている。

 怒られないうちにそっと閉めた。

 しばらくして出てきたレッドは「間違いなく魔法の武器で体を貫かれている」と言った。


 レッドは爆発音がした時にどこに居たのかを聞いて回る。みんな複数で仕事に当たっていて、フリーだった者はいなかった。

 会議室を覗くと、クマ男が忙しそうに指示を出しているのが見えた。魔王様のお葬式の準備をしているみたい。


「次で最後だ。気合いを入れて行く。おそらく本当の殺害現場だ」


 ついたのは魔王城の屋上。凹の形に囲まれている場所だ。雨にほとんど流されているけど、低くなっている部分に血の跡が残されている。


「しばらく死体をここに置いておいたようだ。落ちないように何か細工をしたか……」


 足元には何か硬いものを踏み砕いたような細かい欠片が落ちている。レッドは手に取り苦々しく呟いた。


「音魔石だ」


 言葉や音を録音・再生できる、最近魔界で流行りの魔石だ。手紙の代わりや仕事の指示にも使える、誰にでも手に入るもの。


「探偵としてあるまじき失態だ!

 事件後すぐにここに来ていたら、アリバイトリックの証拠を掴めた。気を失っていたせいで犯人に隠滅のチャンスを与えてしまった!」


 血が出るほど壁を叩いているレッドを止めようと声を出すと「あ"」と濁った音がした。

 卵の効果が切れて、再び声を失ったんだ。

 悲しくなってしまったぼくを、レッドは黙って抱きしめてくれた。

 水平線に太陽がだんだん近づいていく。クマ男の髪と目のようなオレンジ色の空だ。


「今の証拠が無い以上、過去に賭けるしかない」


 レッドは黒龍ジェノサイドテールを呼んで、ぼくも乗せてくれた。行先は──魔海上保安庁──。

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